ep65 行方不明のビーナ
いきなり現れて商隊を包囲したオーク達。
とりあえずは被害を出さないようにとそれらを俺が殲滅し、その方法に驚いて商隊の面々が固まった。
氷の杭を頭部に打ち込み、水蒸気にして破裂させるという方法だったのだが……頭部を破裂させる程度の爆発力だったし、驚かれたのは威力そのものではなく数十体のオークを一度に処理したことなのだろう。
それを裏付けるようにマリベルさんが詰め寄ってくる。
「すごいじゃないですか。ここまでのお力をお持ちとは……どうやってオークの頭部を破裂させたんですか?」
「えーっと……」
周りの目耳もあるのでゴーレムの仕様については伏せ、氷の杭を水蒸気に変化させたことでああなったとだけ言っておく。
「氷や水は水蒸気になると何倍にも膨れ上がる……なるほど」
その説明に納得した彼女の後ろから、今度はベルガさんが近寄ってきた。
「ジオさん、お見事でした。他に敵はいますでしょうか?」
流石に大きな冒険者グループの幹部なだけあって、すぐに警戒態勢を解いたりはしていない。
そんな彼女に俺は索敵をしつつ答える。
「んー……わかる範囲にはいないんじゃないかと思いますが」
その言葉にベルガさんは目を細める。
「先ほどのこともそうですが、ジオさんは魔物の位置がわかるのですか?」
「えーっと……」
被害を出すまいとオーク達を察知した瞬間に警告をしたのだが、やはりその点について疑問を持たれてしまったか。
目が良くてたまたま見えたと言っても、木や草の陰にいて姿が見えていなかったはずのオークにも氷の杭を撃ち込んでいるので納得はしてくれないだろう。
秘密だと言っておいても、この状況では彼女の推察を払拭することはできないよな。
……仕方ない。
ここだけの話として、魔物を感知できることだけは教えてしまうか。
「まぁ……限られた範囲にはなりますし、全ての魔物をというわけではありませんが」
すると、ベルガさんはとてもいい笑顔を見せる。
「まあ!そうだったのですか。これは今後とも良い関係を続けていきたいところですね♪」
ペロリ
そう言って性的なアピールのためか、自身の唇を舐めて見せるベルガさん。
初めて会ったときは女であることを利用するのに気が進まないようだったのだが、少なくとも俺に対してはだいぶ躊躇しなくなったな。
魔物を事前に察知できるというのは、それだけ冒険者にとって価値が高いということだろう。
あぁ、人里の間を移動する者なら冒険者でなくても同様か。
かと言って、護衛や索敵の依頼を請けるつもりはないのだが。
などと思っていると……別の視線を感じた。
「……」
それはマリベルさんのもので、所謂疑惑の視線というものだった。
ベルガさんが来ると護衛としての話だと思って黙っていたようだが、彼女の言動で性的な関係をほのめかしていたことで俺達の関係に疑いを持ったようだ。
まずいな、話題を変えよう。
「えーっと、とりあえず敵はいなくなったようですが、この場の処理はどうしますか?」
「オークの死体は部分的に売れますが……あぁ、討伐証明ですか?」
「いえ、オークに襲われた人達のほうは放っておいていいのかなと」
武装していたのなら冒険者や兵士だったのだろうし、彼らが仕事で動いていたのならその仕事を与えた人間がいるはずだ。
となれば、彼らの関係者にこの状況を伝えておいたほうがいいだろうと思ったのだが……
「そちらのほうですか。特に何かをしなくてはならないという決まりはありませんよ」
1人や2人ならともかく、あれだけの数の遺品を回収するとなると結構な荷物になる。
なので基本的には金目の物か、冒険者ギルドの登録証や兵士なら所属を表すドッグタグのようなものだけしか回収しないらしい。
まぁ……荷物を増やすことで進みが遅くなったりするだろうし、回収に時間がかかれば別の敵に襲われるかもしれないから仕方ないか。
ベルガさんから聞いた話にそう納得していると、その話を聞いている間に来ていたビーナが口を挟む。
「そもそもの話、その辺で死んでる連中に気を遣う必要はないんじゃない?」
「え?なんでだよ」
「武装した100人近い集団が、おそらくその場で食べられてるのよ?じゃあ、その集団はこんな所で何してたって話になるでしょ?」
「む……」
確かに。
オーク達に襲われてその場で食われていれば、武装集団は森の中に潜んでいたことになる。
そうなると……
「え、盗賊か何かだったのか?」
「おそらくね。兵士なら揃いの装備になってるはずだし、冒険者か盗賊だったんだと思うわ」
「登録証は?」
「ベルガさんの指示で身体に残っていたものは回収してあるわ。見当たらないものはわざわざ探してないけど」
特になにかする必要はないと言っていたが、登録証の回収だけは指示していたのか。
ベルガさんに目を向ければ、彼女はビーナの発言を補足する。
「冒険者として登録していても盗賊でないとは限りませんから。あの規模の盗賊なら、ここにはいない仲間が人里の情報を収集している可能性もありますし」
「なるほど」
規模が大きければ、それだけ大きな稼ぎも必要だろう。
となれば効率よく稼ぐ必要もあり、狙う商隊を吟味するために仲間を人里へ置くことも十分考えられるな。
そういった連中を手配するのに、ここで回収した登録証があれば効率が良いということか。
まぁ、連中が盗賊であると確定したわけではないのだが、そうでなくても特に何もする必要はないということで放っておくことにする。
「じゃあ、もう出発しますか?」
「そうですね。依頼を請けている以上は商隊の護衛が最優先ですし、そうでなかったとしても他に魔物がいる可能性もありますから長く留まるべきではないでしょう」
ベルガさんの言葉でここから去ろうという流れになりかけるが、そこでその依頼主であるメルクスが待ったを掛けた。
「あの、どうせならオークの魔石だけでも回収していきませんか?」
「いや、敵が残ってるかもしれないので先へ進んだほうが……」
そう言った俺にメルクスは理由を話す。
「いえ、いきなり現れたというのが気になりましてね。倒したオーク達の魔石を回収してギルドで鑑定し、特殊な能力を持つ者を倒せているか確認しておいたほうが良いでしょう」
「なるほど。倒したオーク達の中にいきなり現れるような能力を持つ者がいなければ、その力を持つ者は生きていて他の旅人……いえ、何ならこの商隊を再び襲ってくるかもしれませんね」
「でしょう?イスティルへ帰る途中に遭遇するかもしれませんし、いるとわかっていれば相応の戦力を揃えておかなくてはなりませんから」
「そうなると、ベルウェイン商会がその費用を出すんですか?」
「ギルドに報告し危険な魔物だと認定されれば、うちがその費用を負担することもありませんが……」
「認定されない可能性もある、と?」
ここでベルガさんに聞いてみると、彼女は頷いて答える。
「ええ、証言のみでは……調査員が派遣され、対象を確認できれば特定危険害獣として認定されると思いますが」
「確認ですか、そうなると結構な実力者が派遣されないと難しいですね」
「そうですね。少なくとも同じ規模の集団が襲ってくると考えておいたほうがいいでしょうし、それを退けられるぐらいでないと……」
情報を持ち帰ることができない。
そう言おうとしたところでビーナが口を開く。
「まぁ、それは今その辺で転がってる連中に"いきなり現れる能力"を持つ者がいなければでしょう?魔石の回収だけならそこまでの時間は掛からないでしょうし、やるなら急いでやってしまったほうが良いんじゃありませんか?」
それもそうだ。
というわけで……帰路で襲われることを懸念したメルクスの意向を受け、俺達は急いでオーク達の魔石を回収することにした。
"金戦華"の面々が魔石の回収作業を担当し、俺とララは商隊に残り警戒を続ける。
そうしてしばらくすると魔石を回収した者から戻ってきたので、水のゴーレムからシャワー状に水を出して魔石や手を洗わせてあげていた。
ジャババババ……
「あ、ありがとうございます」
ススッ
「……いえ」
例によってゴーレムの核となる魔石を拳に握り込んで隠しているのだが、手を洗い終えると水のゴーレム本体のほうに手を入れて俺の手に触れてくる者が出始めた。
ベルガさんとビーナは見回りも兼ね、道の左右へ分かれて森に入ったまま。
ララは車列の後方で警戒に当たっており、近くにいる女となるとマリベルさんぐらいだ。
そんな彼女の目が向いていない間に手を撫で回されるのは、俺の実力を見てのことだろう。
それ自体は別にいいのだが……"金戦華"のメンバーが全員俺の好みというわけでもなく、微妙に困っていたりした。
まぁ、どうせもうすぐ魔石の回収は終わるだろうから別にいいが。
そう思っていると魔石を回収してきた人達が続々と戻り、ベルガさんも道の左側のエリアに味方が残っていないことを確認して戻ってきた。
同様に道の右側のエリアに行っていたメンバーも戻ってきていたのだが、ビーナだけはまだ戻っていない。
「ビーナは?」
「見回りしてるのは見ましたけど……」
「私も見ました」
「私も」
ベルガさんに聞かれたメンバーがそう答えたので、見回りとして動いていたのは確かだろう。
そんな中からこんな情報が上がる。
「私は魔石を回収してるところを見ました。あの娘は見回りもあるし、魔石を預かって戻ろうと思ったんですが……先に戻ってていいって言われまして」
「そう。何かあったのかしら……?」
「え、ど、どうしましょう?」
報告を聞いて心配そうにするベルガさんとメルクス。
メルクスの場合は魔石の回収を言い出したのが自分なので、それで気まずそうにしているようだが。
……仕方ない。
少し考えた俺はビーナの捜索を申し出る。
「じゃあ、俺が探してきます」
「良いのですか?」
「俺なら空から探すこともできますし、魔物に限定すればその動きで人を襲っているかわかりますので」
「なるほど。ではお願いします」
ベルガさんは俺が魔物を感知できることを知ったので、ならばと俺に任せることにしたようだ。
「じゃあ、行ってきます。ルル、こっちは任せる」
「わかったわ」
車列の真ん中に呼んだララに俺の代わりを任せ、人が座り込めるぐらいの氷の"箱"を出すと空へ上がった。
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