ep73 ギルド長ロザリンド
ベルウェイン商会の護衛を終え、その依頼の手続きと黒いオークについての報告のため"遺跡"の町の冒険者ギルドを訪れた俺達。
同行したベルガさんがギルド長へ取り次ぎ、マリベルさんとビーナも一緒にギルド長の部屋へ向かった。
コンコンコン
「"金戦華"のベルガです」
「あぁ、入れ」
「失礼します」
カチャッ、キィッ
ベルガさんのノックに入室の許可が出たので彼女がドアを開き、それに続いて俺達も入る。
中はかなり広く、1フロアの大部分がこの部屋なのではないだろうか。
その部屋の奥に居たのは大きな机で仕事をしているらしい女性で、褐色の肌に長めの銀髪、更には耳が長かった。
ついでに言うと、机に載せているぐらいには胸が大きい。
それを強調しているのは、肌に張り付いているような深紅のドレスだ。
気温の割には薄手で露出が多いのだが、寒くないのかが少々気になる。
ベルガさんによると、彼女がギルド長のロザリンドなのだろうが……彼女もエルフだろうか?
前世の創作物などではダークエルフなどと称する設定のものもあったが、肌の色が違うだけなら同じエルフという扱いである可能性もあるな。
そんなことを思っていると……書類から顔を上げた彼女が俺を見る。
その瞬間、彼女は椅子から立ち上がると俺に指を突き出した。
「お前かぁぁ!フランチェスカを誑かしたのはぁぁっ!」
「はあ?」
彼女のいきなりな言葉に、俺は間の抜けた声で返してしまう。
「あら」
「……」
「へぇ……」
その隣でベルガさん達は驚きつつ、それぞれ違う表情で俺とギルド長に視線を往復させている。
すると、彼女は声を荒らげたまま言葉を続けた。
「お前が"千手"のジオでしょう!フランチェスカから話は聞いてるわ!」
「あぁ、そうなんですか」
ギルドには独自の連絡方法があると聞くし、それを使って俺のことを伝えておいてくれたようだ。
フランとしては無事に戻って欲しいみたいだし、ある程度は便宜を図ってくれとでも言っておいてくれたのだろうか。
ただ、俺がジオだとわかったのは何故だ?
「あの、何故俺がジオだと?」
「登録証を見ればわかるでしょう!」
「え?よく読めますね」
首から提げている登録証を見たからなのは理解できるが、そこまで大きなものでもないのに……
「フン、私は目が良いのよ。このぐらいの距離なら登録証の文字なんか普通に読めるわ」
「へぇ」
まぁ、聴力が良くなるってスキルを持ってるやつもいたぐらいだしな。
これで彼女が俺をジオだと認識できた理由はわかったが……
「あの、どうして俺は怒鳴られてるんでしょうか?」
そう聞くと彼女は更にヒートアップした。
「はあぁ!?フランに手ぇ出したんだから怒って当然でしょう!?」
「何処からそんな話が?」
「本人に決まってるでしょう!」
「え、本人がそう言ったんですか?」
「言ってはいないけど、表情でわかるわよ!お前の話になると、ニヤニヤというかポーっとしちゃって……」
「はあ、そうなんですか」
表情がわかるということは、ギルドの連絡手段は映像を送れるものだということか。
それはいいのだが……しかし、その件で俺が責められるのは理不尽だ。
「いや、俺はどちらかと言うと手を出されたほうなんですが」
「だから!お前が!誑かしたんでしょうがあぁぁっ!」
えぇ……?
俺を使えると見込んだフランが自ら誘惑してきただけなのに。
「いえ、俺はギルド内で起きていた問題に対応しただけでして。それを見たフランチェスカさんが俺を気に入ったという経緯なんですが」
「お前が誑かしたようなものでしょう!」
「それを狙ってやったわけじゃありませんよ。そのきっかけになった問題のことは聞いてないんですか?」
「聞いてるわよ。受付嬢の1人がガラの悪い冒険者に手を出されてたんでしょう?」
「そうです。俺はそれを助けただけで、フランチェスカさんに手を出すつもりなんてありませんでしたよ」
「だとしても!結果的にそうなったんなら同じことよ!」
「いや、それは違うでしょう……だったら、お誘いを断って彼女を悲しませたほうが良かったって言うんですか?」
「ぐ」
ここで初めてギルド長の勢いが落ちた。
怒っている様子からフランのことを大事に思っているのだろうし、彼女のことを考えれば悲しませるというのも出来れば避けたいはずだ。
まぁ……フランだってそれなりの年齢ではあるようだし、そこまで気にしない可能性のほうが高いとは思うが。
しかし、それで俺の問いに言葉を詰まらせたらしいギルド長は、それでもと反論を続ける。
「だとしても!後々のことを考えれば人間のお前が相手じゃ……結局フランチェスカは悲しむことになるでしょう!?」
「あぁ、なるほど」
つまりはまぁ、人間とエルフの寿命の長さを憂慮しているわけか。
人間に比べればエルフは何倍も長いそうだしな。
ただ……同族だろうが同時に死ぬわけでもないし、そこに限って言えば本人の自由ではないだろうか。
俺がとんでもない悪党で、自分の死後にまでフランに迷惑や気苦労を掛けるとなれば話は別だが。
いや、そもそも身体の関係を持っただけで付き合っているというわけでもないんだけどな。
しかし、彼女を大事に思っているらしいギルド長にそれを言えば更に怒りそうな気もする。
なので……結局は本人の勝手だという方向で話を収めようとしてみた。
「それでも結局は本人の勝手だと思いますが……そもそも、貴女はそこに口を挟める立場なんですか?」
近しい関係だとしても、踏み入っていい領域とダメな領域がある。
その点も突いてこの話を終わらせようとすると、ギルド長はフランとの関係を俺に明かす。
「私はフランの姉弟子よ!妹分の心配するのは当然のことだわ!」
「あぁ、そうだったんですか」
フランには魔法か何かの師匠がいると聞いていたし、他に弟子がいたとしてもおかしくはないな。
しかし俺はこう返す。
「だとしてもですね、それは俺にではなくフランチェスカさんに言ってください。俺は美女で敵でなければお相手する男ですし、そんな俺が断れば彼女は自分の容姿に自信が持てなくなってしまうかもしれませんよ?」
「ぐ」
俺にとってはあまり外聞の良くない言い分ではあるものの、そんな俺に断られたらフランは落ち込んでしまうのではないか?という意見にギルド長は口を詰まらせたので有効だったようだ。
彼女としてもフランを悲しませたくはないはずだし、俺の予想に同意できるところがあったのだろう。
しかし、俺に責めどころがなかったわけでもないので彼女はそこを突いてくる。
「だったらお前が女に手を出すのを控えればいいわ!その上でフランチェスカを拒否すればあの娘も容姿が問題だとは思わないでしょう?」
「別にそうしても構いませんが、彼女が俺の力を当てにすることもできなくなりますよ?」
「ハァ?なんでよ、報酬をちゃんと支払えばいいだけでしょ」
「いや、俺は苦労しない程度に生きていければいいんで、報酬が良くても面倒な仕事は引き受けないつもりですから」
そう返すとギルド長は納得のいった顔をした。
「あぁ、それでフランチェスカが身体を使ったわけね。結局はお前のせいじゃない!」
「だったら面倒事を頼まなければいいって話なので、結局はフランチェスカさんの意向が原因のはずなんですが」
「お前が力を貸し渋らなければいいだけでしょう?」
「力があっても時間や手間はかかりますし、その点で面倒だと思えば断るのが当然でしょう?普通は誰でもそうしているはずですし」
「う」
力を貸すという行動は、それに見合った対価があって成立する。
その対価が物や金銭などではなくとも、人助けをしたという事実で満足感を得られる者もいるのだろうが……どちらにしろ、本人が納得できる何かがそこには必要なのだ。
わかりやすいのがこの冒険者ギルドであり、依頼を受注するしないの判断は依頼の難易度とその対価だ。
仕事に見合う報酬なら引き受けるし、そうでなくても本人が納得しているのであれば引き受けるだろう。
そして対価が見合わないと思えば断るのも自由であり、意図してではないが俺もそれに則っているに過ぎないのだ。
そこに文句をつけるというのであれば、それは冒険者ギルドの存在そのものの否定になるはず。
それがわかっているからか、再び言葉を詰まらせたギルド長だったが……
「でも、お前はあの娘が認めたほどの力があるんでしょう?だったら対価が見合わなくても引き受けたっていいじゃない!」
などど言ってきた。
そんな彼女に俺は問い返す。
「じゃあ、貴女は自分の力が及ぶ範囲であればどんな頼みも聞いてあげるんですか?」
「それは……」
またもや口ごもるギルド長。
俺はそこへ言葉を畳み掛ける。
「その様子だと「はい」とは言えないようですね。俺の考えもそれと同じだってだけですよ」
「ぐ……」
これで納得してくれるかと思っていると、彼女はこんなことを言い出した。
「そ、そもそも!お前にそこまでの力があるかという話だわ!」
「はあ?」
少なくとも結果を出しているからこそのフランの対応だったのだが、その結果を出した実力について何の疑いがあるというのだろうか?
すると、そこでギルド長がララに言及する。
「お前には腕の立つ護衛がいるんでしょう?そいつにやらせただけじゃないの!?」
「あー……」
護衛としてララの存在自体は知られているので、彼女の功績を俺が掠め取っているのではないかと疑っているわけか。
もちろん俺は反論する。
「いや、俺の魔法については聞いてませんか?フランチェスカさんに目をつけられたときも、それ以外でも使ってて大抵の人が知ってると思うんですが」
「それは聞いてるけど……私が見てないわ!」
「えぇ……」
「自分が見ていないものはないものとする」とでも言うのだろうか?
上がってくるすべての報告を自分で直接確認しているのならともかく、そうでなければそんな考えでギルド長など務まる気がしないのだが……
そんな事を考えていると、彼女は成り行きを見守っていたベルガさん達に指示を出す。
「ベルガ、それと他の者も。その男から離れなさい」
「え?えーっと……」
「「……」」
この後の展開が予想できるからか、その言葉に困った顔で俺を見る女性陣。
そんな彼女達に俺は頷く。
「大丈夫です。人目がある前でそこまでのことはしないでしょうから」
「では……」
俺の言葉にベルガさん達は離れ、広い部屋の端まで移動したので10mぐらいは距離ができた。
これぐらい離れていれば、余程の広範囲攻撃でもない限り巻き込まれることはないだろう。
そう思っていると……
「……」
スッ
ギルド長が右手で作った拳を突き出し、その中指にある指輪が輝いた。
バヂィッ!
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