ep77 専属受付という役職
ギルド長ロザリンドの部屋を出た俺は、外で待っていたベルガさん達と共に1階の受付へ向かった。
出てくるのが遅かったからか、
「遅かったわね。ヤッてるのかと思ったわ」
などとビーナは言ってきた。
本気でそう思っていたわけではないようだが。
そんな話をしつつも1階へ降りると、コの字に並んだ沢山の受付に大勢の冒険者達が並んでいた。
ザワザワ……
「多いですね。まだ夕暮れ前なのに」
その言葉にベルガさんが答える。
「"遺跡"の中では馬や荷車を使えませんので、荷役を雇わない冒険者は荷物がいっぱいになりやすいんです。それで早い時間でも引き上げてくる人が多いのですよ」
「なるほど」
ロザリンドとの荷役についての話が思い出されるな。
"遺跡"の魔物が外に出てくることはないので、倒しただけでは町や人類に貢献したことにはならない。
だが、魔物を倒すことで実戦経験を積むことができ、その後に外で"魔境"の制圧ができるような人材に育てば人類の利益になる。
スキルにレベルが存在する場合もあるし、それが成長してレベルが上がる可能性もあるらしいからな。
それを見越して"遺跡"の魔物でも討伐証明の提出で報酬を貰えるようになっており、荷物は比較的早く一杯になるということだそうだ。
まぁ、外の魔物の討伐証明に比べると安くなるそうだが……それで戦利品をなるべく多く持ち帰ろうとし、荷物が多くなってしまうのだろう。
なので荷役の必要性も高く、ロザリンドが懸念していた荷役の死傷率の高さに繋がるというわけだ。
それらの戦利品は解体場で査定され、受付に並ぶ冒険者は査定結果が記された査定表を持っている。
比較的若手が多い。
やはり、新人や若手は荷役を雇う余裕がないので早く帰還するのだろう。
さて、どこに並ぼうか……と思っているとベルガさんが提案する。
「ジオさん、よろしければ"金戦華"の専属受付をお使いになりませんか?」
「専属受付?」
「ええ。大手のグループは外部へ漏らしたくない独自の情報があったりしますので、それを防ぐために担当者を固定できるのです」
「なるほど……でも、それを俺が使っていいんですか?」
「今回はこちらの独自情報を扱うわけではありませんが、ジオさんの手続き内容を考えますと普通の受付は少しリスクが有るのではないかと思いますので」
そう言われて受付を再度見ると……カウンターごとに仕切りはあるが、混んでいるからかすぐ後ろに人が並んでいるので話の内容は聞こえてしまうかもしれない。
なんなら現金の受け渡しも覗き見れそうではある。
多額の現金を今この場で受け取るつもりはないにしても、話を聞かれるのは避けたほうがいいよな。
商隊の護衛依頼そのものは珍しくないだろうが、黒いオークの件はすぐに公開される予定ではないし。
となると、秘匿性の高い形で手続きができればそれに越したことはないか。
「じゃあ、お願いできますか?」
「はい。ではこちらへ」
ベルガさんは俺の言葉に快諾すると、喧騒に包まれた受付ロビーを後にして先ほど降りてきた階段へ戻る。
そうして3階へ上がり、いくつかの部屋が並ぶ通路へ俺を案内した。
「こちらです」
通路を少し進んである部屋の前で足を止めた彼女。
その部屋の表札らしきものにはパメラと書かれていた。
コンコンコン
「はーい、どなた?」
「ベルガです」
「あぁ、どうぞー」
そんなやり取りがあってドアが開かれ、俺達はその部屋へ入室する。
「では入りましょう」
カチャッ、キィッ
室内は応接室のようになっており、それとは別に執務用の机と金庫などが置いてあった。
奥には別の扉もあるな。
そんな部屋の机にいたのは……金髪を一本の三つ編みにして肩から垂らす、20代半ばに見える美女だった。
こちらを迎えるためか席を立っているが、スタイルはバランス型のようだ。
表札のパメラというのは彼女の名前だろうか?
「おかえり。もう戻ってきたのね……って、そちらの男性は?」
"金戦華"の専属だと言うぐらいだし、この部屋に部外者を連れてくるのは珍しいのだろう。
だからか怪訝な顔で尋ねる彼女に、ベルガさんは俺のことを紹介する。
「お久しぶりです。こちらはジオさんと言いまして、ファースレイからここまでの護衛依頼を請けた商隊で先に雇われていた方です」
「はじめまして、ジオです」
「パメラです。それでベルガ、どうしてジオさんをここに?」
「道中で色々ありまして、それに関する手続きが一般の受付だと少し問題がありそうなのでこちらへ」
「どういうこと?」
「少し込み入ったお話ですのであちらの方へ」
ベルガさんは経緯を話すためにと応接用のソファへ向かい、俺を座らせるとその左右を自分とマリベルさんで埋めた。
ビーナは新人だからか立ったままだ。
するとパメラさんは向かいのソファの真ん中に座り、それによって俺の正面にきた彼女がマリベルさんについて尋ねてきた。
「そちらは?」
「私の妹でマリベルと言います。こちらへ転勤させていただけることになりまして、先ほどギルド長にご挨拶させていただきました」
「マリベルです。これからよろしくお願いします」
「あぁ、そんな話があったわ。よろしくね」
答えたベルガさんに続きマリベルさん本人が名乗ると、パメラさんはそれに応じつつも首を傾けて更に尋ねる。
「妹がいるのは聞いていたけど、どうして連れてくることになったの?」
「あぁ、それもこれから話すことに繋がるのですが……」
ベルガさんはマリベルさんの件や、その道中で起きたことを大まかに話す。
「えーっと……」
その中にはやはり黒いオークの件も含まれており、ビーナを気の毒そうに見ていたが……
「あぁ、大丈夫です。オークには犯されてませんので」
との言葉に、俺へ鋭い視線を向けてきた。
「っ!?」
しかし、ビーナ本人がすかさずフォローを入れる。
「あの、ジオに関しては私からお願いしたことなので」
「そう言わされてるわけじゃないの?」
「いえ、むしろジオは断ろうとしてましたから」
するとパメラさんは再び俺に鋭い視線をぶつけてきた。
「っ!こんなに可愛い子のお誘いを断ろうとしたんですか?可哀想じゃありませんか!」
「えぇ……?」
どっちにしても怒るのか。
まぁ、どちらもビーナのことを慮ってのことだし理解はできる。
ただ、俺に良い印象がなさそうなこの人に、この後の手続きを任せてもいいものだろうか?
そう懸念していることを察したのか、ベルガさんはパメラさんへ言い聞かせるように俺をフォローする。
「あの、ジオさんは女性に興味があっても決して飢えていらっしゃるわけではありませんので。そのお力を目の当たりにした部下の一部がそれとなくお誘いしていたようですが、少なくとも私の知る範囲でそのお誘いに応じられたということはありません」
「好みの女がいなかったというだけではないの?」
「いえ、そういうわけではなかったかと。身体を見せつけるようにしていた者へはよく目線を向けておられましたので」
う、見られていたのか。
いやでも、これは仕方がないことなのだ。
気温が下がり続けているとは言え、長時間の移動をすれば当然汗をかく。
そうなると休憩中や野営の最中に布で汗を拭くことになり、その際に俺へ見せつけるように胸元を大きく開いて拭いていたりする者がいたのだ。
胸を揉むように拭く者もいれば、中には先端を弄って見せる者もいたからな。
好みの範囲であればだったが、それは目を引かれても仕方がないだろう。
ただ、それに気づいても止めなかったということは……ベルガさんは彼女達の行動を容認していたということか?
何らかの思惑がありそうで怖いな。
そう思っているとそのベルガさんが続ける。
「それに、ジオさんは黒いオークの件で結構な大金を得られるのです。女が欲しければ娼婦を買えばいいでしょうし、わざわざ自分からお誘いになる必要はないのですよ」
この発言にパメラさんは食いついた。
「まぁ、女についてはいいとして……大金って?」
「これはまだ公表前なので内密な話なのですが、黒いオークは非常に厄介な能力を持っておりまして」
ベルガさんは黒いオークの"思考停止"について、俺とビーナから聞いた話やギルド長室での鑑定結果を含めて説明する。
「それで高く査定され、その金額や商人などへの影響を考えて一般の受付は避けたほうがいいだろうとこちらへお連れしたのです」
「そんな能力が?なるほどねぇ……まぁ、どちらも盗み聞きされるのは避けて当然ね。その能力がどんな相手にも通用すればだけど、S級の冒険者だって無抵抗で負けることになったかもしれないし」
そう言って納得したパメラさんは、仕事を進めようと俺に査定表の提出を求める。
「事情はわかりました。では査定表の方を」
「あぁ、はい」
スッ
先ほどまでよりは態度が軟化していたので……俺は求めに応じて査定表をテーブルへ滑らせ、彼女はそれに目を通す。
「あら、500万ですか。討伐報酬としては確かに高額ですね」
「ここでは珍しいと言うほどではありませんか」
「いえ。"遺跡"から魔物が出てくることがない以上、討伐報酬そのものがここまでの額になるのは珍しいと思いますよ。ただ、希少で有用な素材が手に入る場合は言葉通り桁違いの額になりますので」
「"金戦華"ではそのぐらいの手続きをすることもある、と?」
「私からお話しできることではありませんね。幹部であるベルガでも部外者には答えられないでしょう」
ベルガさんを見てみれば……首を横に振っている。
内部情報だしな。
「まぁ、そうでしょうね」
俺がそれ以上聞くのを止めると、パメラさんはベルガさんに確認する。
「それはいいとして……高額の報酬となれば手続きは密かに進めるほうがいいでしょうし、ベルガがここへお連れしたということは上にも話を通してあるのでしょう?」
「はい。ビーナが事務所へ一旦戻ることになりましたので、そのときに」
あぁ、ビーナはスレッタさん達の宿の件で別行動になったが、そのときにこの件にも対応していたのか。
ギルド前で待っていた理由にはそれも含まれていたようだ。
合流してからそんな話は出ていなかったが……先ほどギルド長室に俺だけが残ることになっていたので、その間にベルガさんへ話していたのだろう。
それを聞くとパメラさんは俺に尋ねてくる。
「では、今後も秘密裏に手続きを進めたい場合はこちらへどうぞ。専属担当はお互いに自分が担当している相手の情報を共有しませんので、少なくとも他のグループに情報が漏れることはありませんから」
そんな制度になっているのか。
共有すべき情報はギルド長のロザリンドが判断して伝えるだろうし、そうでない限りは俺の動向を秘匿できるように手続きを任せる相手を固定しておいたほうがいい。
というわけで……俺は特殊な手続きに関してパメラさんに担当してもらうことにし、彼女はそれを承諾したのだった。
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