ep81 無料のガイドと初挑戦
朝の人混みをララと共に進み、"遺跡"へ入ろうとしたところでビーナが現れた。
彼女は俺が引き連れているゴーレムに驚き、その存在について尋ねてくる。
「あぁ、これは……」
と、言える範囲での説明をしようとすると……ビーナがそれを止めた。
「あぁ、それは後でいいわ」
「後で?"遺跡"から帰ってきてからか?」
「違うわ。"遺跡"の中に入ってからでいいってことよ」
「えっ?ついて来るのか?」
「そのつもりよ。だからちゃんと準備してるんだし」
確かに、彼女は武装した上で鞄も背負っている。
防具は旅の道中で購入した間に合わせの物ではなく、出会ったときに装備していた物と同じものに戻っていた。
"金戦華"の印が入っているので、その関係者であることは明らかになってるな。
予備の防具だからか、胸当てからその豊かな膨らみが若干はみ出しているが……まあ、揺れを抑えるために敢えて締め付けている部分もあるのだろう。
ともかく、こうして準備をしてきたビーナではあるが、防具の印で大手のグループに所属していることが明らかな彼女を連れて行って良いものか。
大手のグループなら有名であるし、そこの人間が外部の人間と"遺跡"へというのは引き抜きなどの誤解を招きそうなのだが。
俺が勧誘されるという誤解は、"金戦華"が女性のみのグループであるという時点でないだろうけど。
あ、ララのほうが勧誘されているようには見えるかもしれないな。
とにかく俺は確認する。
「準備してるって、大丈夫なのか?その……"金戦華"として」
そう聞くとビーナは俺の疑問を察して答えた。
「へ……?あぁ、大丈夫よ。護衛依頼で一部の人員が出向することは普通にあるし」
続けて、彼女は俺に近寄ると耳元で言葉を続ける。
「そもそも、今回は"上"からの指示でもあるのよ」
「……何でそんな事に?」
「うちがアンタに目を付けてるって周りにアピールするためね。他の大手や冒険者達、あとは商会なんかを牽制したいんでしょう」
「目を付けてるって……"金戦華"は女しか所属できないんだよな?」
「そうだけど、別に所属しなくたって協力関係にはなれるでしょ?要はアンタがうちとの関係を優先するって形を外部に見せておきたいのよ」
「つまり、他からのお誘いが来ないようにしようとしてるのか」
「まぁ、邪魔してるみたいな言い方だけどそういうことね。ただ、アンタの場合はそうでもしないとお誘いが山ほど来るでしょうから、それぐらいしたほうがいいって"上"は考えたのよ」
「なるほど」
ここまでの旅でも、周りの反応から俺の力が非常に高く評価されるものであることは明らかだった。
今までにチームやグループへのお誘いがなかったわけじゃないしな。
となると、冒険者が多いこの町では結構な数の勧誘があると予想され、ララのこともあって仲間を増やす気がない俺としては固辞するというただ面倒なだけのことが増える。
それを考えれば……こうして勧誘されるのを防いでくれるという対応は好都合でもあるな。
「ま、何かあったときに力を貸してもらおうって部分が大きいとは思うけどね」
「内容によっては別に構わないが……でもお前1人だけなのか?その目的なら数は多いほうが良いだろうに」
「それだと外部からは護衛やガイドの依頼を請けただけのように見えるでしょ?それじゃうちとの関係がその場限りに見えるじゃない」
「あぁ、確かにそうか」
護衛に含まれることもあるが……ガイドは"遺跡"の中を先導したりする仕事で、基本的には数人で引き受けてくれるものだと聞いている。
確かに、人数が多ければ俺とララはただの依頼人に見えるかもしれないな。
そう納得していると、ビーナはやや艶っぽい声で囁く。
「それで……関係もあるみたいだしって、私だけが派遣されることになったのよ♡」
「あー……それでか」
彼女を黒いオークから助けた際のお礼についてはギルド長の部屋で話していたし、あの時のベルガさんがあまり驚いていなかったことからそれ以前に話していた可能性がある。
となれば、グループとして俺への対応や方針を決める際にその件が報告されていてもおかしくはない。
"上の人"に会うことがあったら気まずいな……なければ別にいいが。
そう思っているとビーナはゴーレムを見て
「というか来て正解だったわね。こんなのを従えてるなんて、こっちが想定してた以上に勧誘が酷くなるかもしれなかったでしょ?」
と、ホッとしたようにそう言った。
これまででも十分多くの勧誘があると思ってきてみれば、それを更に増やしそうな要素があったのだから"上"の判断が正しかったことに安堵したのだろう。
「まぁ、な。だがそれはいいとしても、お前の扱いはどういった形になるんだ?」
「今回はこっちが勝手にやってることだから、無料のガイドだとでも思っておけばいいわ」
ガイド役はそれなりの実力が必要であり、1人でガイドの仕事を請ける者はかなりの実力者ということになり珍しいそうだ。
"金戦華"は所属しているのが女ばかりというのもあって、1人でのガイドは引き受けていないらしいが……だからこそ、俺達に1人で同行することは依頼されたようには見えないんだろうな。
俺はその上で確認する。
「ガイドねぇ。戦力としては考えないほうがいいってことか?」
「基本的にはそうね。ガイドって自分の身の安全が最優先だし」
ビーナはそう前置きしつつ、
「まぁ知らない仲じゃないし、それに今回は事情が事情だから必要なら手を貸すつもりではあるわ」
と、答えた。
元々借りるつもりではなかったし、ガイドとしてついて来てくれるのは悪い話ではない。
なのでビーナの申し出を受け入れようと思っていると……彼女はゴーレムを見つつ呟いた。
「ただ……ガイドだけで済みそうね」
ゴーレムについては隠さないことにした以上、断る理由もないので俺はビーナの同行を受け入れた。
ララは兜を外せる機会が減ってしまうが、本人が構わないとのことだったのでまぁいいだろう。
そもそも、どこに人の目があってもおかしくはないのでゴーレムで隠すつもりだったしな。
というわけで……前後をゴーレム2体ずつに挟ませ、俺達は"遺跡"へ入ることにした。
ズシッ、ズシッ、ズシッ、ズシッ……
トッ、トッ、トッ、トッ……
"遺跡"の入口である、幅の広い階段を降りる。
幅は広いが20段ほどしかなく、一番下から天井までは3mといったところだ。
一番下まで降りてみると、そこには四角い入口があった。
扉などはなく、壁にポコっと穴が空いているような感じである。
「ここからが"遺跡"の中……って言ってもすぐ近くに魔物はいないはずだけど、誰かが引き連れてきてる場合もあるから気をつけてね」
そう言って先行したビーナに続くと、この時点から通路が全体的にぼんやりと緑に光っていた。
中の通路は幅と高さが10mもなく、断面で見れば正四角形に見えるだろう。
上下左右は一目で人工物だと思えるほど平坦であり、夜の病院に似た雰囲気が感じられる。
「おお、本当に光ってるな。でも見えなくはないって程度か」
「そうね。だから余裕があれば灯りを持ってきたほうがいいわ」
「そうなると魔物に見つかりやすくなりそうだが……」
「どうせそれの足音で寄って来るでしょうから、アンタの場合は気にせず灯りを持っておいたほうがいいんじゃない?」
「あー……」
ズシッ、ズシッ、ズシッ……
ゴーレムの足音が重く響いているが、浮かせておくと魔石の魔力を無駄に消費してしまうからなぁ。
必要になったときだけ対応すればいいか。
そう思いつつしばらく進むと、"遺跡"の魔物と初めて遭遇する。
と言っても1階はノーマル級のゴブリンと魔物の狼・"魔狼"しかいないらしく、今回はゴブリンのみだったのだが……
「「「ギャアァァッ!」」」
遠くから聞こえる声と魔石の反応から……6体か、普通なら多めの数だな。
窒素で殺すのなら多くはないが、ビーナにはまだゴーレムの説明をしてないのでその手は使えない。
となると……わかりやすい攻撃方法にする必要があるな。
ダダダダダダッ
「「「ギャギャギャギャギャッ!」」」
ゴブリン達が声を上げつつ接近してくる。
"遺跡"の魔物も攻撃されない限りはゴーレムを敵だと認識しないようで、少し先行させているゴーレムを無視して俺達人間だけを狙ってきた。
女がいるからか、揃って前を大きくして腰蓑から突き出ている。
そこも外と変わらないのか。
「くっ、汚いモノ勃てて近づかないでよ!」
ビーナはそう言って自己防衛のために剣を構え、ララは迎え撃つ態勢を取った。
しかし、連中の持つ粗雑な棍棒が振るわれる前に勝敗は決する。
フッ、ドドォンッ!
「「「ギッ……」」」
轟音と共にゴブリン達は沈黙した。
ゴーレム3体を宙に浮かせ、物理法則を無視した速度で上から押し潰したからである。
飛び散ったゴブリン達は壁にした4体目のゴーレムで防いだので、俺達自身に被害はない。
「うわぁ……」
ゴーレムの手で潰されたゴブリンの惨状に、気持ち悪そうな声を漏らすビーナ。
まぁ、普通はあまり見ない光景だろうからな。
俺も見たくはないので、今後は攻撃方法を変えようか。
とりあえずはゴーレムに魔石を回収させつつ、気分を変えるためビーナに聞く。
「聞いていた通り、1階でも徒党を組んで来るんだな」
「そうね。少なくても3体以上で襲ってくるし、種族が違っても協力して人間を襲ってくるから気をつけて」
例外個体であればもっと少ない数で襲ってくることもあるそうだが、基本的には3体以上で襲ってくるそうだ。
なのでガイドをやるにしても3人以上が一般的であるらしい。
とりあえずはゴーレムに魔石を回収させ、先へ進む。
しばらくして、足を止めたビーナが少し考え込んだ。
「うーん……」
「もう迷ったのか?」
「違うわよ。私達の後からここに入る冒険者も多いでしょう?一応、前の組が入ってからは少し時間を置くことになってるけど、少し話してれば追いつかれて内容を聞かれてしまうわ」
"遺跡"は通路と部屋で構成されており、1階だけでもかなりの広さがある。
浅い層は地図が作られていて構造が変わったりすることもないので、向かう先が同じであれば追いつかれてもおかしくはない。
深い層は事情が違い、いつの間にか変化していたりするらしいけどな。
それはともかく……俺達より早く"遺跡"に入っている冒険者達もいるだろうし、そういった外部の人間に聞かれて困るような話をしたいのか。
ゴーレムのことかな。
彼女には黒いオークを倒したときの疑問もあるだろうし、説明するとなれば外部の人間に向けたものよりも少し込み入ったものになるか。
窒素のことはどうするかな。
上からの指示で来ている以上、報告される可能性があるので何とか誤魔化したいところだが……とにかく人気のない所へ行くか。
「じゃあ、人気のない所に行くか」
「それだけ聞くと別の意味に聞こえるわね」
そんなツッコミを入れたビーナは地図を見ると、1階の奥の方にある大きめの部屋を指してみせた。
「じゃあ、ここでいい?」
「そこは?」
「1階の難所で"四方攻め"って言われる、部屋の四方からゴブリンが何匹も攻めて来る部屋よ」
聞けば100体以上は確実に襲って来るらしく、新人や低ランクの冒険者には危険であり、高ランクの冒険者などの強者には実入りが少ないとのことで人気のない場所だそうだ。
その説明に続けてビーナが言う。
「アンタなら入口を塞げるでしょ?」
「なるほど」
ゴーレムはともかく、氷の壁は知っているのだからそれで塞げばいいということだろう。
なので俺はその案を採用し、彼女が指定した部屋へ向かうことにした。
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