天国への階段:スーツ編
「バンドを組まないか?」
あのバーでのライブの後、俺は真っ先にそう言った。
そうなればいいな、という楽観的な言葉だったけど、今の一瞬を分かち合った奴らなら、頷くという確信がどこかにあった。
「うん、いいよ」
簡単な言葉だが、間髪入れずに答えを返してくれたのはボーカルの女性。
なんかこう、夜のお仕事って感じのひらひらした服を着ている。
「私も!」
その言葉に反応したかのように思いっきり手を挙げたのはベースの女性。
ボブっぽく清潔に切りそろえられた黒髪にスーツ。
それだけ書くと真面目そうなのだが、これがどっこい底抜けに明るい。
っていうか、幼い。
「じゃあ、俺もやるしかないだろ」
そう言ったのはドラムの男性。
タンクトップから生える厳つい腕、日焼けした顔がいかにも肉体労働系。
ついでに脇からはみ出た脇毛がセクシー。
ていうか、整えろよ、脇毛。
こうして俺らのバンドは結成したのだ。
と、ここで締められたら綺麗な話なんだけど。
その後バンド結成祝いだと、マスターからのサービスドリンクで乾杯したのだ。
よりによって天国への階段。
前述した通り、馬鹿強いのだ。
んで、ベースの娘が
「ぶっ」
と一気に口に入れた途端に吹き出して。
俺のスーツはこんな様。
と、着の身着のまま寝てた俺は、安アパートの一室で惨めにも思い出していたのだった。
あーあ、金曜で良かった。
そして俺の一張羅は馬鹿強い酒の所為で色落ちが激しく、天に召されたのでした。
南無。




