ep76 その名は『オール・G・ワン』
黒いオークやマリベルさんの転勤について、この町のギルド長・ロザリンドへの報告を終えた。
最後に黒いオークの討伐報酬を決め、その手続きに必要な書類を作るからと俺だけギルド長室に留まることとなったのだが……
その書類が出来上がり、それを受け取ろうとした手をロザリンドが笑顔で掴んだ。
「貴方って……いろんな物をゴーレムとして使えるスキルを持ってるのね♪」
「っ!?」
何故バレた?と一瞬思ったが、すぐにその原因へ思い当たる。
「その眼鏡ですか」
「そういうこと♪」
あれは"遺跡"産のマジックアイテムで、連続して使用できるのは3回まで、しかしながら3日ごとに使用回数が1ずつ回復するというものである。
いつの間にか鑑定されていたのか。
回数に制限があり、すでに2回使っていた。
なので、いざというときのために最後の1回は使わないだろうと思っていたのだが。
「残りの1回を使って良かったんですか?」
「言ったでしょう?緊急でこれが必要なことなんてそうはないの。掛けたままだったのに気にならなかった?」
「気にはなってましたけど、俺を見ていた距離が合ってなかったので……」
人工の鑑定道具は、30cmぐらいの距離で1分ほど維持しなければならなかったはず。
先ほどの鑑定では"鑑定眼鏡"も同じぐらいの時間と距離が必要そうだったので、自分を鑑定されているとは思っていなかったのだ。
そんな俺にロザリンドが明かす。
「あぁ。この眼鏡は人工のと違って10秒で結果がわかるし、距離も50mまでは自由なのよ」
「ぐ……ということは、さっきまでの鑑定では演技をしてたってことですか」
「そういうことね。勝手に鑑定したのは悪かったけど、その反応からすると隠しておくつもりだったのよね?」
「そうですね。俺の力がどういった扱いをされるか不明でしたので」
「まぁ、ゴーレムって言うと厄介な魔法生物って扱いだしね」
「そうなんですか?」
「ええ。核を壊さない限り倒せないけどその核の場所は決まってないし、倒しても核である魔石が壊れてるから価値はかなり下がるから」
「余程良いものが得られないと利益は出ないってことですか」
「そうね。ついでに言えば……このことが他人に知られた場合、何処かでゴーレムが人を襲ったら貴方が疑われるかもしれないわ」
「うぇ、やっぱりそうなりますか」
俺が自分の能力を隠しておきたかったのは、この可能性があったからでもある。
そうなるとこの場はどう凌ぐべきか。
最も穏便な手段は逃亡になる。
ゴーレム同士の位置を入れ替える、いわば"ゴーレムスワップ"で自分と遠くにあるゴーレムを入れ替えればいい。
手を掴まれてはいるが、接触しているだけで一緒に転移されるわけではないからな。
強い自我を持つ者の場合は魔石に引き寄せることができるだけで、ゴーレムとして支配下に置けるわけではない。
となれば自分に接触している服や物はともかく、支配下にいない生物は対象外にできるのだ。
なので逃亡自体は可能だろう。
ただ、それでも問題は残る。
相手が世界各地と連絡を取れる、冒険者ギルドの支部長だという点だ。
この場から逃げることができたとしても、あちらが捕まえたければ手配されてしまうだろう。
そうなると人里で暮らすのは難しくなるし、様々な物資の調達も難しくなる。
自分の能力で賄えるものはそれでもいいのだが、それでは足りないものだってあるだろうからそれは避けたい。
逃げる以外の手段としては……物理的な口封じはナシだ。
今、俺とロザリンドが2人きりなのはベルガさん達が知っているし、そうでなくても完全な自己都合での殺人は気が咎める。
となれば交渉して黙秘してもらうしかないのだが……その交渉しようと思ったタイミングで彼女が尋ねてきた。
「貴方のゴーレムって人を襲うの?」
「え?いえ、そう命令しなければ何もしませんよ」
「そう。じゃあ、近くにいないと操れない?」
ふむ。
どうやら、"鑑定眼鏡"でわかる情報は能力や効果の大まかな情報に留まるようだ。
人工の鑑定道具よりは1段上って程度かな。
だからこそ、こうして能力の詳細を聞いてきているのだろう。
となれば……"命令"による自律行動については隠しておいたほうがいいな。
そうすれば、俺がいない所でゴーレムが人を襲っても俺の仕業だと疑われることはない。
先ほどのように、いきなり勝負を吹っ掛けられたりしなければだが、必要がない限りは人を襲わせる気はないからな。
というわけで俺は答える。
「そうですね。近くと言ってもある程度……100mぐらいは離れていても操れますが」
嘘は言っていない。
彼女が聞いたのは近くでしか操れないのかということなので、俺は直接操れる範囲を答えただけだ。
そんな俺に、ロザリンドは掴んでいた手を離しつつ残念そうに言う。
「そう……惜しいわね。人に貸したり出来れば助かったのだけど」
「人に?どういうことでしょう?」
「えっとね……」
彼女は"遺跡"での問題点を挙げた。
聞けば、"遺跡"の中では荷物の運搬がかなり重要であるらしい。
階層を進む際には階段を下ることになり、帰る場合は当然登ることになる。
その登り下りで荷物の量は直接体力に影響し、生存率や生還率にも大きく影響するらしい。
馬は階段が苦手というか危険なので運搬専門の人間を雇うことになるそうだが、そういった役割は軽んじられる傾向が強いそうだ。
主な理由は、戦闘に貢献できない人が荷役を望むからである。
とりあえずは荷物を運べさえすればいいので、装備が揃ってない駆け出しの冒険者などが先輩冒険者の見学も兼ねてやるのだそうだ。
他には歩行に支障のない怪我人を雇う場合もあるらしいが、中には必要なら逃げるための囮にすることもあるとのこと。
ギルドとしてはそれを良しとしているわけではなく、発覚すれば処罰することもあるそうだが……"遺跡"の中での事で監視の目は多くなく、それを意図的であると断定するのは難しい。
その上で、もちろん何事もなければ身体1つで稼げるので、多少は待遇が悪くても希望者は減らないそうだ。
その結果として荷役の死傷率が高くなっており、そこでロザリンドは俺のゴーレムに目をつけたらしい。
ゴーレムを荷役として貸し出せれば、最悪囮に使ったって問題はないだろうと考えたようだ。
彼女は"鑑定"で俺に水魔法のスキルがないとわかっているし、先ほどの勝負で形がある程度自由だと知っている。
人型である必要もないので荷台に4つ足でも生やし、それで荷物を運搬させられないかという話だったのだ。
「って考えたんだけど、貸し出せないんなら無理か……」
「そうですね。それにゴーレムを貸し出せたとして、それまで荷役で稼いでいた人達から恨まれるでしょうし」
「う、確かにそれはあるでしょうけど……別に急いで奥へ潜る必要はないんだし、無理のない範囲で長く活動してくれるほうがいいんだけどね」
"遺跡"から魔物が溢れ出てくるということもないそうだし、無理に入る必要はないからこその考えだろう。
それだけ荷役の今の状況がよろしくないと認識しているようだ。
「でも……ただの荷物持ちで、護ってもらえるはずだからって荷役を受けた人が亡くなることは珍しくないのよ。特に新人の若い子なんか、他の冒険者の戦いを見れて勉強になるからって言うんだけど……新人じゃ大した装備も持ってないし、ギルドで貸し出しているものは後払いとは言え有料だからって嫌がるのよね」
「荷役の報酬は安いんですか?」
「ええ、どうしても戦闘への貢献度が重視されるから。一応、大手のグループでは若手を育てていたりもするけど」
"金戦華"も、女性限定ではあるがそのうちの1つらしい。
この町は"遺跡"で一儲けと考える人間がどんどん増え、それに伴いここで生まれる人間だって増えていく。
その上で外から来る人間も多少の差はあれど増え続け、町の中で職が見つからずに冒険者へという者が増えているそうだ。
となれば若手の育成をしているグループでも抱えきれず、荷役の死傷率は上がっていっているということらしい。
それを聞くと、どうにかしてやりたい気にならなくもないんだけどな。
だが、ゴーレムを貸し出したとして悪用されないとは限らないので……やはり貸し出しはナシだ。
違法な品の輸送や人間の拉致に使われたら、それが発覚した際に俺を責める者が出てこないとも限らないし。
ただ……俺の近くでしか使えないということにするのなら、ゴーレムを使えること自体は公表してもいいのかもしれない。
ロザリンドには知られてしまったが、少なくともゴーレムを使えるというだけで排除対象だと見做されたりはしなかった。
距離が限定されると言ってあるし、ゴーレムが人を襲撃してもその近くに俺がいなければ疑われる可能性も低い。
少なくとも、ギルド長である彼女が荷役の相談をしてくるぐらいには信用されていそうなので、身に覚えのない疑いをかけられても距離の制限については証言してくれるだろう。
それが事実であるという確認をされたとしても、ゴーレムが100m以上離れた所で魔石だけ回収して操れないことにすればいい。
となれば……スレッタさんの件もあるし、場合によっては彼女を乗せて移動させられるゴーレムは自由に使えるほうが良いだろう。
氷よりは土や石のほうが冷たさや滑りを気にせずに済むし、氷は溶けるというダメージが発生して稼働時間が短くなることも気にしなくて良くなるからな。
「貸し出せはしませんがそれなりに稼ぐつもりですし、これからは水や氷以外のゴーレムも使っていきますよ」
「そう。近くでしか使えないのなら大丈夫だと思うけど、野良のゴーレムと間違えられないように気をつけてね」
「わかってます」
「あと、できれば冒険者の監視役としての仕事もやってくれる?」
「人手が足りないんですか?」
「人自体はいても、脅迫や買収に動じない人間となるとね……」
「あぁ、なるほど」
素行不良の冒険者を監視するのが監視役という立場だが、その監視役が相手にやり込められるような人間だと意味がない。
なので監視役として信用できる者はそこまで多くなく、その可能性が低い俺に期待しているというわけか。
「まぁ、余裕があればということで。こっちも"遺跡"でマジックアイテムを狙ってるんで」
「そうなの?お金目当て?」
「いえ、持ち主の魔力を使う武器でもないかなー、と思いまして」
「ならそのハンマーじゃダメってことね。それはスキルや魔法の効果を広げるだけで、武器としてはただのハンマーだし」
「そういうことですね。ギルドで確保してるものってあります?」
「なくはないけど非売品ね。ギルドで使うために確保してあるものだから」
「ですよねぇ」
あわよくば買い取れないかと思ったが、そう都合良くは行かなかったか。
するとロザリンドが提案してくる。
「じゃあ、競売にかけられているものでも狙う?"遺跡"に入って自力で手に入れるよりは確実よ」
「ああ、それがあったか」
競売についてはベルガさん達から聞いていた。
出品された物に買いたい人が次々に値段をつけ、一番高い値段をつけた人が買い取れるというあの仕組みだな。
「でも、お高いんでしょう?」
「それはそうね。色んな国の王族や貴族が入札するし……あぁ、そのハンマーだって使い方次第では高く評価されるでしょうから、それを競売にかければちょっとしたマジックアイテムなら落札できるぐらいの高値が付くかもしれないわよ?」
なるほど、その手があるか。
「欲しいマジックアイテムがあればそれも考えてみます。競売に出品されてる商品ってどこで確認できますか?」
「実物なら貴族街の中にある競売所ね。競売にかけられるようなものは大抵高値がつくし、それを落札できるとなれば向こうの人間だから」
「実物ならってことは、それ以外に確認できるものが?」
「マジックアイテムに限定するのなら商品の情報はここにもあるわ。これで鑑定しなきゃならないし」
そう言って彼女は掛けていた"鑑定眼鏡"を指先でつつく。
あぁ……お偉方に渡る可能性が高いので、呪いなどのよろしくない効果があってはまずいからか。
「その情報って俺に見せてもらえるんですか?」
「ええ。冒険者が目標にできるようにって公表されているわ」
「時間があったら見てみます。今日はこちらに着いたばかりで色々と忙しいので」
「あぁ、そうだったわね。宿の確保は?監視役ならギルドの宿舎を使ってもいいわよ?」
「いえ、もう確保してあるので」
「そう……まぁいいわ。長く引き止めてるとさっきの続きを疑われそうだし、今日はこの辺にしておきましょう」
「そうですね、では……」
と、退室しようとしたところで1つ尋ねる。
「そうだ、俺の能力の名前って何ですか?」
「あぁ、それは教えてなかったわね」
すると、ロザリンドは一呼吸置いてその名を告げた。
「貴方の能力は――"オール・G・ワン"よ」
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