ep63 夜間問答
ファースレイを出た初日。
野営と夕食の準備をし、滞りなく食事を済ませると眠ることになった。
護衛は夜の番をするのだが、俺とララは前半と後半で別れ、"金戦華"も同様に戦力を均等に分けて半数ずつが見張りに当たる。
俺は昼間に眠くなっても馬車に乗せてもらったりできるので、これまでと同じように後半を担当することになった。
ユサユサ……
「ジオ」
「んんぅ……交代か」
「えぇ。今のところは問題なしよ」
「了解。しっかり休んでくれ」
夜中、ララに起こされて夜の番に当たる。
俺とララはテントを用意してあるので、その中で草から作ったマットレスを使い比較的快適に眠れた。
その上で自身をゴーレム化してコンディションを調整し、元気な状態で壁の外を見回ることにする。
テントを出て壁の内側を見れば……"金戦華"の面々は商隊の積荷から木箱を借りており、それを4つの角に置いて踏み台にしていた。
これで壁越しに外を見張れるようにしているのだ。
木箱は空というわけでもなく、それなりの重量があるのでララも運ぶのに手を貸していた。
"金戦華"のメンバーは身体能力の強化ができるベルガさんとビーナを除けば、ある程度は鍛えているが一般的な女より少し筋力があるぐらいだからな。
まぁ、戦うことに対する心構えや身体の動かし方がわかっているぶん、危険に対して冷静に動けるらしいが。
そんな彼女達は俺と違って3交代制で、4人ずつが見張りに当たっていた。
そうなると数人が余るのだが、その人達は別の機会に中間での見張りをすることになるそうだ。
3交代の場合、最初と最後はまとまった時間の睡眠が可能だが、中間だけは睡眠時間が分割されてしまって休みにくいからな。
それで中間の見張りは人気がなく、別の機会で埋め合わせをするというわけだ。
そんな見張りをしている彼女達の中から、比較的近い隅で見張りをしているメンバーに声を掛けて外へ出る。
外へ出てみると……壁から数メートルほどは氷の壁が光を乱反射させているからか、焚き火の熱を吸い込んだような淡いオレンジ色の光が地面を照らしていた。
だが、その先は光を拒絶するような深い夜の闇が口を開けており、急襲して来る相手に対しては少し照らす距離が足りないようにも感じる。
今夜は大丈夫だろうが、次の野営では離れた場所に松明でも置いたほうがいいだろうか?
でも薪の問題があるよなぁ、調理でお湯のゴーレムを使わせられればいいのだが。
まぁ、核となる魔石を見られてしまうだろうから、今のところはナシだけどな。
そんな事を考えていると、後ろから足音が近づいてくる。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……ザザッ
「?」
クルッ
足音が止まると同時に振り返ってみれば、そこに居たのはビーナだった。
彼女も見回りをしていたようで武装している。
「……何してんのよ」
「何って、見回りだよ。ルルもやってただろ?」
「ふーん。ちゃんと交代してあげるんだ」
「そりゃするだろ。睡眠不足で昼間に動きが鈍ったら危ないだろうし」
「こき使ってるってわけじゃないようね」
「俺を何だと思ってるんだ……」
「そういう奴もいるんだから仕方ないでしょ。まぁ、ルルさんの態度から待遇が悪いわけじゃないのはわかってたけど」
「なら聞くなよ」
「聞いてこそわかるものもあるのよ。とりあえず、アンタは必要以上に自分を良く見せようとは思ってないみたいね」
どうやら、そういった人間性を確かめられていたようだ。
ということは……昼間の観察もそのためだったのかもしれない。
「まぁ、必要以上に良く見せた俺を実際に期待されても応えられないだろうからな」
強そうに見えるからと雇われても、実際に弱ければ戦力として役に立たないだろう。
その見かけで抑止力にはなるかもしれないが、戦力として期待されていてもそれに応えることは難しい。
結果、どちらにとっても不幸になるだろうと思われるので、俺は必要以上に見栄を張るつもりはないのである。
そんな俺の返答に、ビーナはこんな事を聞いてきた。
「ふーん……でも、貴族に雇われるためとかで、自分を良く見せたりしないの?」
「別に望んでないからなぁ」
「そうなの?アンタなら声が掛かってもおかしくないと思うけど」
「金は自分で稼げばいいし、権威だってそれを利用できる立場になれば面倒事も増えるだろうからな」
「まぁ……そういう事もあるでしょうね」
何かを思い出したのか、少し険しい顔をするビーナ。
しかし、彼女は表情を戻すと続けて質問してくる。
「じゃあ女は?気に入った女の好みに合わせるとか」
「それだと一緒にいる間ずっと無理をすることになるだろ。それこそ面倒だから無理が必要な相手に手を出す気はないな」
その答えにビーナはこう聞き返してきた。
「逆の立場だったら?自分に合わせる女のほうが良かったりしないの?」
「うーん……?そりゃ合うほうが良いだろうけど、よっぽどいい女なら多少は許容してもいいかな」
そんな相手が俺に言い寄ってくればだが。
でも、そのままの姿でこの世界に来ている以上は元の世界に帰ることができるかもしれないし、それを諦めさせるほどの相手でないと自分を優先してお断りするだろうな。
そう考えての返答だったが、彼女は探るような目で聞いてくる。
「ふーん……じゃあ、ベルガさんやマリベルさんは?」
「何故その2人が出てくる」
「なんかあの2人、アンタといるとき妙に距離が近い気がするのよね」
「っ!?」
なるほど、ここまでの話はそこについての探りを入れるためのものだったのか。
あの2人とは少し近しい関係になっているし、それが普段の態度に出てしまっていたのだろう。
ベルガさんは"金戦華"というグループの幹部だし、マリベルさんはその妹だ。
どちらかに取り入れば……ベルガさんに直接、もしくはマリベルさんを通してベルガさんに、という形で"金戦華"自体に影響力を及ぼせるかもしれず、それを利用して良からぬことを考えているのではないかとビーナは警戒しているのか。
ここはハッキリ言っておいたほうがいいだろう。
「いや、別にあの2人とはそういう関係になるつもりはないぞ」
肉体関係についてはあくまでも成功報酬というだけだし、断れるのなら断る予定なので恋愛関係になるつもりはない。
なのでそう答えたところ、彼女はまだ疑っている表情で問い質してくる。
「そうなの?2人とも美人でスタイルも良いと思うのだけど……」
「そこは否定しないが、あくまでも仕事上の関係に留めるつもりだよ」
「つまり、本命はルルさんだと?」
「え?いやまぁ、ルルもいい女ではあるが……別にそういうつもりはないぞ?」
「彼女には手を出してないの?」
「いや、出したと言うか出されたと言うか……」
「ヤることはヤってるんじゃない。それでもそういう関係ではないって言うの?」
「それはまぁ……俺にも事情があってな。所謂本命って相手は作れないんだよ」
元の世界へ帰るかもしれないからとは言うわけにもいかず、俺は詳しい事情を伏せて言葉を返す。
するとビーナはジト目で聞いてくる。
「ふーん……じゃあ、ヤることはヤるけど恋人になる気はない、と?」
「……まぁ、そうなるな」
そこだけで言えば物凄く印象が悪くなりそうだが……自分から手を出すわけでもなく、恋人になるつもりがないことを事前に了承してもらっての話だからな。
そんな俺の返答に、一歩詰め寄ってきたビーナが顔を近づけてきた。
ザッ、ズイッ
「……」
「……何だ?」
その気がなくても美少女にここまで顔を寄せられると、多少は意識せざるを得ないのだが。
「……」
「……」
「……うん、恋人が欲しいわけじゃないっていうのは本当みたいね」
そう言うと彼女は俺から離れ、
「じゃあ、私はそろそろ交代だから」
と言って壁の中に戻っていった。
うーん、これで"金戦華"に深入りするつもりがないことは伝わっただろうか。
そう思いながら俺は見回りに戻り、この後は何事もなく朝を迎えることができた。
夜が明け、全員が朝食や移動の準備を始める。
そんな中、もういいだろうと思って氷の壁を消すと……俺達の後について来ていた冒険者達の姿が消えていた。
驚きはない。
何故なら、俺は彼らが先に出発するのを見送っているからである。
彼らによると……このまま俺達の後をついていけば、こちらの戦力を当てにしていると思われて揉め事になるかもしれないからと先行することにしたそうだ。
気にしなくてもいいとは言ったのだが、昨夜に作った氷の壁を見て、万が一揉めた場合のことを恐れられたのだと思われる。
別に、変にちょっかいを掛けてこなければ何も起きなかっただろうに。
まぁ、先に進んだ彼らが危険な目にでも遭っていたら助けて、俺を恐れる必要はないということを示すとしよう。
そうして朝食を済ませると、俺達は野営地から出発し再び目的地へと進みだした。
その後、もう一晩を過ごして小さな村に到着すると次の日には村を出ることに。
小さな村では大した補給もできないからだ。
その村としても俺達より早く"遺跡"へ向かったらしい商隊で買い物ができており、タイミング的にどちらにとっても長居するメリットがなかったのである。
そんな村では気になる話を聞いていた。
「やけに急ぐ冒険者達か……」
「我々の後をついてきていた人達ですかね?」
俺の呟きにメルクスがそう聞いてくる。
これは村を出る直前に聞いた話なのだが、数人のチームがこの村に泊まらず通過していったらしい。
そのときの時間から泊まると思っていた村の人は意外に思ったようで、何かに追われているのかと警戒したが何事もなかったそうだ。
「あの人達だったら俺を怖がったのかもしれませんが……」
「そうですねぇ。もしかすると、何かやましいことでもあったんでしょうか?」
「やましいこと?」
「ええ。ほら、我々を襲ってきた連中は別の集団に合流する予定だったみたいな情報がありましたし、件の人達もその関係者だったとか」
「あぁ、あり得ますね」
この商隊の護衛から盗賊になったサベリオ達のことだが、取り調べでそんな情報が出てきたと聞いたな。
「先行した人達が連中の仲間だった場合、俺達のことを伝えて待ち構えているのかもしれませんね」
「そうですね。元々警戒はしてますが、敵が潜んでいられるような場所もあるようなのでもっと気をつけて行きましょう」
その予測はメルクスもしていたようで、商隊にも警戒を強めるように通達する。
そうしてしばらく進み、以前襲われたような森の中を突っ切る道に入ると……
「皆さん警戒を!血の臭いがします!」
先頭の馬車についていたベルガさんがそう声を上げ、進みながらも周囲の探索をすることに。
商隊の護衛もあるので出せる人手は少なかったが、その血の臭いの元は直ぐに判明する。
「道から少し離れた辺りで戦闘があったようです。数十人……もしかすると100人以上が魔物に襲われたのだと思われます」
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