ep69 貴族を拾う
あれから商隊はいくつかの人里を通過しつつ進んでおり、そろそろ"遺跡"の町へ到着するらしいという状況だ。
と言っても2,3日は掛かるようだが……3日ほど前に出発した村でそれを聞き、商隊のメンバーが一様に安堵していた。
俺も安堵するほどではないが気分が軽くなり、その夜はララと十分に楽しんだんだよな。
ガラガラガラガラ……
「ん?」
そんな俺達から小さく見えるほどの前を、1台の箱馬車が進んでいた。
前に出た村では箱馬車1台だけの一行が通過した話など聞いていないので、おそらくは別の道からこの道へ入ってきたのだろう。
となれば目的地は同じなのだと思われるが、こちらは荷馬車が8台もあり、徒歩の護衛もいるので進みはやや遅い。
あちらは前を進んでいるし、護衛などもいないようなのでスピードが出せる。
これなら俺達が追いつくこともないだろう。
そう思って気にしていなかったのだが……
「あっ」
その馬車は石か何かに車輪を跳ね上げられ、着地すると同時に大きく傾いた。
遠目に見た限りだが……どうやら車軸が折れたようで、御者は御者台から降りて馬車の状態を調べると車内の何者かに話しかけている。
それはこちらの他のメンバーにも見えていたらしく、先頭の馬車に付いていたベルガさんがメルクスに対応を尋ねに来た。
「前の馬車、どうされますか?」
「うーん、そうですねぇ……」
ビーナが攫われた一件でやや慎重になっているのか、メルクスは少し考え込む。
「荷物のことを考えると通り過ぎたいところですが、箱馬車って基本的には貴族様方がお使いになるでしょう?あれに乗ってるのが貴族様だとなると放って行くのも後々問題になりそうな……」
そこで俺は疑問を呈す。
「その割には護衛も付けていないようですが?」
そう尋ねた俺に2人が言う。
「いえ。貴族全てが裕福だとは限りませんので、護衛を付けないこともあり得ますよ」
「そうですね。特に先代の国王陛下が貴族の子女に"遺跡"へ入ることを義務付けてからは、財政的に厳しくとも送り出さなくてはならない家もあると聞きますし」
まぁ、そういうこともあるか。
特にベルガさんの言葉は、護衛依頼を請けたことがるらしい"金戦華"の経験から来るものだったようだ。
「はあ。あれもそういった類のものだと」
「まだ断言はできませんが……まぁ、とりあえずお声がけして、先方の出方次第で決めましょうか」
俺の言葉にメルクスはそう返すが、相手が危険人物でないとは限らない。
なので俺は提案する。
「なら、俺とララで先行して話を聞いてきます」
「いいのですか?」
「ええ。実際に声を掛けてもらうのはララで、俺は少し後方で待機しますが」
ララならいきなり襲われたとしても問題なく対応できるだろうし、俺は彼女に合わせて動けばいい。
「わかりました。ではお願いします」
商隊の最後尾からララを呼んだ俺は、彼女を伴って傾いたままの馬車へ向かった。
「貴族ねぇ……礼儀として兜を取れって言われたら?」
「ならメルクスには放置を進言する。町の兵か役所に報告ぐらいはするがな」
「わかったわ」
そんな話をしつつ俺達が箱馬車に近づくと、困った顔の御者がこちらを警戒する。
「な、何の用ですかっ!?」
遠目からでもわかっていたが御者は男だ。
20歳ぐらいで中肉中背の、割と整った顔をしている。
ただ……戦いに慣れているようには見えないな。
あくまでも見た目と態度からの推測だが、護衛を兼任しているわけではなさそうだ。
彼の言葉に俺は足を止め、ララはそのまま進み出た。
「私たちは後ろの商隊の護衛よ。関わるなというのなら何もせず通り過ぎるのだけど、依頼人は望むのなら同行を許可するらしいわ。どうする?」
貴族に対してどうなのかという彼女の態度ではあったが、まぁ一介の冒険者が礼儀をわきまえていなくても不思議ではないか。
そう思ったのは俺だけではないようで……ララの声が箱馬車の中にも届いたのか、その乗降口のドアが開かれると1人の女が顔を出す。
カチャッ、キィッ……
「えっ、ベレーナさん?」
御者の男は顔を出した女に声を掛けるが、女はそれを無視して馬車を降りる。
貴族らしい格好ではないが戦えるような服装でもなく、一般的な女の旅装といった感じだった。
そんな彼女は地面に降り立つと、すぐに後ろへ振り返って手を差し出す。
「どうぞ、お嬢様」
「ええ」
スッ……
その声に応じて中から伸びてきた手がベレーナさんとやらの手に乗せられ、続けてその手の主が姿を現した。
「んっ……っと」
トトッ
馬車が傾いているせいで目測を誤ったのか、その女は少し躓く。
その瞬間、
ブルルンッ
と胸が大きく揺れ、かなり大きいことが覗えた。
イスティルの冒険者ギルドで受付嬢をやっているナタリアよりも大きいな。
そんな彼女もベレーナさんと同様に旅装であり、躓いたことを取り繕うように小さく咳払いをする。
「コホン。こちらの者が失礼しました。私はスレッタ・バラミューサと申します」
御者の無礼を謝罪する彼女は頭を下げ、それによって再び胸がゆさりと揺れた。
とりあえずは危険もなさそうなので、俺も近づいて話を聞く。
断じて、スレッタさんの胸を間近で見たいからではない。
「えーっと、我々は……」
「聞こえておりました。後ろの商隊の方なのですよね?」
にこりと微笑んで言う彼女は、薄桃色の長い髪をしている美女だった。
体格はごく普通の細身であり、大きな胸以外に目立つ点はない。
やはり戦えるようには見えないが……王家の決め事で"遺跡"へ向かうのだろうか?
そう予想しつつ俺は対応する。
「はい。我々は護衛の冒険者で、私はジオ、こちらはルルです。我々とは別ですが、女性のみである"金戦華"というグループの一部も同行しております」
"金戦華"は女性のみで大手という冒険者のグループだし、彼女達が一緒だということでスレッタさんを安心させようとしてみた。
するとスレッタさんは狙った通りに警戒を解き、俺達に頼み事をしてくる。
「そうなのですね。こちらはご覧の通り、車軸が折れて馬車が使えなくなりまして……申し訳ないのですが、そちらに同行させていただけないでしょうか?」
「えーっと、あちらも荷物があるので乗れる場所は少ないのですが」
俺の言葉に彼女は首を横に振る。
「いえ、同行させていただければ十分です。目的地は"遺跡"の町ですし、そこまで遠くはありませんから」
「つまり、身の安全さえ確保できればいいと」
「ええ。無事に辿り着けなければ、当家の維持が難しくなりますので……」
やはり王家のせいで"遺跡"へ向かうのか。
無事に辿り着いたとしても、魔物が巣食う"遺跡"に入って無事で済むとは思えないのだが。
ただ、無事に到着したいというのならば疑問が残る。
「それにしては護衛もいないようですが……」
隣からララがそう尋ねると、スレッタさんは複雑な表情になった。
「えっと……当家は平民より少し良いぐらいの家でして、戦力と言えば村の方たちぐらいなので……」
やはりそういった家の人だったか。
物理的、もしくは財政的にごく小規模で、専業の兵士などが必要ない程度には安全であるのだろう。
となると、ここにいる御者の男も統治している村の人間か。
そんな家の女を"遺跡"に入らせて、王家の目的はいったい何なんだ?
まぁ、そこは俺が口出しをすることでもないので話を本題に戻す。
「では依頼人に確認してみますが、そちらのお荷物はどうされますか?」
「そこまで多くはありません。大きめの鞄1つですので、馬に直接乗せれば問題はないかと」
貴族にしては少ないようだが、これも家の事情によるものだろう。
今は少ないに越したことはないし、彼女の要望を受けた俺は商隊へ戻ることにした。
「わかりました、では少々お待ちを」
ガラガラガラガラ……
ブルブルブルブル……
「……」
馬車の振動により、俺の隣では大きな胸が小刻みに揺れている。
その持ち主はスレッタさんであり、彼女の腰には俺の手が回されていた。
あれから無事にメルクスの了解も取れ、彼女達は同行することになったのだが……やはり仮にも貴族だということで。
スレッタさんを自分の馬に乗せ、あちらの荷物をこちらの荷馬車に乗せるかという話になるも、彼女は馬を操れないとのことだった。
鞍があったので乗れるのかと思ったら、乗れるのはベレーナさんだけだそうだ。
御者だった男はベスケイドという名前らしいが、彼も馬には乗れないらしい。
何故か振り落とされるのだとか。
嫌われてるのか?御者はやれてるのに。
その辺りは良くわからないが……ベレーナさんが操るにしても鞍が1人用なのでスレッタさんも乗るのは少し難しく、なので何とか馬車に乗せようという話になった。
そこでメルクスやベルガさんに、荷馬車の荷物の上に乗る俺の隣が推薦されたのだ。
いざというときには飛んで逃がせるからだろう。
別に近くにいる必要はないが、座席があるわけでもないので落下してしまう可能性もある。
その度に氷の"手"でそれを防ぐぐらいなら、最初から一緒にいればいいという話になった。
スレッタさん本人はどうかと心配したが、
「いえ、その……へ、変なところを触るのはなるべく控えていただければ……」
と言われて了承される。
なるべく、ということなら少しは触ってもいいのかと考える余地があるのかもしれないが、それは俺が護衛の代表という立場だったので強く拒否できなかっただけだろう。
なので俺はあくまでも落下を防ぐために腰へ手を回しておくだけに留め、しかしながら振動でブルブルと揺れる胸を横目に周辺の警戒を続けていた。
スレッタさんの同行者であるベレーナさんは友人兼メイドさんらしく、俺達の近くで自分達の馬に乗っているがそこまで俺の動きに注目していない。
他にも女性が多く関係は悪くなさそうなのを見て、下手なことはしないと信用されているのだろうか?
そして御者の男、ベスケイドは……馬をベレーナさんが担当することになったので、彼女とは反対側を自分の足で歩いていた。
「……」
少し気になるのは、彼が俺に鋭い視線をぶつけてきていることだ。
身近でお世話をしていた女に、いきなり現れた男がベタベタしていれば気分は良くないか。
いや、ベタベタはしてないけどな。
まぁ、その気持は理解できなくもないので放っておいた。
だが……休憩で商隊が止まり、スレッタさんと一緒に馬車を降りて水を配っていると騒ぎが起こる。
ビーナが彼に詰め寄ったのだ。
「アンタねぇ!ジオに嫌な目を向けてんじゃないわよ!」
彼女は危ない目に遭ったことからしばらく俺の近くへ配置されることになっており、それでベスケイドの俺への視線が鋭いことに気づいていたようだ。
俺は納得して放っておいたが、ビーナからすると命と貞操の恩人である俺に対する視線としては我慢できなかったらしい。
貞操についてはむしろ奪ったほうだけど。
とにかく、揉め事はよろしくないので止めに入る。
「ビーナ、その辺にしておけ」
「でも……」
止められることに納得のいかない彼女は不満を顔で表した。
そんなビーナにベスケイドが反論する。
「フン!魔法使いだかなんだか知らねぇが、お嬢様の身体をいやらしく撫で回してるからだ!どうせあの胸もいつか揉むつもりで隙を伺ってたんだろ!」
遺憾の意を表明したい。
スレッタさんの腰に回した手は、体勢を崩しそうになるほど揺れたときにしか触れていないからな。
あの胸についても関心がないわけではないが、許可もなく触ろうとは思うほど執着しているわけではない。
なので抗議の声を上げようとすると……そこでスレッタさんが割って入る。
「止めてください!ベスケイドさん、ジオさんはそんな方ではありませんよ?」
「いいえ、そりゃあ仮の姿ってやつですよお嬢様。真面目なフリで油断させて、野営のときにでも立場を利用して「置いていかれたくなかったら……」って貴女を犯すつもりだったに違いありません!」
いやないよ、随分な言い様だな。
酷い言い様だと思ったのはスレッタさんもだったようで、彼女はベスケイドに謝罪させようとする。
「言い過ぎですよベスケイドさん!お世話になっている立場だと言うのに!」
「その立場ってのが問題なんですよ!大体、同行してからこっち、特に何もしてねぇじゃねぇですか!」
今日は開けた地域を進んでおり、劣勢になった場合の隠れる場所や逃げ道がないからか、スレッタさん達を拾ってからは襲撃に遭うことがなかった。
つまりまぁ……ベスケイドは俺の実力を知らないからこそ、護衛の代表というこの立場も実力以外の事情によって居座っていると思ったのか。
それが何故なのか疑問だが、簡単に言えば舐められているということである。
まぁ、この辺りでは有名人というわけでもないのでそれは仕方ないか。
しかし、このままではこの先ずっと揉めそうなので……少し俺の実力を体験させることにする。
ガシガシッ
「っ!?何だこりゃ!冷てえっ!」
俺は例によってベスケイドの両腕を氷の"手"に掴ませ、浮かせて宙吊りにした。
「くっ!」
バタバタ……
藻掻いて足をバタつかせるベスケイド。
そんなコイツに俺の仕業だと教える。
「そいつは氷の"手"だ。水を出せるだけじゃないぞ」
そう言うと俺は氷の"手"を操り、ベスケイドの腕を後ろ手にした。
続けて追加の"手"を出現させると、黒いオークが持っていた大きなハンマーを掴ませて目の前で振り下ろす。
ヴンッ!ブワッ!
「ひっ」
ハンマーは地面へ当たる前に止めたが、その風圧から勢いや威力をある程度想像できただろう。
その証拠に、
「す、すみませんでしたぁっ!」
とベスケイドはあっさり謝罪し、続けてスレッタさんも雇用主として謝ってきた。
「本当に申し訳ありません。お世話になっておきながらここまで失礼なことを……」
「あぁ……まぁ、わかってくれたようなのでもういいですよ」
そう返して仕事と休憩に戻ると……それからはベスケイドも大人しくしており、移動を再開しても何事もなく本日の野営地に到着する。
「「……」」
いつものように氷で商隊を囲むと、スレッタさんやベレーナさんが無言で驚いていた。
ベスケイドも……コソコソしていたが驚いたようだ。
その後、食事の準備でインスタントスープを提供し、それを口にした彼女達は目を見開く。
「「っ!?」」
数に限りがあるので数日置きにしか出していないのだが、一応は貴族様なのでもてなしたほうがいいかなと思って出しておいた。
一応は貴族がいるので安全の確保という名目で俺も近くにいることとなり、食事も一緒に済ませることとなる。
ふむ、この反応を見る限りではお気に召したようだ。
スレッタさんがスープの感想を口にする。
「こんなに美味しいスープは初めてです」
「貴族同士の食事会などで出ませんか?」
「えぇっと……当家と付き合っても利益はないので、そういうお誘いが来た場合は私自身がお目当てなのではないかと思われまして……」
「でも、それで縁が出来ればそちらには利益があるのでは?」
彼女自信がお目当てだとしても政略結婚に繋がるかもしれないし、本人はともかくバルミューサ家にとっては良い話だろう。
しかし、そこについては俺の考えが甘かったらしい。
「いいえ。そういうお誘いは基本的に上位の家から来ますので、そうなりますと……そのぅ……」
「……弄ばれるだけで、責任を取れと言っても上位の家では強く言うことも出来ずに泣き寝入りとなるでしょう」
言いづらそうにしていたスレッタさんを引き継ぎ、友人でもあるからか隣のベレーナさんがそう答えた。
「えぇ?そんな事があるんですか?」
「ありますよ。上位の家に対しては、確たる証拠がなければ国に訴えてもほぼ通りません。肉体関係を持ったかは、シーツなどの証拠が残っていそうなものを処分されてしまえば鑑定のマジックアイテムを使ってもわからなくなります」
「証人は……」
「相手の家に出向くこととなれば、こちらの人間以外は全員相手の身内ですよ?相手に都合の良いことを言いますよ」
「oh...」
ベレーナさんの説明を聞いてスレッタさんを見るが、その表情からこの話が常識的なものであると覗えた。
偽証や証拠品の隠滅が普通なのか、そりゃズルい。
もちろん誠実な対応をする者も存在するのだろうが、そんな相手なら最初から政略結婚を見据えてのお誘いだと伝えてくるだろう。
他の誰かに先を越される可能性もあるわけだし。
つまり……そんな説明もなく彼女が誘われた場合は弄ばれるだけで、家としても個人としてもメリットがないという結果になる可能性が高いので応じないということか。
その上に王家の取り決めで"遺跡"行き。
気の毒だなぁ。
これ以上そのことについて聞いてもいい気分にはならないだろうし、話題を変えて2人の関係などを聞きながら食事を済ませた。
その後……食事の後片付けをして、空が暗くなると就寝することになる。
だがそこで、貴族の護衛をしたことのあるらしいベルガさんが提案してきた。
「ジオさん、スレッタ様の寝姿は周りに見せないようにしておいたほうが良いかもしれないわ」
「あぁ、貴族だからですか?」
「えぇ、女性の場合は身内以外の男性に寝姿を見せないのが貴族の常識だから」
「なるほど」
まぁ、結婚した場合に妻の寝顔を別の男が知っているというのは気を悪くする人もいるだろう。
逆に、夫の寝顔を他の女が知っていることで気分を悪くする妻もいるだろうな。
それは理解できる話なので、この野営地の中にまた別の小さな囲いを作った。
荷物を運び込む事も考え、それに加えて女2人が横になれるよりも一回り大きいぐらいのものだ。
内密な話もするだろうからピラミッド状の天井も付け、通気口は開けるが小さめのものにしておく。
覗かれる不安も減らせ、酸欠になることもないはずだ。
入口はその面だけを二重にし、その間にスライドドアを挟み込む構造にした。
入口の下部にはドア用のレールも作ってあり、獣脂を塗って滑りやすくしてある。
両面に出っ張る形の取手には革を巻き、これで握るのに冷たさを我慢する必要はないだろう。
防犯のためには鍵も必要だ。
これは閉めた状態で噛み合う大きな蝶番をドアと壁の双方に設けてあり、そこに適当な棒を落とし込んで施錠できるようにした。
「ここを使ってください」
「い、良いのですか?ここまでしていただいて……」
この待遇にスレッタさんは恐縮しているが、やはり下級貴族だからだろうか。
しかし、ここで断られても魔力の無駄になるので利用を勧める。
「ええ、せっかく作ったので使ってください」
俺はそう言うとランタンを片手に中へ入って見せ、スレッタさん達を中へ招くと鍵の説明をした。
「閉め出されないように気をつけてくださいね」
「え、ええ」
「はい」
最後に、鞄からあるものを取り出して2人に手渡した。
「暖かい……これは?」
「簡単に言うと金属の容器にお湯が入ってます。特殊な構造なので他人に見られないようにしてください」
これは、これから気温が下がっていくのに備えて用意していた湯たんぽだ。
銅を素材のまま買って二重構造の容器にすると、その間に草の繊維で作ったスポンジ状の断熱材を仕込んでおいた。
断熱材はちょうどいい温度になるよう何度か調整し、40度ぐらいに感じられるものとなっている。
キャップは馴染みのあるネジ式で内側には柔らかくした革が注ぎ口を密封できるようにしてあり、これがこの世界ではまだ一般的ではないようなので秘密にするよう言っている理由だった。
「じゃあ、ごゆっくりお休みくださ……」
「少々お待ちを」
「え?」
湯たんぽを渡して外に出ようとすると、スレッタさんに呼び止められる。
「何か?」
なので引き止めた理由を尋ねてみると……
「あの……ど、どうぞ」
タプン
何故か、彼女は自分の大きな胸を持ち上げて俺に差し出してきたのだった。
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