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モラハラ婚約者の目の前で、王子様にプロポーズされました

作者: セトガワ
掲載日:2026/03/13

 王城の中庭に、新しい区画が造られたらしい。


 らしい、で済ませたのは私——リナリー・フォルジアには本来あまり縁のない話だからだ。

 公開一ヶ月は子爵家以上の者しか入れず、男爵家の娘である私は対象外。

 貴族の端くれとはいえ、こういう時にきっちり線を引かれるのがこの世界。

 だから私はいま、少しだけ機嫌が悪い。


「本来なら、君のような男爵家の娘が足を踏み入れられる場所じゃないんだ」


 目の前で偉そうに顎を上げる婚約者、アレジオ・ブスマンのせいで。


「この僕のおかげで入れるんだ。おめでとう、リナリー」


 はいはい、恩着せがましいですね。

 その台詞、もう三回目ですけど。

 壊れたラジオかな?

 私は笑顔を貼りつけて、軽くスカートを摘まんだ。


「ええ、本当に。伯爵家の婚約者を持てて、私は幸せ者ですわ」

「そうだろうね、はははっ!」


 うーん、嫌味が通じないタイプだった。

 知ってたけど。


「さあ、到着したね。王城が僕を待っていたかのようだ!」

 

 馬車から下りた直後、このセリフ。

 恥ずかしいってレベルじゃないよ!

 

「勘違いしないでくれ。君が見物できるのは、僕に付き添う立場だからだ」

「……ええ」

「勝手にうろつくなよ。展示物にも触るな。余計なことを喋るのも駄目だ。黙って僕の後ろを歩いていればいい」

「犬のように」

「違う、鎖に繋がれたメス犬のように」


 さらっと言うねぇ。

 この男、よくもまあ毎回毎回、こんなにも自然に人を下げられるよね。

 日本なら、モラハラ認定一発退場だよ。

 ちなみに私の中身は、氷川梨奈という二十五歳の会社員だ。

 前世では働いて、オタ活して、ネット小説を読んで、ちまちまと投資もしていた。

 貯金が三百万を超えて浮かれていた翌朝、交通事故で死んだのだけは、いまだに納得していない。


 リナリー・フォルジアが病気で死んだ日、私の魂がこの体に入って転生した。

 神様からのギフト——感謝ポイントをもらって。

 誰かに感謝されるとポイントが入る。

 そのポイントを使えば、前世の世界の品を取り寄せられる。

 超便利な力だ。


「僕はブスマン伯爵家のアレジオです。知ってますよね、ブスマン家?」

  

 王城の前、石造りの高い門の前でアレジオは係の人にドヤ顔をする。

 

「ハァ……。招待状はありますか?」

「あるに決まってるでしょう。ブスマン家ですよ」


 いつもの調子でアレジオは招待状を見せ、いかにも慣れてますといった顔で進んでいく。

 私はその少し後ろに続いた。

 反抗的な犬の顔で。


「リナリー・フォルジア様は付き添いとしてご入場を許可します」

「ありがとうございます」


 係が通してくれて、ほっと胸を撫で下ろす。

 するとアレジオが振り返りもせずに言った。


「思ったより人が多いな。ほら、急ごう」

「待ってくださいませ、裾が——」

「その程度も捌けないのか?」


 ひどっ……。

 せめてドレスの裾くらい見てほしい。

 階段とか段差とか、絶妙に歩きづらいんだよ異世界の礼装って。

 しかもアレジオは手を貸すどころか、さっさと先へ行く。

 彼には歩調を合わせるなんて考えはないのだろう。

 私は転ばないように必死で追いかけた。


 中庭に入ると、白い石畳の先に、ガラス張りの温室が陽光を受けてきらめいていた。

 中央には円形の噴水があって、その周囲には色鮮やかな花々が咲き誇る。

 異国風の素敵な意匠があちこちに施されていた。

 ああ、たしかにこれは公開したくなるよね。

 貧乏男爵家では絶対に見られない景色だった。


「きれい……」


 思わず漏れた声に、アレジオが鼻で笑う。


「当たり前だろう。王家の財と技術が注ぎ込まれているんだ。君の家の荒れた庭とは違う」

「いちいち比較対象が刺々しいですね」

「事実を言ったまでだ」


 事実でも言い方ってものがあるんだよなぁ。

 でも悔しいことに景色は本当に美しかった。

 私は説明札を読みたかったのだけど、アレジオはそれも許さない。


「遅れるな」

「少しくらい見ても——」

「僕が説明してやる必要もない程度の内容だ。ほら、行くよ」


 そう言って、彼は私が抱えていた小さな手荷物袋をさらに押しつけてきた。

 さっき買った記念冊子と、彼の手袋、そして見学途中で受け取った案内紙。いや自分で持て。

 私がむっとしながら袋を持ち直すと、アレジオは気にも留めず歩幅を広げた。


 温室を抜け、噴水広場を見て、少し進むと人の流れが落ち着いてきた。

 貴族たちの多くは華やかな中央側へ集まっている。


「人が多いのは煩わしい。彼らはなにが楽しいんだ」

 

 アレジオはそう言って、裏手の回廊へ向かい始めた。

 その途中だった。

 回廊の石壁にもたれるようにして、一人の青年が座り込んでいるのが見えた。

 粗末ではないが質素な服。色味も地味で、ぱっと見は平民か下級役人あたりだろう。

 ただ、奇妙に目を引かれた。

 座り方は少し無造作なのに、どこか品がある。

 髪は乱れているのに、不思議とみすぼらしくは見えない。

 私と同じ、男爵家くらいかもしれない。

 青年は片膝を立てて座り、こちらに気づくと、力なく笑った。


「やあ。悪いね、道を塞いでたよな」

「どうかしました?」


 私が反射的に尋ねると、アレジオが露骨に眉をひそめた。


「関わるな、リナリー」

「ですが」

「見るからに不審者だろう」


 ひどっ。

 たしかに怪しいけど、言い方があるでしょう。

 しかも本人の前で。

 アレジオは青年を見下ろし、露骨に衣服の裾を払った。


「どうして、こんなやつが城に入れたんだ?」

「……」


 青年は答えず、ただ目を細める。

 その沈黙に、アレジオはさらに調子づいた。


「さしずめ、どさくさに紛れて入り込んだんだろう。警備も甘くなったものだな」

「アレジオ様っ」

「君は黙っていろ。こういう手合いに情けをかけるとつけ上がる」


 吐き捨てるように言って、彼は私の腕を軽く引いた。

 引き寄せるというより、邪魔なものを動かすみたいに雑な力加減だ。

 痛くはないけど、地味に腹が立つ。

 青年はそこでようやく口を開く。


「少し歩きすぎてしまってね。休んでいただけなんだけど」

「なら使用人にでも声をかけろ。こんな場所で座り込むな」

「それもそうだ」


 フッと笑う青年の声音は、なぜだか余裕があった。

 本当にただの平民で忍び込んだなら、こんな態度は取れない気もする。

 けれどいまはそこよりも、彼の顔色の悪さが気になった。

 額にうっすら汗が浮いている。呼吸も少し浅い。

 しかも……グゥゥゥ、とけっこう立派なお腹の音がした。

 私は青年と顔を見合わせた。


「お腹、空いてます?」

「……少しだけ」

「少しじゃなさそうですけど」

「バレたか」


 青年が肩をすくめる。

 アレジオは露骨にため息をついた。


「平民が腹を空かせているなど珍しくもない」

「珍しくなくても、目の前でへばってる人を放置するのは後味が悪いです」

「君は少し人が良すぎる。こんな奴にはその辺の蟻でも食わせてればいい」

「さっきから言い過ぎですよ」

「ふん」


 最高に機嫌の悪いアレジオの横で、静かに私にだけ見えるウインドウを開く。

 

 総ポイント 18400P

 

 感謝ポイントは、それなりにある。

 多少なら使っても問題ないね。

 目立たない品で、食べやすくて、説明もしやすいもの……


 どら焼き 220P

 冷たいほうじ茶 180P


 どうせなら、日本由来のものにしよう。

 私は手荷物袋の陰に隠すようにして、どら焼きの包みと冷えたほうじ茶を取り寄せた。

 異世界の人には少し奇妙に見えるかもしれないが、今はそんなことを言っていられない。


「よかったら、これをどうぞ」

「……俺にくれるのかい?」

「倒れられると寝覚めが悪いので」

「優しいな」

「いえいえ。面倒ごとの回避ですよ」


 冗談交じりに言うと、青年がくすっと笑った。

 私はどら焼きの包みを開け、お茶を差し出した。

 彼もアレジオも、珍しそうに見ている。

 

「初めてみたな……」

「私の両親の故郷の品なんです」

「へえ。なんていう国?」

「日本っていうんですけど……」

「ニホンは、知らないな。俺は色んな国に行ったことあるんだけどな……」 


 私はどら焼きを彼に差し出す。


「毒ではありません。先に、私が食べてみます?」

「いや、そこまで警戒はしていないよ」


 青年は、ふわりとした丸い菓子をまじまじと見つめた。


「これは菓子だよな?」

「はい。生地の中に甘い餡が入っています」

「餡?」

「豆を甘く煮て、潰したものです」

「豆を?」


 青年がちょっと驚いたように眉を上げた。

 わかる。前世でも、外国人だと豆で甘いお菓子? ってなる人いるもんね。

 

「小豆っていう小さな豆で作るんです。ほくほくした感じを残す作り方もありますけど、これはなめらかに練った餡ですね。甘いけど、ただの砂糖菓子みたいな感じじゃなくて、豆の風味があるんですよ」

「へぇ……面白いな!」

「好みは分かれるかもしれませんけど」

「いや、興味が湧いた!」


 青年は一口かじると、ぱちりと目を見開いた。


「……美味い」

「でしょう?」

「柔らかい生地に、この甘さは合うんだな。しかもくどくない」

「豆だからですかね。あと、生地が少ししっとりしてるので食べやすいんです」

「相当に考えられてるな……」


 えらく真面目に感心している。

 なんだか面白くなって、私は少し笑った。


「こちらもどうぞ」

「これは?」

「ほうじ茶です。お茶の葉を炒って、香ばしくしたものですね」

「炒る?」

「はい。普通のお茶より香りが立ちやすくて、少し落ち着く感じがするんです。渋みも比較的やわらかいので、甘いどら焼きと一緒でも合いますよ」


 青年は慎重に飲んで、今度はもっとはっきりと目を見開いた。


「……本当だ。香りが面白い。草っぽさより、もっと温かい感じがする」

「焙じてあるので」

「しかも冷たいのに、妙にほっとするな」

「気に入って頂けて嬉しいです」


 ここでアレジオが、完全に面白くなさそうな声を出した。


「リナリー。それ以上、そんな者に食べ物を与える必要はない」

「いま与えないと、そのうち床で行き倒れになるかもしれません」

「使用人に任せろ」

「いま目の前に困ってる人がいるのに?」

「優しくする相手は選ぶべきだ」

「私は別に、上も下もなく、空腹の人を見てるだけですけど」


 自分でも少し言い過ぎたかなと思ったけど、アレジオは不快そうに鼻を鳴らしただけだった。

 青年はどら焼きとほうじ茶を交互に口にしながら、楽しそうに私を見る。


「君は変わってるね」

「よく言われます」

「その婚約者は怖くないの?」

「怖いですよ。いまも横で圧がすごいですし」

「なのに助けてくれるんだ」

「怖さより自分の気持ちを優先しました。放っておけないですし」

「でも彼の言うように、怪しい男かもしれない」

 

 私は彼の耳に口を近づけ、アレジオに聞こえないように、


「いまのところ、いちばん怪しいのはあなたより婚約者の言動です」

「あははっ!」


 青年が声を上げて笑った。

 アレジオの眉間に皺が寄った。


「まあ、でも本当に怪しかったら、その時は逃げます」

「つれないなー」

「どら焼きもお茶もあげたんだから、それで十分でしょう」


 青年は少しだけ顎を上げて私を見た。

 その目はからかうようでいて、妙にまっすぐだった。


「君は、リナリーって言うのか?」

「リナリー・フォルジアです」

「覚えた」

「そちらは?」

「いまは、ただの腹ぺこな旅人ってことにしておこうかな」

「城の中に旅人がいる時点で、だいぶ設定が苦しいですね」

「鋭い」

 

 彼が指をパチンと鳴らす。

 いいタイミングで、バタバタと複数の足音が近づいてきた。


「——殿下!」

「第二王子殿下、お探ししておりました!」

「またそのようなお姿でお一人になられて……!」


 彼らが口々に、殿下と言葉を発する。

 ピタリ、と空気が止まった。

 で、殿下??

 さらにメイド服の女性と、数人の侍従が駆け寄ってきた。

 彼らは青年の前で膝を折り、深く頭を下げる。

 私は彼を見た。

 青年——いや、青年だった人は、どら焼きの最後のひとかけを口に入れてから、ふっと口元を緩めた。


「やれやれ、うるさい奴らだ。では、ここからは王子に戻るかな」


 その一言とともに、彼を纏うオーラが変わった気がした。

 座っているだけだったはずなのに、姿勢がすっと伸びる。

 砕けた笑みが消えたわけじゃない。

 でも立ち上がった瞬間、さっきまでのどこか品のある平民は消えていた。

 自身と気品に溢れた、紛うことなき王族に映る。

 アレジオは顔面蒼白で頭を抱える。


「だ、第二王子……殿下だと……?」

「ああ、そうなるな」


 軽い。

 さりげない返事なのに、アレジオの膝が砕けそうになっているのがわかった。


「しっ、失礼を……その、僕は……!?」

「本来なら不敬罪だろうな。アレジオだっけ」


 第二王子に名前まで覚えられたことに、アレジオは完全に動揺している。

 目を白黒させて、いまにも気絶しそうだ。

 張り詰めた空気が広がったが、王子は肩をすくめてそれを解いた。


「とはいえ、今回は俺も変装していた。身分を隠していたのはこちらだし、それを理由に咎めるのも野暮かな」

「あ、ありがたき……」

「それに」


 王子の視線が、私を捉えた。


「リナリーが素敵すぎて、叱る気もだいぶ削がれてしまった」


 エッ……。

 私が固まる横で、アレジオががたっと音を立てて後ずさる。

 侍従たちは一瞬だけ驚いた顔をしたが、さすが王城勤務、すぐに無表情へ戻った。

 訓練されてるね〜。


「身分で人を測るのは簡単だ。でも、正体もわからない相手に食べ物を分けてくれる人は、そう多くない」

「……恐れ入ります」

「アレジオの言うとおり、危うくはある。でも君はそれを回避する賢さも備えている」

 

 ほ、褒めすぎでは?


「しかも美味しかった。どら焼きも、ほうじ茶も。あれは忘れられそうにない」

「お気に召したならよかったです」

「どら焼きには、豆を甘くした餡が入っているんだったな?」

「はい。小豆という小さな豆です」

「ほうじ茶は、葉を炒って香りを立たせた茶」

「ええ」

「面白い! 味だけでなく、知らない話を聞くのも楽しい」

 

 殿下は屈託のない爽やかな笑顔を浮かべる。

 対照的に、アレジオは顔面に恐怖と絶望を貼り付けていた。


「で、殿下と知らず……だから僕は……」

「知っていたら、もっと丁寧に追い払った?」

「いえ……!?」

「まあ、冗談だ」


 あんまり冗談に聞こえない。

 内心、だいぶ嫌っているよね。

 というか、もしアレジオが処分されたら、私も巻き添え食らうのでは?

 そう考えると、私も命拾いしているのか。


「俺は、もうすぐ外交で他国へ発つんだ」

「そうなのですね」

「しばらくこの国を空ける。でも、戻ったらまた君に会いたい、リナリー」

「私、ですか?」

「君に」


 彼は私の手を握り、熱っぽい瞳で見つめてくる。

 婚約者が隣にいるんですけど!? 

 しかもいま、死にかけの魚みたいな顔してるんですけど!

 パクパクしている口に、なにか放り投げたいです。

 殿下はアレジオに背を向け、私にだけ聞こえるように囁く。


「あんな奴とは婚約破棄して、俺と結婚してくれないか?」


 さすがに、初対面でプロポーズは予想外だ。


「冗談が過ぎますよ、殿下」

「いや、俺は人を短時間で見抜くのが得意なんだ。君がタイプだ」

「だとしても、お受けできません」

「理由は?」

「本心はどうであれ、私はアレジオ様の婚約者であること。それに初対面でその人の全てを見抜く自信は、私にはありません」


 いや本心はね?

 アレジオと婚約破棄できるなら、靡きたい気持ちがだいぶあるよ。

 でも梯子外されたら最悪だし、ここは慎重にいく。

 殿下も納得したようにうなずく。


「やっぱり、俺の目は狂ってないな。じゃあ、今度はもっと落ち着いた場所で話そう。どら焼きも、ほうじ茶も、もう一度ほしい」

「あっ、食べ物ですね」

「もちろん、君に会うための口実だけどな」

「……覚えておきます」

「俺のこと、忘れないでくれると嬉しい」


 王子は振り返って、アレジオを見やる。

 敵愾心がこもったような表情で。


「婚約者は大切にした方がいいぞ」

「え……」

「手放したあとで価値に気づくのは、滑稽だからな」


 殿下の目は、刃みたいに鋭かった。

 アレジオが小さく喉を鳴らす。

 もう思考が働かないだろう。

 今日の彼の精神は終わっている。


「またな、リナリー!」


 王子は快活に挨拶すると、侍従たちを伴って去っていった。

 私は頭を下げ、背中を見送る。

 途中で一度だけ振り返り、王子は軽く手を振ってきた。

 その後、すっかり静かになった回廊に私とアレジオだけが残された。

 沈黙がやたら重い。


「アレジオ様?」

「……帰るぞ」

「はい」

「いまのことは」

「はい?」

「一旦、忘れよう……」


 もう忘却モードに入ろうとしてる。

 切り替え早いな。

 でも体の方はすぐにはついていかない。

 顔色が真っ白だ。

 帰りの馬車でも、アレジオはブツブツとずっとなにかを呟いていた。


「忘れよう……一旦忘れよう……。あれは悪夢だ……。変装していた王子が悪い……。どら焼き……いや、違う、忘れろ……」


 頭、イッちゃったかな?

 もう、だいぶ壊れてるね。

 私はそんな彼を見ながら、手荷物袋に手を隠して、ウインドウを開いた。

 あるブツを取り寄せる。

 よし。

 私はそれを取り寄せて、にっこり微笑んだ。


「まあまあ、許してもらえたのですし、もう大丈夫ですよ」

「……」

「これでも食べて落ち着いてください」


 例のアレの包みを差し出す。

 アレジオが、おそるおそるそれを見る。


「これは……」

「どら焼き、殿下もお気に召していましたし」

「だから思い出させるなぁぁああああああ!!」


 馬車の中に絶叫が響いた。

 アレジオはどら焼きを見た瞬間、座席の端まで逃げて縮こまる。

 大嫌いな虫でも見たかのような反応だ。

 彼の中ではもう『王子に気に入られた忌まわしき食べ物』として認識されてしまったらしい。

 美味しいのに。


「落ち着いてください。甘いものは心に良いですよ」

「いらない! いまは甘いものなんて食べたくないんだ!」

「そんな化け物みたいに怯えなくても。ほうじ茶もあげますから」

「やめろぉぉ! 僕の前から、そいつらを消せぇぇぇ!!」


 私は吹き出しそうになるのを堪えながら、どら焼きとほうじ茶を美味しくいただく。

 この二つを生んでくれた日本に、感謝ポイントあげたいね!



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― 新着の感想 ―
続きがここにあった!
これは案外良いコンビ ってか強いw ダメ旦那をうまく転がしてくれる奥さんって良いですよね 割りとこの二人の関係性は好きw
続編嬉しい! モラジオにはリナリーは勿体ないので、第二王子と幸せになって欲しい…!第一じゃないし、王子が降下するかリナリーを高位貴族の養女にすれば何とかいけないかしら
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