ep71 "遺跡"の町に到着
スレッタさん達の護衛を限定的に承諾した翌朝、氷の小屋から出てきた2人は微笑んで俺に声を掛けてきた。
「「おはようございます」」
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「ええ、お陰様で」
俺の問いにスレッタさんがそう答える。
その表情は昨日よりも穏やかになっているようで、俺の助力を得られることになり"遺跡"に対する不安が和らいだからだと思われる。
すると2人は身を寄せてくる。
ザザッ、ムニュ
その距離は非常に近く、それぞれの胸が俺の左右から押し付けられた。
そんな2人が顔も寄せてくると、俺に囁くように言ってくる。
「ジオさん……アレ、凄かったです♡」
「ええ。あんなに長く温かいままなんて……♡」
「あぁ……お気に召したんなら良かったです」
2人の赤みを帯びた顔とこのやり取りから、第三者が聞いていれば俺達が熱を感じられるような行為に長時間及んでいたのだと思われそうだ。
ただ、それに続くやり取りも聞いていればそれが誤解だとわかるだろう。
「では、回収させていただいても?アレは少し秘密の技術を使っておりますので」
「ええ。"湯たんぽ"、でしたか。この時期にあんなに暖かくてグッスリ眠れる物、あれを知れば素材や製法を知りたがる人がたくさん出てくるでしょうしね」
「そうですね。我々が持っていても、何らかの事故で外部の方に見られてしまうかも知れませんから」
そう、これは湯たんぽの話だったのである。
あの後、しばらくして2人には就寝してもらい、俺はいつも通りに休んで夜中にララと警備を交代した。
その際に2人は俺が渡しておいた湯たんぽを使ったわけだが……回収した湯たんぽはまだほんのり温かく、十分に機能を働かせてくれたようだ。
それを鞄にしまうと2人が尋ねてくる。
「あの、またお借りすることはできますでしょうか?金銭的にそこまで良い部屋に滞在することはできないと思いますので……」
「暖炉があったとしても薪の代金が掛かりますし、そちらを切り詰めるとした上でこれから寒くなっていくことを考えますと……お借りすることができれば非常に助かるのですが」
惜しげもなく懐事情を話しているのは、大抵の事情を昨夜のうちに開示してしまっているからだろう。
まぁ……俺が護衛の依頼を請け、物理的に懐を探らせてもらえる立場になったからというのもあるのかもしれない。
2人とも露出まではさせていないが、服の中に手を入れて直に揉ませてもらったしな。
そうなると当然ながら、男としては発散するか落ち着くまで我慢することになるわけで。
そこでベレーナさんは我慢させるという選択をせず、彼女に口で処理された。
本人としては本番でも構わなかったそうだが、そこは遠慮させてもらっての折衷案だったのである。
護衛は浅い層に限定させてもらったし、ならば報酬も軽くするということで。
その際、スレッタさんにはモノも行為も見られたが……間近で見学していたぐらいだし、今も身を寄せてきていた程度には拒否感を持たなかったようなので問題はないはずだ。
そんな事を思い返していた俺に、ベレーナさんが自身の唇を指して言う。
「いつでもどうぞ♡」
その言動を受け、湯たんぽの貸し出しについては……
「まぁ、表に出さなければ」
と了承する俺だった。
ガラガラガラガラ……
あれから2日。
商隊が進む先に薄っすらと町らしきものが見えてくる。
御者台に乗るメルクスが近くを歩くビーナへ尋ねた。
「お、見えてきましたね。あれが"遺跡"の町ですか?」
「ええ、そうです。今日中には到着すると思います」
「おぉ、やっとかぁ……まぁ、聞いていたよりは早いんですけどね」
「まぁ、それはジオのお陰でしょう。氷の壁だけでも夜をかなり安全に過ごせましたし、皆も十分休めたから進むペースが落ちることもありませんでしたから」
「そうですよねぇ。できればうちの専属になっていただきたいところなのですが……」
「それは断られたんでしょう?」
「それはそうなんですが、イスティルまで護衛してくれる冒険者って少ないんですよ」
「まぁ、遠いですからね」
「でしょう?引き受けてくれるとすればファースレイまでで、そこから先は別の護衛を探すことになるそうなんですよ」
他の商会員に聞いた話だろう。
報酬が良いからと言っても長期間の拘束を嫌う人はいるそうだし、一定以上の実力があれば"遺跡"のほうが稼げるので遠出する必要はない。
なのでイスティルまで護衛を雇うとなれば、"遺跡"ではイマイチの冒険者ということになるわけだ。
今回の旅で盗賊に襲われたり、黒いオークによる奇襲を受けたメルクスとしては帰路に不安しかないのだろう。
ただ、商会員たちの中には往復した経験がある人もいるそうだし、あんなことは早々ないとのことだったのでやはり俺の護衛は諦めてもらおう。
一度の休憩を挟みつつ商隊は進み、徐々に他の旅人が増えてくる。
その中には比較的近場で活動している商人や冒険者もおり、ベルガさん達の"金戦華"の印が入る装備を見て彼女に軽く挨拶などをしてきていた。
「おや、ベルガさん。もうお戻りでしたか」
「あらカカロさん。ええ、予定より早く戻れまして」
「そうでしたか、ご無事でなによりです。またうちの商会にもよろしくお願いします」
「ええ、お互いに条件が合えば」
「ハッハッハ、そうですな。ではお先に」
そんな会話をして、数人の護衛を伴う商人が休憩中のこちらを追い越していったりもする。
その様子から、彼女達が大手のグループで有名なのだろうと言うことが実感できた。
となると……新参者が親しくしすぎれば彼女達に好意的な人間から目の敵にされかねないし、やはり敵対はせずとも一定の距離感は保ったほうが良いな。
スレッタさんとベスケイドの例もあるし。
そのベスケイドはあれから大人しくはしているものの、夜の度に彼女のための小屋から出ると一瞬だが鋭い視線をぶつけてきていた。
まぁ、引き止められて少し長く滞在したことも原因ではあるのだろうが……それ故かスレッタさんの距離も妙に近しいものとなっており、これも彼の不興を買う一因になっていそうだ。
一応、俺としては仕事上の関係だとしか思っていないんだけどな。
こちらの世界へ来ることになったのもいわば人間関係がきっかけだし、やはり他人との距離はある程度確保しておくべきか。
そんな事を考えつつも商隊は進み、"遺跡"の町がハッキリ見えてくる。
「おー……何と言うか、普通の町に見えますね」
「"遺跡"がある以外は大きな違いがあるわけではないそうですよ。冒険者が多少優遇されているぐらいだとか」
俺の言葉にメルクスが振り返って答えた。
まぁ……人を引き寄せる"遺跡"があって、その人達を相手に商売をする人が集まって出来たのがこの町らしいからな。
ただ、重要な注意点もあった。
「貴族街の方には行くんじゃないわよ。揉めると面倒だから」
そうビーナが忠告する。
先代の国王が決めた"貴族の子女は必ず遺跡へ入らなければならない"という決まりのせいで、あの町にはそれなりに多くの貴族がやって来る。
基本的には定住するわけではないが、とはいえ身の安全をかくほしなくてはならず。
そこで町の中に貴族用のエリアを設け、そちらへ滞在してもらうということになっているらしいのだ。
町の管理者など、貴族の中には定住する人もいるのでそういった家の周囲が帰属用のエリアになっているとのこと。
そちらに出入りするればトラブルに巻き込まれる可能性があったが、スレッタさん達は滞在費用の節約で一般の居住区に滞在するらしいので近づくこともないだろう。
そうこうしているうちに大きな壁で囲まれた"遺跡"の町に到着した。
"遺跡"の町をぐるりと囲む壁は高く堅牢そうで、その中に入ることのできる限られた門に並ぶ人は多い。
商隊が多く見えるのは、やはりこれから冬になるのでそれに備える需要を見込んでのことだろう。
通過には身分証があれば入りやすく、冒険者は登録証を、商人なら商人である証を見せればよく、それ以外の人は問題がなければ通行料を支払って通過できるようだ。
「次!」
門番がそう声を上げると、順番を待っていた人が進み出て荷物の検査などを受ける。
聞けば……特定の薬物など、持ち込んではいけない物があるらしい。
「どちらかと言えば、大きな魔石などを町から持ち出すほうを厳しく調べられますが」
と言うのはベルガさんだ。
大きな魔石は希少で価値が高く、それを利用できるとなれば強力なマジックアイテムを所持していることになる。
それが国に届け出られていなければ、このコルドール王国に対する敵意があるとみなされてしまうそうな。
そうなればこの町へ入るのを禁じられてしまい、魔石の買取も他に欲する者から出遅れてしまうことになる。
そんな検問だが……俺達は無事に中へ入ることができた。
顔を隠しているララが不審に思われたりはしたが、ベルガさん達"金戦華"とギルド員のマリベルさん、そして貴族として来ていたスレッタさんの口添えもあって通過を許可されている。
ベルガさんの言った通り、この町ではどちらかと言うと出て行くときのほうが厳しいようで、有用なマジックアイテムや魔石が正規の手続きを経ているかのほうが重要らしいからでもあるのだが。
ともかく、無事に町へ入れたので次の行動へ移る。
商隊の依頼は取引相手のところまで護衛することなので、まずはそれが優先だ。
ただ、俺達は宿の確保も必要である。
この時期はこの町を訪れる人が多く、まともな宿は埋まってしまいがちだからだ。
ベルウェイン商会は取引先の伝手で宿を確保できるそうだが、それはあくまでも短期で利用する商隊に向けたものであるらしい。
となればある程度長く滞在する予定の俺達はしばらくして宿を変えなくてはならず、そのときに宿が確保できるとは限らないので最初から長期で借りられる宿を確保しておいたほうがいいだろう。
なので独自に宿を探すつもりだった俺達だったのだが、そこでベルガさんが宿の紹介を申し出てきた。
「では、こちらで伝手のある宿を押さえておきましょう。お代の割にはいい部屋だと思いますよ」
「いいんですか?」
「ええ、道中でお世話になりましたしね」
ふむ。
後でこの件を持ち出して助力を請われやしないかと思ったが、これまでの俺に対する恩義からのものなら問題ないか。
「ではお願いしてもいいですか?」
「はい。じゃあビーナ、行ってもらえる?」
「了解です」
ベルガさんは護衛依頼の責任者としてまだ離れられず、代わりにビーナを走らせる。
これで宿のことは気にしなくて良くなり、俺達は護衛依頼を完遂させるためにベルウェイン商会の取引先へ向かうことになった。
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