ep60 謝罪
「本当に申し訳ありません」
ベルガさんはベッドに腰掛けた俺へ、頭を下げて謝罪した。
謝罪する理由は、もちろん門番をしていたあの女の件である。
ここは"金戦華"が貸し切りにしている宿の一室だ。
普通に客が借りられる部屋なので、当然ベッドなどが据え置かれていた。
あの後、他のメンバーも顔を出してきたので事情の説明をすると、ベルガさんにここへ連れ込まれて謝罪を受けたところである。
「まぁ、特に大きな被害はなかったので謝罪は受け入れますよ。お気になさらず」
多少魔力を使ってしまったが、実質的な損害はなかったのでその謝罪を受け入れた。
それによって安堵したベルガさんだったが、今後の旅路に影響があるかもしれないからか、改めてあの女について説明する。
「あの娘……ビーナと言うのですが、あの外見から色々と男性に良い印象がないもので。それに少し思い込みが激しくて、私と同じくスキルで身体能力を強化できるので、うちの隊で学ばせているところなのです」
まぁ、美少女であのスタイルだし、不躾な目線やお誘いもあったであろうことは想像に難くない。
ビーナは正式な部下というわけではなく、そのスキルを持っていることからグループとしてベルガさんと同じ役目を果たせるように育てようとしているということらしいが……幹部候補ってやつかな?
「"金戦華"に入って間もないんですか?」
「まったくの新人というほどではありませんが、実際に戦う実働部隊としては日が浅いと言えますね」
「そうですか。しかし、魔法を使えると言っていた俺を侮るのはどうなんでしょう?」
魔法を使える(ということにしている)俺を、盗賊の無力化をすることに直接関わっていないからと侮るようではまだまだなのではないだろうか。
魔法なんて何をしてくるのかわからないし、真っ先に警戒すべきではないのか?
その疑問にベルガさんが答える。
「おそらくですが、ジオさんの格好で大したことはないと判断してしまったのではないかと」
「格好?」
「はい。格好と言いますか……今日は腰に剣を提げてらして普通の剣士に見えますので、魔法が使えると言っても大したことはないと思い込んでしまったのではないでしょうか?」
「あー……」
今日は地下水路の掃除という依頼を受けた。
実際には採水が目的なのでそれを見られないよう、あまり注目されない格好として一般的な冒険者のようにショートソードを腰に下げている。
「一般的に金属は魔法の発動を阻害してしまうので、それで剣を下げていたジオさんを侮ったのかと。だからこそ魔法的な効果を持つ武器は非常に高く評価されますので」
「なるほど」
色んな作品で聞く設定だな。
マジックアイテムとしての武器なら金属製でも魔法の邪魔にはならないそうだが……それでビーナは俺が大した魔法は使えないと判断したのか。
「とはいえ、名乗って用件を伝えている相手に食って掛かるなんて……本当に申し訳ありません」
スッ、プルンッ
再びベルガさんは頭を下げ、それに連動して中々大きな胸が揺れる。
この時間なら宿で防具を装備する必要はないので、それで解放されているようだ。
先日のドレス姿で見た以来だな。
そう思い返していると、彼女は恐る恐る聞いてきた。
「あの、ベルウェイン商会の護衛の件ですが……取り消しになったりしますでしょうか?」
「え、何故でしょう?」
「いえ、揉めた相手と一緒に仕事をというのは基本的に避けたほうがいいでしょうから。メルクスさんはジオさん達のほうを護衛として信用されているようでしたし、であれば外すなら我々のほうなのではないかと」
長い旅路の護衛となれば、それだけ長い期間を共に過ごすこととなる。
となればよく思わない相手と一緒というのは道中でも揉め事が起きやすく、それを避けるためにどちらかは契約をキャンセルされることもあるという。
そうなるとキャンセルされたほうは自己都合でのキャンセルとなり、ギルドからの評価に影響するらしい。
それが表立って吹聴されるわけではないが、少なくとも指名依頼などを遠ざけてしまうことがあるのは確かだそうだ。
国王の命令で"遺跡"へ入る貴族の子女がおり、その護衛依頼を受けづらくなるのは"金戦華"全体として問題がある。
貴族の子女ということは女性もいるわけで、その場合はその貴族の家や本人から女性の冒険者を望まれることが多い。
なので女性ばかりだという"金戦華"はそれらの仕事を受けやすいのだが、自己の都合で依頼をキャンセルするという護衛は依頼人として見過ごせない懸念点になるようだ。
その原因が他の護衛と揉めたからだとなれば、自前の護衛と揉めて現地でキャンセルされるかもしれないからな。
そういったことで依頼が来なくなるのは困るということで、それでベルガさんは依頼をキャンセルされるのではないかと不安を感じているようだ。
「うーん……」
彼女はあのマジックアイテムの剣も含めてだがそれなりの実力者だし、冒険者のグループとしては規模の大きい"金戦華"とは友好的であるべきだろう。
ビーナのことも何かがあればまた尻を叩いてやればいいし、キャンセルさせることもないよな。
「まぁ、このことはメルクスに……」
「っ!?」
伝えるまでもない、と言おうとしたところでベルガさんが動く。
ガシッ、ムニュリ
「んっ」
彼女は正面から俺の両手を掴み、自分の胸に押し付けていた。
先ほどの入浴で妹であるマリベルさんの胸にも触れてはいるが、こちらのほうが少し柔らかめだろうか。
いや、そんな評価をしている場合ではない。
「え、あの、どういうことでしょう?」
そう問い掛けるとベルガさんは顔を赤くして答える。
「その……一度受けた依頼を自己都合での取り消しというのは都合が悪いので、メルクスさんに報告しない代わりとしていかがでしょうか?」
ムニュムニュ……
言いながら彼女は俺の手を動かし、自身の胸の感触を強制的に味わわせてきた。
その感触自体は嬉しいものだが……
「いや、仕事のためにこういうことはしないんじゃないんですか?」
「それはそうなのですが……魔物や盗賊などがいる以上は安全な旅をというのが難しく、そこで逃げようと思えば逃げられる貴方とは縁を繋いでおいてもいいのではないかと」
「逃げられる?」
「ええ。ビーナを捕らえて浮かせていましたよね?他にも多くの"手"が浮いていましたし、魔力は沢山消費するでしょうけどあれを使えば……飛んで逃げられるのではありませんか?」
あぁ……あれでその運用に気づき、こういう判断をしたというわけか。
実際、そういう方法で移動したりもしていたからなぁ。
盗賊を乗せた護送車を"手"で引いてきたことは調べればすぐに分かるだろうし、飛んで移動できることを否定しても直ぐにバレるよな。
「えーっと、まぁ可能ではありますが……」
「でしたら!」
ズイッと顔を近づけてくるベルガさん。
彼女も美女ではあるし、今も両手から伝わる感触で断りづらい。
どうするかな、マリベルさんのことも話さなければならないのだが……ん?
ここで俺は思いつく。
「じゃあ、無事に"遺跡"へ到着したらということではどうでしょう?」
そう、マリベルさんと同じ条件にしてこの話を棚上げしておくのだ。
到着までにこのテンションをなんとか落ち着かせよう。
この提案に、ベルガさんは少し悩むと承諾してくれた。
「わかりました。ですが、このまま何もしないというのは不安ですので……よければ手付金代わりのようなものを」
そう言うと彼女は俺の前でしゃがみ込み、俺の股間へ手を伸ばしてきた。
「では……し、失礼します」
キュッ、スリスリ……
「えっ?ちょっ……」
しばらくして、俺はベルガさんと共に部屋から出る。
「ん゙ん゙っ……失礼、少し喉に残ってまして」
「大丈夫ですか?」
「ええ、ご心配なく♡」
ペロリ
俺の問いに彼女は自身の唇を舐めて見せる。
うーん、同じ日に姉妹で味見をされてしまうとは。
とはいえ無理に断らなくてはならない理由もなかったしな。
慣れてなさそうだったマリベルさんに比べるとベルガさんは少し慣れてそうだったが。
まぁ、姉のほうが人生経験を積んでいるのは不思議でもないか。
そう考えながら階下へ向かおうとすると、俺達が部屋を出る音を聞いてか隣の部屋からビーナが出てきた。
「ベルガさん……申し訳ありませんでした」
頭を下げる彼女だが、それにベルガさんは首を横に振る。
「謝るのは私にじゃないでしょう?」
「う」
言われたビーナは少し躊躇うも、俺に向かって再び頭を下げた。
「その……わ、悪かったわね」
「もう……」
謝罪としてはあんまりな言い方ではあり、それに対して困った顔をするベルガさん。
しかし……謝罪の意思は見えたので、俺はこれで良しとする。
「まぁ、謝罪は受け入れるよ。ただ、相手が自分以上の力を持っている可能性を考慮した態度のほうがいいと思うぞ」
「下手に出ろってこと?それじゃ弱い奴をつけ上がらせることになるじゃない」
それは確かにあるだろう。
わかりやすいところだと、店員と客の関係だろうか。
店員が下手に出ているからと高圧的な態度を取る客はいたからな。
ただ、逆に高圧的な店員に対して腰の低い客だったとしても、悪評を広めるなどの攻撃手段はあるので忠告しておく。
「弱いからって何もできないとは限らないし、わかりやすい例えだと……何らかの手段で毒を盛られたりするかもしれないだろう?」
恨みを買っていたかどうかはわからないが……実際、ララはそういう形で被害に遭ってるわけだしな。
「むぅ。それは……わかるけど」
ビーナもあり得るとは思っていたようで、特に反論はしてこなかった。
ならばと俺は畳み掛ける。
「まぁ、下手に出た結果調子に乗りすぎた相手にだけ力を振るえばいいだろ。それ以外はストレスが溜まるかもしれないが、それは別のところで発散したほうが危険な目に遭う可能性は下げられると思うぞ」
「そうよ。今回だって依頼が取り消されるかもしれなかったんだし、一度請けた依頼をこっちが原因でとなると"金戦華"全体の評価を下げてしまうわよ?」
「う……わ、わかりました」
流石にグループ全体へ迷惑がかかると言われては反省するしかなかったようで、ビーナは大人しくなるのだった。
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