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首都 名古屋爆誕  作者: 雨宮 徹


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1/3

ある居酒屋にて

 今日は4月1日。僕の社会人人生の始まりである記念すべき日だ。それも、首都の名古屋勤務だから、両親も喜んでくれた。課長は人当たりが良く、歓迎会を開いてくれた。――と感慨に浸っている場合ではなかった。課長が何かをすすめてくる。



「おいおい、お前遠慮するなよ! ほら、名古屋と言えば手羽先だろ?」



 僕は上司の半ば強引なすすめで、手羽先を口にする。どうやら、僕は偏見を抱いていたらしい。この絶妙なピリッとした感じは癖になる。手がベタベタになるのが難点だけれども。



「そう言えば、岡田は東京出身だろ? 田舎ではないが、こっちと比べれば人口は少ない。電車の満員具合なんかも、比にならないだろ? どうよ、名古屋の洗礼は」



 僕は手羽先を口に含んだままだったので、首を縦に振って同意を示す。



「だよなぁ」



「課長、あのー、とんかつソースが見当たらないんですが……」



「は? 何言ってるんだよ。とんかつといえば、味噌一択だろ。ほら」と味噌が入った容器を渡してくる。



 課長は当たり前のように言うけれど、東京ではソース派だった。名古屋で勤める以上、味噌文化に慣れなければ、お客様との接待で恥をかくに違いない。僕は渋々味噌をかける。



「そうだ、ちょっと表に行ってくるわ」



 課長はタバコを吸う仕草をする。



「はい」



 しかし、しばらくしても課長は戻ってこない。やっと帰ってきたと思ったら課長は手に花をたくさん持って戻ってきた。花で何をするんだろうか。



「ほら、岡田。これやるよ」



「課長、今日は歓迎会ですよね? 花を用意するのは送別会だと思うんですが……」



 課長は「そうだな」と一言。



「いや、花を用意してもらったのが、嫌なわけじゃないんです」



「花を用意? いや、これはそこから持ってきたんだけど」



 課長が指さしたのは、最近オープンしたらしいお店だった。しかし、そこは花屋ではない。ここと同じく居酒屋だ。よく見ると、お祝いに飾られた花の一部がごっそりと抜けている。間違いなく、あそこには手元の花があったに違いない。



「課長、酔っ払いすぎですよ。勝手に花を持ってきちゃ、ダメですって」



 課長は首をかしげたが、すぐに納得したらしい。



「俺は酒に強いんだ。酔っ払っちゃいない。これはな、名古屋では当たり前なんだ。もちろん、店員に断る必要があるけどな」



 課長によると、新しくオープンしたお店から花を持ち帰るのが当たり前らしい。なんでも、オープンした店の花がすぐになくなるのは、繁盛している証らしい。僕は一生懸命に覚えた。



 その後も、僕は様々なことを教えてもらった。エビフライという言葉は間違いで、「エビフリャー」が正しいということ。「です」という語尾は誤りで「だがね」が当たり前であること。どうやら僕は素晴らしい上司の部下になったらしい。



 二次会も終わり栄の繁華街を歩いていると、涼しい風が僕を包み込んだ。そうだ、休みの日に東京へ帰ったら、両親にこう言おう。「エビフリャーには味噌が当たり前だがね」と。

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