ep64 突然のオーク包囲網
ファースレイを出てから数日後、森の中を通る道を進んでいると戦闘跡が発見された。
"金戦華"のメンバーが調べたところによると、数十人から100人ほどが亡くなっているらしい。
報告を受けたメルクスがベルガさんに尋ねる。
「数十人から100人ほどというのは、結構幅がありますね」
「遺体の損傷が激しく、失われている部位も多いので……」
「ということは魔物ですか?」
「足跡からするとおそらくはオークでしょう。それもあの規模の人間を殺せるとなりますと、数が多いか強力な個体がいたのだと思われます」
オークか。
最下級のノーマル級でも、一般的な男なら3,4人はいないと対処できないらしいが……それは共通認識だったようで、商隊の全員が嫌な顔をしている。
「「……」」
特に"金戦華"のメンバーは激しく嫌悪しているらしく、それはオークもゴブリン同様に人間の女を性的に襲うことがあるからのようだ。
「うわぁ……じゃあ、なるべく急いで進みましょう!」
メルクスも心底嫌そうな顔をしてそう言ったのだが、しかしベルガさんは首を横に振った。
「いえ、あれだけの人間を襲ったとなると相応に頭の回る個体がいると思われます。待ち伏せを警戒して、進むのは偵察を出してからにしたほうが良いかと」
「襲うだけならそこまで知恵がなくても可能では?」
「襲うだけならそうですね。ですが……逃げてきた人を見ましたか?」
「え?……いや、見てませんね」
「反対側へ逃げた可能性はありますが……もしもあの人数の人間の逃走を阻止していたとなると、襲った側は自分達のことが露見するのを不都合だと考えられる程度には知恵があることになります。だとすれば、待ち伏せぐらいはやっていると考えたほうがいいでしょう」
「た、確かに……では、偵察を出しましょう」
ベルガさんの懸念は現状から見て当然のものであり、メルクスもそれに納得すると偵察を出すことに賛成する。
俺もそのほうが良いだろうと思っていたのだが……そこで周囲に警戒を促した。
「っ!?敵だ!気をつけろ!」
「「っ!?」」
一応は俺が護衛の代表ということになっているからか、周囲は驚きつつも迎撃体制を取り、その上でベルガさんが尋ねてくる。
「あの、どこに敵が……」
「「「ブオォォォッ!」」」
「「っ!?」」
ベルガさんの疑問を遮るように周囲から遠い雄叫びが聞こえ、商隊の面々はぎょっとした顔で迎撃体制を取った。
「ど、どこから……」
「周囲全体からですね。距離は少しあるようですが、囲まれてます」
呟くメルクスに俺はそう答える。
ここまで断言できるのは、俺が一定の範囲内にある魔石を感知でき、魔物は全て魔石を持っているらしいからだ。
その種族までは遭遇して知っていないとわからないのだが、事前に察知できるだけでも十分に役立っていた。
しかし、今回は少し事情が違う。
こいつらは全員、いきなり感知範囲に現れたのだ。
俺は襲撃に備えて最後尾へ戻っていたララにゴーレム通信で連絡を入れる。
ララ、あいつらは俺の感知範囲にいきなり現れた。十分に気をつけろ。
(いきなり?全部?)
ああ。
(じゃあ、以前の見えないゴブリンみたいな能力を持ってるってこと?)
わからん。ただ数十体いるが、全員がそんな能力を持っていることなんてあるのか?
(聞いたことないわね……雄叫びは聞こえたけど、姿はまだ確認できていないわね。距離はまだある?)
少しはな。近づいてくる速度はそこまで速くない。
(だとすると……距離があるのに魔石の反応を感知させたということは、存在を隠せる能力というわけではないんでしょうね)
だろうな。そうだったら近くに来るまでその能力を使っていただろうし。まぁ、何らかの事情で能力に制限があるのかもしれないが。
(そうね……でも、100人近い人間の集団がやられたのには納得できたわ。数十体のオークにいきなり囲まれたら、よほどの強者でもない限りはそうなるでしょうから)
とりあえず、俺達はそうならないようしよう。そっちは前にオークと戦ったことあったよな?
(ええ。ノーマル級なら20体ぐらい、リーダー級なら5体ぐらいは同時に対応できるけど……指揮官がいるとなるともう少し厳しくなるわね)
獲物を逃さないようにするぐらいは考えてるみたいだからなぁ。まぁ、危なくなったら言ってくれ。適当なゴーレムと入れ替えて回収するから。
(了解)
ララとの通信を終え、襲撃に備える。
「ベルガさん、オークとの戦闘経験は?」
「もちろんあります。ですが、包囲されるほどの数とこの状況を考えると……厳しいですね」
身体能力を強化できるスキルを持つベルガさんでも、護衛対象や部下たちのことを考えれば不利だと言わざるを得ないようだ。
そんな彼女は小声で言う。
「あの、いざというときはお願いします。お好きなだけお相手しますので」
以前話した、危ないときは氷の"手"で空へ逃がしてくれというお願いだ。
ベルガさんは真剣な目をしており、それだけ危機感を抱いているのだろう。
ビーナには"金戦華"へ深入りするつもりはないと言ってあるし、彼女と関係を持つのもなるべくは避けたほうが良い。
というわけで……
「はあ。まぁ……冒険者としての評価に関わるでしょうから、なるべくそうならないようにしましょう」
と返してオークの襲撃を待ち構えた。
ドズッドズッドズッドズッ……ガサガサガサッ!
「「ブオォォォォッ!」」
足音が近づくに連れ、木々の間や草の茂みから徐々に巨体が見えるようになる。
以前にも見たが……身長は2m以上ありそうな力士に似た体型だ。
身体は人型で豚のような頭部をしており、口の端から上向きに鋭い牙が生えていた。
腕や足も太く、確かにあれを相手にするなら男でも3人以上は欲しいところである。
見える限りでは木を削って作ったような棍棒を持っているし、それを考えるともっと人手は欲しいところだろう。
それはいいのだが……気になる点が1つあり、ベルガさんの指示もあって俺の近くにいるマリベルさんへ尋ねた。
「あの、マリベルさん。聞きにくいんですが……なんでオーク達は前を大きくしているんでしょうか?」
そう。
連中は草で作ったような腰蓑を纏っているが、何故かそれをかき分けるように隆起した大きなモノが露出していたのである。
前に見たときはあんな状態になってはいなかったと思うが。
というわけで……マリベルさんはギルドの職員だったのだし、ある程度は詳しいと思って聞いてみたのだ。
すると彼女は嫌そうな顔で答える。
「あぁ……ゴブリンなんかもそうですが、女性を襲う場合はああなることがあるようです。おそらくは先ほど発見した方たちでお腹が満たされていて、次は性欲ということなのではないかと」
「なるほど」
女を性的に襲う魔物もいるとは聞いていたし、今回はそちらが主な目的だということか。
連中の食料になったらしい人達は武装していたそうだし、となれば武器の類もあったはずだ。
武器を持つという知恵があるのなら、それを利用するぐらいのことは考えてもおかしくない。
それでも人工の武器を使わないのは……
「こっちに女性が多いのをわかっていて、なるべく傷付けずに捕獲するつもりですかね」
「おそらくは」
俺の言葉にマリベルさんは同意すると、耳元に顔を寄せてきた。
「あの、本当に大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ではあると思いますが……」
最悪でも空を飛んで逃げられるので、敵が飛び道具でも使わない限りは身の安全を確保できるとは思う。
しかし、その飛び道具や距離があっても攻撃できる手段を持つ可能性があるので、この場で始末できるのであれば始末しておいたほうが良いはずだ。
問題は……連中を始末する方法だな。
これについては、オークに限定せずとも商隊の護衛をすると決めたときから考えていた。
呼吸をしている相手なら窒素のゴーレムで殺せるかもしれないが、そうなると周りからは連中がいきなり倒れて死んだように見えるだろう。
ただ、敵がいきなり倒れて他に魔法使いがいない状況でとなると、その場でそれが可能なのは魔法使いということになっている俺の仕業だと思われるはず。
風を操る魔法はあるらしいので、それ自体はもう魔法だとして知られてもいいのだが……暗殺に使いやすいであろうこのやり方ができると思われれば、今後似たような事があった場合に俺がやったのだと疑われかねない。
それは人聞きが悪いし、生命の維持に呼吸を必要とする相手への奥の手として隠しておきたいんだよな。
水で窒息させるにしても同様で、その場合はゴーレムの核である魔石が周りから見えてしまうのもあって一旦この手は却下とする。
まぁ、その場合は土を混ぜ込んで不透明にしまえば魔石も見られないとは思うが……この方法自体は死ぬまでに時間が掛かるだろうし、それまでに突っ込んできて被害が出るかもしれないし念の為に避けておく。
そうなると、ではどんな手を使うかという話になるわけで。
俺はその準備をし、実行が可能なタイミングを計った。
ドズッ、ドズッ、ドズッ……
「グッグッグッ……フゴッ」
「「ッ」」
近づくオーク達はニヤつきながら包囲網を狭め、その様子に商隊の皆は息を呑む。
距離はもう50mもないな……仕掛けるか。
「仕掛けます!討ち漏らしに気をつけてください!」
俺は味方に大きな声で伝えると、仕掛けておいたものを作動させる。
ドドドドドッ!
「「フギィィッ!?」」
「「っ!?」」
次の瞬間、オークたちの頭頂部には白い杭が突き刺さっており、その様子に味方は驚いていた。
これはゴーレムとして作った、太さ1cm、長さ20cmの"氷の杭"だ。
魔石の位置を把握できることからその全ての直上10mほどに氷の杭を出現させておき、一斉に打ち込んだのである。
自分の頭上はともかく、仲間の頭上にあった杭は見えていたかもしれないが……これは、魔物がゴーレムを敵だと認識するまで警戒しないから使える手だ。
流石に攻撃してきたのだと認識されたら対応してくるが、一斉にやればその認識をされることもない。
もちろんこれで即死すればの話なので、死ななかった場合のことを考えて次の手を考えてあった。
ドサササッ!
「わぁっ!」
「一発で?」
「まぁ、氷の壁で実力があるのはわかってたけど……ここまでとは」
倒れたオーク達を見た味方が歓声や安堵の声を上げたりしているが、俺は再び大きな声で伝える。
「まだ死んだとは限りません!とどめを刺すので近づかないでください!」
そう言って俺は次の手を作動させた。
バババババシュンッ!
倒れ込んだオーク達の頭部が水音と共に弾けて飛び散る。
これは打ち込んだ氷の杭を一気に昇華させ、水蒸気に変化させることで体積を増やし内部から破裂させたのだ。
見た限り、破裂と言うより爆発に近いな。
「うわ」
これもまた一斉に起こしたことだが、予想より派手に弾けたので頭部が丸々吹き飛んだりしていたので俺も少し驚く。
硬い骨を貫くには強度や速度など、それなりの出力が必要だと考えた。
その出力を確保するため、魔石をなるべく大きくする必要があったのでこの太さ(水の量)になったわけだが……少しやりすぎたか?
いや、舐めて掛かるのは良くない。
ギリギリオークの頭部を貫けるような杭にしていれば失敗していた可能性もあるし、それで被害が出てはまずいのでこれでいいか。
「「……」」
味方は俺以上に驚いたらしく、口を開けて目を見開いている。
とりあえず……オークの魔石を回収する作業が始まる前に、爆発でその辺に転がっている俺の魔石を"格納庫"に仕舞っておこう。
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