ep83 四方攻めの調理場
さて……とりあえずはビーナとの密談も終わったので、部屋の外で騒いでいるゴブリン達を処理しなくては。
魔石の反応から、奴らは数がきれいに分かれている。
部屋の中心から近い方の入口には20匹ずつで、遠い方には30匹ずつだ。
これには意図的なものを感じるが、ビーナによれば
「遠い方の入口からは、遠距離攻撃をしてくる奴が"例外個体"として現れる場合もあるのよ」
とのことだった。
なるほど、距離を有効に使われることもあるのか。
そういった魔物のために"遺跡"がこんな形の部屋になっているとかは……流石にないよな。
単に、長距離攻撃をできる個体が自分に有利な位置を確保しているだけだろう。
「で、連中はどう始末する?」
ララはそう聞いてくるが、ビーナもいるし窒素での攻撃は気軽にできるものだと認識されたくはない。
詳細は伏せつつも、あれはあくまでも奥の手だという説明をしたからな。
となれば……入口を1つずつ開けて処理するしかないか?
すると、ここでビーナが忠告する。
「流石にここまで騒がれてると、誰かが助けるか荷物を狙って来たりするかもしれないわ」
「じゃあ、なるべく急いで片付けたほうがいいか」
ゴーレムでの戦闘自体は見られてもいいが、ハイエナを目的とした連中に関わるのは極力避けたい。
そう考えた俺は、四方の入口を同時に開放することにした。
入口の前にゴーレムとして石柱を出現させ、その側面には2対の石棒を上中下と生やしておく。
それを高速で回転させ、入口から入ってくるゴブリン達を横に薙ぎ払おうと考えたのだ。
俺達は部屋の中央に待機したまま、一応は戦闘態勢を取って連中を招き入れる。
フッ
「「ッ!?ギャギャアァッ!」」
ダダダダッ
目の前の石壁が消えると勢いよく乗り込んでくるゴブリン達だったが……
ババババババ……
バシュッ!
「ギャアッ!?」
グシャッ!
「ギッ……!?」
「「うわぁ……」」
ララとビーナが揃ってそんな声を漏らす。
ゴブリン達は部屋に入ると同時に、体をバラバラに刻まれながら横方向へ撒き散らされていた。
今のところは問題ないが、血飛沫を警戒して薄い水の壁を張っておいて良かったな。
中には匍匐前進で侵入しようとした者が出るものの、それも考慮して側面の棒を3段に分けていたので頭部を削られつつ吹き飛んだ。
「……」
グロいな、これ。
だが、回転している側面の棒は高速で動くせいかあまり見えていないようで、続々と突っ込んできてはバラバラにされていて効率良く殺せているとは思う。
グロいけど。
まぁいい。
連中はノーマル級ばかりなのか、突っ込んでくるか木の棍棒を投げてくるぐらいしかできていないので数はそこそこ減っている。
あとはもう少し待つだけ……と思ったら、連中は部屋に入るのを躊躇するようになった。
「グギギ……」
「ギャッ、ギャッ」
「ギャギギッ!」
悔しそうな顔と声のゴブリン達。
4つの入口では、連中はそれぞれ半数ほどになっている。
流石に危険だと理解したのか。
しかし、俺達が出現させたものだし全部片付けておきたい。
連中が俺達のことを諦めて散らばり、他の冒険者を襲ってしまうかもしれないからな。
となると、連中を部屋におびき寄せたいところなのだが……
「どうする?入口はそこまで広くないし、一箇所ずつ私が処理しようか?」
そう提案するララだったが、そこでビーナがこんな提案をする。
「あの、私が餌になろうか?」
「餌?どういう意味だ?」
「ほら、連中って女を欲しがってるみたいじゃない?だからいやらしい感じに挑発してみせればって思ったんだけど」
「ふむ」
言われてゴブリン達を見てみれば……確かに、総じて前を大きくし、腰蓑から露出させていた。
そこでビーナが性的に挑発しようかと言い出したのは、黒いオークの件で上手く行ったからだろう。
しかし、俺はそれを却下する。
「前にそれが効いたのは、敵が危険だと察していなかったからだ。この連中は危険だと理解したから足を止めてるんだし、同じ方法じゃ誘い込めないだろう」
「あぁ、そっかぁ……じゃあルルさんに任せる?私もアンタの護衛するし」
「うーん……いや、さっさと片付けたいからそれは最後の後始末にする」
「何か案が?」
そう聞いてきたララにこう返した。
「網を張る」
少しだけ準備に時間をかけ、ミキサーのような石柱を"格納庫"へ収納する。
フッ
「「っ!?ギャアァッ!」」
ダダダダッ
危険な存在が消え、ゴブリン達は再び部屋への突入を開始した。
「グギギギッ♪」
「ギャッ、ギャッ♪」
今回は何者にも邪魔されず、連中は俺達を目指して寄って来るが……その進みは若干遅い。
こちらの仕掛けに気づいたか?
そう思って周りを見れば……
「ギャギャッ?」
「ギャギギッ!」
遠い方の入口から入ってくるゴブリン達が入り切ったところで、俺達に近いゴブリンと声を掛け合っていた。
どうやら、俺達を逃さないために全てのゴブリンが部屋へ入るのを待っていたようだ。
「グギギギ……♪」
「……ジュルッ」
「「っ!」」
ララやビーナを獲物と見て楽しそうなゴブリンに、見られている本人達は言葉にせずとも不快感を露にする。
しかし……それはすぐに霧散することになった。
「じゃ、やるぞ」
グンッ、ドシャッ!
「ギッ……!?」
「ギャァッ!」
「ギイィッ!」
「「うわぁ……」」
再び呆れた声を漏らす2人。
今回実行したのは、天井全体に仕掛けておいた鉄の網でゴブリン達を押し潰して細断するという方法だ。
俺達が巻き込まれないよう網には穴が空いていて、その縁には円環状の魔石を仕込んであった。
これは全てのゴブリンを押し潰すための出力を確保するべく、しかしビーナに見られないように大きな魔石を内包させるためである。
で、この方法にしたのは……石壁を天井からというのも考えたが、それだと"遺跡"由来のぼんやりと緑に光る所が再現できないからだ。
その光が天井から発されていないことに連中が気づくかもしれず、それで逃げおおせるゴブリンが出るかもしれなかったからな。
まぁ、連中は俺達に近寄ったことで入口から離れていたし、逃げられたとしても少数になるはずだからララに追撃を任せられただろう。
しかし、結果としてそれは不要になり、残っていたゴブリン達はたまごサンドを作るときのゆで卵を潰したような姿になっていた。
周囲に魔石の反応はないが……俺が魔石を感知できることはビーナに秘密なので、含みを持たせてララに指示を出す。
「ルル、もういないとは思うが外の見回りを」
「……了解。ビーナ、部屋からは出ないほうがいいのかしら?」
「え?あぁ、しばらくは出ないはずよ。戦利品の回収をできるぐらいの時間はあるわ」
「そう。じゃあ行ってくるわ」
「あ、ここは大丈夫だけど、入口同士が外で繋がってないこともあるから覚えておいたほうがいいわよ。まぁ、地図があればわかるでしょうけど」
「了解」
ビーナの言葉を受け、ララはそう返すと外の見回りに行った。
するとビーナが俺に申し出てくる。
「ゴーレムの召喚には魔石が必要だし、なるべく全部回収したいわよね?手伝うわ」
「手伝うって、この中からか?」
俺は周囲を見渡しながらそう返した。
回転する石柱も押し潰す鉄の網も、ゴブリン達の全てを細切れにしている。
この中から魔石を探すのは、無理ではないが普通の方法では難しいはずだ。
俺と同じように周りを見たビーナもそれはわかっていたようだが、ならばどうするのかと聞いてきた。
「じゃあどうするのよ。見えてるものだけ拾っていく?」
「んー……いや、"手"で拾う」
「手?いや、私が言ったことと何が違うのよ」
「いや、こっちの"手"だ」
フッ
俺は土で出来た"手"を10体ほど出現させ、それを見たビーナは納得する。
「っ!あぁ、"手"ってそっちの……」
「そういうことだ。2人で探しながら集めるよりは早いだろうからな」
ブワッ
グチャッ、ヌチャヌチャッ……
スーッ、ポトポトッ
言うと同時に"手"を一斉に散開させ、指示を受けた"手"が魔石を拾っては俺の足下に落としていく。
ゴブリン達はバラバラだし、魔石をゴーレムの材料として集めればすぐに終わっただろう。
だが、俺ができるのはゴーレムの召喚だということにしてあるし、魔石をゴーレムの材料として集められるのは知られたくないからな。
魔石を材料として使える可能性に気づかれると、魔石の合成に思い至る可能性もあるし。
というわけで……それでもグチャグチャの死体から魔石を探すという工程を省くことができ、魔石の回収は程なくして終了した。
血塗れのそれを洗って乾かし、革袋に収めたところでララが戻って来る。
「終わった?」
「ああ。そっちは?」
「見た限りは特に何もなかったわ」
「そうか。じゃあ、他の"四方攻め"にも行ってみるか」
「えっ、他の?」
俺の言葉にビーナが疑問を持ったようだが、それにはこちらから聞き返す。
「何かまずいのか?」
「いや、同じ方法は何度も使えるの?他の部屋も同じぐらいゴブリンが湧くんだけど」
「問題ないな。魔石さえあればさっきの罠はゴーレムとして何度でも召喚できるし、"四方攻め"を処理できればまた多くの魔石が手に入るわけだからな」
その答えに彼女は納得する。
「あぁ、ゴーレムの召喚に魔石以外の条件はないのね。そうなると、少なくともこの階の"四方攻め"はむしろ稼ぎやすいってことかぁ」
「"例外個体"がいなければだけどな。遠くから仕掛けてくる奴がいれば逃げられるかもしれないし」
「"例外個体"が現れるとしても1つの部屋で1匹だし、アンタにとっては良い狩り場ってことに代わりはないわね」
「いや、黒いオークのような厄介な能力を持つ者もいるかもしれないから、気楽にってわけには行かないぞ?」
奴が持っていた"思考停止"という能力の効果を思い出し、嫌な顔をするビーナは聞き返してきた。
「あぁ……だったら何で他の部屋に行くのよ。危ないかもしれないなら行かないほうがいいでしょ?」
「魔石を稼ぐのもそうだが、ギルドの監視役としては新人や若手の損失を減らす役目もあるからな」
冒険者は一定の期間に何らかの仕事を完遂しないと登録が抹消され、再登録時には最下位のFランクからとなる。
しかし俺の場合、監視役としての仕事をしていれば冒険者として活動していると見做されて登録抹消までの期間が延長されることになっているのだ。
そんなわけで"四方攻め"の部屋を潰し回り、仕事をこなしているように見せかければ……"遺跡"の中で活動しているだけで監視役としての仕事を全うしているように見え、ランクの維持をしつつも"遺跡"に集中したい俺としては都合が良いということなのである。
もちろん、冒険者の被害を減らすことでそれに雇われる荷役の被害を減らす効果も狙っているが。
荷役は雇われる立場ということで様々な被害に遭いやすく、ギルド長のロザリンドも気にしていることだしな。
「なるほどねぇ。実力のある監視役が彷徨いていればそういう効果もあるか」
そうして、俺の説明に納得したビーナの案内で他の"四方攻め"を処理していくことになったのだった。
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