ep79 "遺跡"への打ち合わせ
あの後、ベスケイドは"アイリス亭"の女が証言したことにより逮捕された。
スレッタさん達の件は馬車の確認が取れればとのことだったので、置いてきた場所を伝えて調査の結果待ちだ。
まぁ、ほぼ平民とはいえ貴族であるスレッタさんを狙ったわけだし、取り調べはしっかり行われるだろう。
事情聴取は"アイリス亭"の中で行われ、当然ながら俺は氷の"手"についても尋ねられた。
「で、さっきの白い手はお前さんが操っていたと。魔法か?」
「スキルですね。氷で出来てます」
少し遅れてきた、普通の衛兵よりは地位の高そうな中年の衛兵にそう答える。
俺はついでに1つ氷の"手"を出現させた。
それを触れて確認してもいいと受け取った彼は、革のグローブを取って素手で恐る恐るそれに触れる。
ぴとっ
「っ、冷たいな」
「氷ですから」
「それもそうか。まぁ、これについてはもういい」
そう言うと彼は俺の身分を尋ね、ギルドの登録証を見せると納得のいった顔をした。
「Bランクか、中々やるな。ジオ、ねぇ……聞かない名前だが来たばかりか?」
「ええ。今日着いたところです」
「着いて早々にこれか。まぁ、お前さんが原因で起きたわけじゃないから言っても仕方ないが」
「スレッタ様についてはそうなんですが、宿の方で起きた件は"金戦華"に伝手があったからなので無関係ではないんですがね」
ベルガさんが宿を紹介してくれると言い、それに乗った結果起きたことだからな。
未遂で済んだとはいえ、自分がその話に乗らなければと思うところがあった。
しかし、中年の衛兵は席を立ちつつ首を横に振る。
「知り合って数日だったんだろう?そんな短期間で他人のことなんざ全部理解できるかよ。気にしすぎるな」
そう言って彼は去っていった。
慰められたようだし、気にしているのが顔に出ていたのだろうか。
完全に無関係なら、気の毒には思ってもここまで気にしなかっただろうに。
とりあえず、俺は別の宿を探したほうが良いかな……?と思っていると、ベルガさんと宿の女がやって来た。
「ジオさん、お疲れ様でした。こちらはこの宿のまとめ役をしている方です」
「カレンだ、よろしくな」
「ジオです、よろしく」
名乗るカレンさんに名乗り返すと、彼女は俺の肩を叩いてくる。
バシッバシッ
「いやぁ、やるじゃないかアンタ。暇なときにさっきの"手"を貸してくれるんならサービスしてもいいよ」
「さっきのってことは、氷の"手"ですか?」
「そ。アタシもずっと見張ってられるわけじゃないからね。この時期は新人や若手の冒険者がこの町に来るし、この宿のことを知らず女共に手を出そうとする連中が増えるんだよ」
「それで俺もそういった連中に対応してほしい、と?でも、俺は別の宿に泊まろうかと考えてたんですが……」
「え?何で?」
「いや、さっき捕まったあの男を連れてきたのは俺なんで。気まずいというか申し訳なさがありますので」
そう返すとカレンさんは再び俺の肩を叩く。
バシッ、バシッ
「んなこと気にしてんのか!そんなこと言ったらウチを薦めたベルガだって出入り禁止になっちまうよ。あれはあの男が勝手にやったことだし、アンタが気にすることじゃないよ」
「そうですよ。そんなことにまで責任を感じる必要はありません。でないと今回の件の大元は貴族の子女に"遺跡"へ入る義務を課した国になりますし、この国の責任だということになってしまいますから」
続けてベルガさんもそう言うのだが……
「それはそうなんですが、直接自分が関わってるとどうしても気になるんですよ」
その言葉にカレンさんは笑う。
「ハハッ!アンタ、やっぱウチに泊まりな。そんだけ責任感があるなら下手にウチの女共に手を出さないだろうしね」
「はあ。そのつもりはありませんが……」
「だろうね、冒険者の監視役になってるぐらいだし」
する彼女は上を指差した。
「んじゃ、とりあえず部屋に入りなよ。貴族のお嬢さんは3階だから、その護衛なら近くの部屋でいいよな?隣じゃないけど」
ララと同じ部屋をと言っておいたので、色々と気を利かせてくれたようだ。
「はい」
「じゃ、これが部屋の鍵な。外出するときは返すんだよ?」
「はい。……あっ、そう言えば宿代はおいくらですか?」
「あぁ、アンタには言ってなかったか。食事なんかはついてないけど、一泊で1万コール、5泊以上なら一泊当たり8000コールでいいよ」
それを聞いてベルガさんを見ると……彼女はコクリと頷く。
ごく普通の冒険者にとっては食事なしでこの料金だと少しお高めだが、貴族であるスレッタさんに勧めるぐらいなのでそれだけセキュリティに気を遣っているからこそだろう。
一般的には依頼を請けてのことなので必要経費になるのだろうが、ギルドを通して正式に依頼を請けたわけではないからなぁ。
更に言えば……報酬はアレということになってるし。
いや、断れれば断るけど。
まぁとにかく、お財布的にも問題はないので、俺は10泊ぶんの料金を前払いして部屋へ案内してもらうことにした。
「こ、こちらです」
緊張気味にそう言うのは、ここまで案内してくれたノノさんだ。
この人はベスケイドに部屋へ連れ込まれた従業員の女性なのだが、奴を連れてきた俺の案内役を買って出てくれた。
彼女からすると俺は奴を捕らえた功労者扱いらしく、指示や命令でもしていない限りはあの件で俺に責任はないというのが彼女の見解だそうだ。
それで親切にしてもらうのは自作自演に近い感じがして気まずいのだが、やはり俺が気にしすぎているということのようだ。
さて……案内されたのは3階の中程にある部屋で、その奥がスレッタさん達の部屋であるらしい。
2人は先に部屋へ戻っているそうだが、まずは自分の部屋を確認して荷物を置きたいところだ。
なので俺は借りた部屋の鍵を開けようとしたのだが、ララが兜を脱いで素顔を晒している可能性がある。
それをノノさんに見られるわけにはいかず、俺は彼女を階下へ戻らせることにした。
「あの、案内はもういいので他のお仕事にどうぞ」
「そ、そうですか?では、失礼します……」
よし、ノノさんは大人しく戻っていったな。
それを見送ると俺はドアをノックする。
コンコンコン
「はーい?」
「ジオだ」
「あぁ、どうぞー」
ふむ、問題はなさそうだ。
1人になったので別にノックをして確認する必要はなかったが、ララが何かしら俺に見られたくない状態になっていた可能性もあるからな。
そうして部屋に入ると……部屋の両サイドにベッドが2つ置いてあり、その一方に腰掛けているララの姿があった。
彼女は武装したままで、背負っていた両手剣だけをベッドの縁に立て掛けている。
「お待たせ」
「別にいいわ。出番はなかったし」
ララの言葉が何のことかと言えば、これはベスケイドの件だった。
あの件では彼女も屋根の上というか屋上で待機しており、俺が取り逃がすようならばと追跡の準備をしていたのだ。
奴に逃げられて別の事件でも起こされるとスレッタさんは"遺跡"どころではなくなるだろうし、それでは貴族の義務を果たすのがどこまで遅れるかわからなかったからな。
それで俺達が自由に"遺跡"を探索できる日が遠のいてしまうと困るし、なので万が一にでも逃さないよう"ゴーレム通信"で伝えておいたのだ。
俺は空いているベッドの傍に荷物を置くと、ララと向かい合う形でベッドに腰掛ける。
「ふぅ……とにかく目的地には着いたか」
「そうね。それで、明日は私達だけで"遺跡"に入るのよね?」
「ああ」
道中で、この町に到着してからの予定はある程度決めていた。
本来なら"遺跡"やこの町のことについて1日は情報収集に当てるところだが、この町で活動している"金戦華"の面々からある程度の話は聞いているからな。
で。
スレッタさんをいきなり"遺跡"へというのは危険なので、まずは俺とララだけで様子を見に行くつもりだ。
俺達2人も"遺跡"は未経験だし、彼女を護衛するとなれば多少は経験を積んでおくべきだろうからな。
ただ、変更点があるので共有しておく。
「ここのギルド長、ロザリンドさんにゴーレムのスキルがバレたことは連絡したよな?」
「ええ。短時間で"鑑定"できるマジックアイテムがあったのよね?」
「ああ。だがいきなり危険視されることはなかったし、いざというときに周りの目を気にせず使えるようにしておきたい」
「まぁ、出し惜しみして手遅れになるよりはいいわね」
「だろう?ただ、野良のゴーレムに襲われた人から俺が疑われないようにする必要があるけどな」
「それはそうね。どうするの?」
「そこで荷車というか、足が生えた箱みたいなゴーレムを常用しようかと考えてる。荷物はそれに乗せればいいし、何ならスレッタさんも乗せられる」
「それはいいけど、それだけで野良のゴーレムと間違われなくなるの?」
「俺が近くにいないと動かないように見せかける。その上で自由に操ってみせれば……俺がいなかったり、俺がいても命令を聞かなければ俺のゴーレムではないと言い張れるだろう」
「なるほどね。それならゴーレムを貸せと言われても無理だと断れる……私としては問題ないわ」
貸し出しについての対策も兼ねていると理解したララは頷いた。
流石に"ゴーレム通信"や"ゴーレム交換"は秘密にしておくが、とりあえずの方針はこれでいいだろう。
後は……ああ、装備の話もしておかないと。
「ララ、装備のほうはどうする?」
「装備?」
「ああ。鉄で補強はしてあるが、基本的には木製だから強度が足りないだろう?」
彼女の鎧は俺がゴーレムとして木や布の緩衝材で作ったものであり、魔力が続く限りは平気でもそれが尽きれば相応の強度に下がってしまう。
それを補うために道中の町で鉄を仕入れ、要所要所を鉄板で補強してあった。
ただ、この町なら腕の良いその道のプロもいるだろう。
だったら新調してもいいのではないかと思うのだが……ララの反応は芳しくない。
「えぇー……?」
「いや、俺は防具に関して素人だからな?ちゃんとしたのを作ったほうがいいだろう」
「魔力がある限りは怪我をしないんだし、こっちのほうが良くない?」
「なら、新しく作った鎧をゴーレム化すればいいだろう」
「あぁ、なるほど。でもねぇ……」
やけに渋るララ。
「いや、何でそのままがいいんだよ?」
そう聞くと……彼女は兜を脱いでこう答えた。
「だって、せっかく貴方が作ってくれたものだし……」
「あぁ、そういうことか」
つまり、俺からのプレゼントとして手放したくないということらしい。
うーむ、可愛いことを言うじゃないか。
しかし、性能不足でララを失うのは避けたいところである。
単純に悲しいというのもあるが。
となれば……これしかないか。
「わかった。じゃあ次の装備も俺が作ろう。それならいいだろ?」
素人仕事にはなるだろうが、腕のいい鍛冶屋で商品を見て参考にすればある程度は形になるかもしれない。
聞いて教えてくれる人がいればそれでもいいしな。
少なくとも、今の木製よりはマシになるはずだ。
この提案にララは頷く。
「まぁ、それなら……あ、今の装備も残しておいていい?」
「ん?別に構わないが……新しい装備を作る度に保管しておくのか?」
その問いに、彼女は良い表情でこう答えた。
「ううん、これだけ。私達が出会った記念ってことでね」
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