ep59 尻チャイム
解体場の浴室で入浴することになり、共に入ることとなった俺とマリベルさん。
しばらくして、入浴を終えた俺達は脱衣所に戻ってきた。
「ふぅ、気持ち良かったですね♪」
にこやかに言う彼女。
もちろんこれは入浴についての感想であり、時期的に温度が下がりつつある水ではなくお湯を使ったからである。
そんな感想が出るということはマリベルさんも入浴したことになるわけだが……俺の背中を流すのに濡れてしまうからと服を脱ぎ、そのまま泡風呂の中に入ってきたので混浴になったからだ。
当初は1人で済ませるつもりだったので、お湯のゴーレムを端からシャワー状に解放して浴びようとしていた。
しかし、ゴーレムの核である魔石を隠匿する必要があり、シャワーとして流すためには不自然な形にしなければならない。
それはそれで怪しまれそうだと思い、お湯の塊の中に浸かっての入浴となった。
浴槽で入浴するのとほぼ同じだな。
その上でさらに魔石が見つかりづらくするため、石鹸をお湯の中で泡立たせて泡風呂になったところで体を洗った。
マリベルさんはこちらで一般的な入浴であるサウナよりリラックスできたらしく、泡風呂の効果か非常にスッキリしたそうだ。
そんな彼女に俺は曖昧な反応を返す。
「まぁ、はい」
「フフッ♪」
ペロッ
マリベルさんは意味深に唇をぺろりと舐める。
まぁ、あれだ。
健康な男が、好ましい容姿の女に体中を撫で回されれば……立つモノは立つからな。
もちろん最後まではしていないが、彼女には味見をされることになってしまった。
それによって俺の場合は別の意味でもスッキリしてしまったが、ベルガさんに相談するときは何処まで話すべきだろうか?
そんなことを考えつつ、
「じゃあ、水気を飛ばしますよ」
「はい♪」
と右手の甲に魔石を乗せた手をマリベルさんに向け、それを左手で覆い隠し魔法として身体の表面に付着している水分を回収する。
その結果、滑らかな肌のみとなったマリベルさんに目を引かれるも、一度発散させられているので大人しく服を着ることができた。
俺は元から着替えを用意していたが、彼女もそのつもりだったので当然着替えを用意していたようだ。
俺が地下水路で掃除をしている間にここへ持ち込んでいたらしい。
そうしてマリベルさんと共に服を着ると、浴室や脱衣所の後始末をしてギルドへ向かった。
ザワザワ……
ギルドの本館へ入ったところ、少し込み始めている頃合いだった。
ここのギルドも受付嬢は美女ばかりであり、マリベルさんに聞けばこの街の規模から応募者がかなり多いのだとか。
人が多ければ美女の絶対数も増えるということだろう。
まぁ……俺が地下水路の依頼を受けたのは道中の水を確保するためなので、受付嬢達の美貌は関係ないが。
ついでに言えば、盗賊などに襲われる可能性を減らすためにランクを上げていくという方針の一環でもあったからな。
「少々お待ちを」
そんな受付嬢達のいるカウンターの向こうへマリベルさんが行き、奥で書類仕事をしていた男性と少し話して戻ってきた。
「水路を確認した結果はもう届いているそうです。受付へどうぞ」
「わかりました」
入浴に少々時間を掛けてしまったからか、俺の成果をチェックしに向かったギルド員は既に仕事を終えてきたらしい。
微妙に申し訳なさを感じつつ、空いている受付へ向かう。
列に並んでしばらく待つと自分の順番が来たので、地下水路の掃除を終えたことを報告した。
その報告を受けた受付嬢がギルド員によるチェックの結果を聞きに奥へ行き、続けて何かを言われて戻ってくる。
「お待たせしました。依頼の完了を確認いたしましたので、報酬のお支払いについては今お受け取りになられますか?」
「いえ、口座の方で」
「かしこまりました。ではこちらのご確認とサインを」
俺の答えに受付嬢は依頼書や別の書類に報酬の扱いやサインを入れ、それに間違いがないことを俺にも確認させサインを入れさせた。
これでここでの用事が終わるかと思いきや、受付嬢はカウンターから離れようとした俺を呼び止める。
「あ、お待ちください」
「何か?」
「ジオさんはギルド長からランクアップを認められておりますので、そちらの処理を」
「え?1件でですか?」
「いえ、先日盗賊を捕縛された件も含めてですね。あれで実力が証明されており、その上でこの街での依頼も完遂したのでランクを上げてもいいだろうとギルド長が判断されました」
「はあ、そうですか」
この街での依頼を受けたことで、ギルド長が冒険者としての俺を評価できるようになったということだろうか?
何にせよ、都合はいいので登録証を提出し、ランクアップの処理を終えて戻ってきたそれには……Dランクと刻印されていた。
微妙にジャンプアップしているが、そこについて受付嬢が説明する。
「ギルド長の権限で、2段階までは1度にランクを上げることができますので」
これは……ララとベルガさんの手合わせに、勝手に客を呼んだお詫びという意味もあるのかもしれないな。
お詫びなら直接して誠意を見せるべきではあるのだろうが、手合わせ後のやり取りで俺が無駄に目立ちたくはない人間だと察したのか。
低いランクでギルド長に気を遣われていれば実力よりも出自のほうを気にされるかもしれず、いきなりこの世界に現れた俺にはそんなものがないのでそれは困るな。
やはり、世間的に軽んじられないためにはランクを上げたほうが都合はいいか。
というわけで手続きを終えた俺は受付から離れ、少し離れたところで待機していたマリベルさんに挨拶をして帰ろうとする。
「手続きは終わりましたか?」
「ええ。そちらもここでの仕事は今日が最後ですよね?」
「はい。出立の準備はほとんど出来ておりますので、この後は最後に少し詰め込むぐらいです」
ギルド員の制服はそのまま持って行くらしく、今夜の寝間着と旅装以外は荷物に詰め込んで明日に備えるそうだ。
歓送会などは特にないようで、仕事上がりにギルド長や同僚に挨拶する程度で済ませるらしい。
普通は仲間内で食事会ぐらいのことはするそうだが、完全な自己都合なので遠慮したとのこと。
俺も食事会などを無理に開いてもらいたいとは思っていない人間なので、その話には内心賛同した。
「じゃあ、また明日」
「はい。明日からよろしくお願いします」
そんな話を終えた俺はマリベルさんと別れ、宿へ向かうことにする。
宿と言っても自分が利用している宿ではなく、ベルガさんを始めとした"金戦華"が滞在している宿だ。
マリベルさんとの報酬についての話を彼女の姉であるベルガさんに伝えておき、可能であればそれとなく止めていただきたいからである。
そんなわけでギルドを出た俺は、"金戦華"が利用している宿へ向かうのだった。
しばらくして、目的の宿へ到着した俺だったが……入り口で足止めされていた。
その原因として俺の前に立ちはだかる女が言う。
「今この宿は"金戦華"が貸し切り中よ!他所に行きなさい!」
この宿はごく普通の宿で、おそらくは自衛のために手持ちの資金で貸し切りにできる宿を選んだのだろう。
なので専属の警備員がいるような宿ではなく、目の前の女も"金戦華"のメンバーなのではないかと思われる。
まずは確認だ。
「君はこの宿の警備か?」
「違うわ。私は"金戦華"の一員よ」
「そうか。俺はジオって言うんだが……」
「……」
名乗る気はないらしい。
女は威嚇しているかのような表情でも可愛いと言えるほどの美少女で、小柄ながらも胸の主張がやたら激しい体型だ。
ついでに言うと金髪のツインテールであり、それが女を少々幼く見せている。
これで門番のような役目が務まるのか?
まぁいい、用件を伝えよう。
「あの、ベルガさんに用があって来たんだが」
「はぁ?アンタ何者よ?」
ベルガさんの名前を出すと女は警戒を強め、訝しむ目でそう尋ねてくる。
不埒な依頼人の類だとでも思われているのだろうか?
まぁ、そういった連中が実在するから仕方ないのだろうが。
とりあえずそういった手合いの人間ではないことを説明するため、改めて名乗ることにする。
「さっきも言ったが俺はジオと言って、そちらが明日から護衛するベルウェイン商会を元から護衛していた者だ。明日からの件でベルガさんに話があって来たんだよ」
「アンタがぁ……?」
余計に不審な目で見られる。
何故だ?
「えーっと、何かおかしな点でも?」
「30人以上の盗賊を生け捕りにできるようには見えないわ」
「あぁ、護衛が盗賊になった件は知ってるのか。まぁ連中を制圧したのは俺の連れだし、俺は水の魔法で周囲に霧を発生させただけだからな」
「あぁ……なるほどね」
今度は少し侮るような目になった。
俺が実質的な戦力にならないとでも思われたのだろうか。
一応言っておく。
「いや、水の魔法で戦えるからな?」
「へぇ、じゃあ私を退かしてみせなさいよ。ベルガさんほどじゃないけどそれなりに強いわよ?」
門番を任されてるぐらいだし、それなりに実力があるのは確かなのだろう。
しかし、その自信からこのように相手を侮るのは今後の旅路で危険を招きかねず、今のうちにその考えを改めさせておいたほうがいいのではないかと思われる。
というわけで……俺は例によって白い氷で4つの"手"を作成し、女の両手両足を掴んで浮かせた。
ガシッ、フワッ
道行く人に見られるのは向こうのメンツもあってまずいだろうし、とそのまま宿の中へ入る。
「えっ!?ちょっ!何よこれ!」
驚きつつもなんとか逃れようとする女。
サイズの合う物が少ないのか胸当てのような防具を装備しているが、それで動きを抑制しきれないのかブルンブルンと揺れている。
そんな女に俺は言う。
「その"手"は氷で作った物だ。どうだ?」
「ハァ!?確かに冷たい……っていうか、なんでこんな物作れるのよ!」
「え、練習したから……かな?」
やってみたら出来た感じなので、練習というほどでもないんだけどな。
女はその答えを聞くももがき続ける。
「くっ!このっ……!霧を出せるだけじゃなかったの!?」
「だけ、とは言ってないだろ」
「だったらなんで盗賊の制圧を連れに任せたのよ!アンタもコレで盗賊を捕まえられたんじゃないの?」
「いや、そのときは商会の人達が捕まって刃物を突きつけられてたんでな。馬車の陰になって俺から見えない人もいたし、その人を捕らえていた賊も見えなかったんでその"手"で全員を同時に捕まえるのは難しかったんだよ」
当時の状況を説明すると、女はもがくのを止めて聞いてきた。
「全員を同時にって……アンタ、この"手"をいくつ出せるのよ」
「さぁな。細かく操るとなるとそこまで多くはないと思うが、出すだけなら数百個は出せるんじゃないかな。そのせいで"千手のジオ"なんて言われたし」
魔境ではローラー作戦で多くのゴーレムを使ったし、魔力次第では実際に数百個のゴーレムを作れるというのも言い過ぎではない。
だからといって自ら"千手のジオ"と口にするのはまだ恥ずかしいが、この女に俺の実力を理解させておいたほうが旅路においては良いだろう。
なのでついでに"手"をいくつか出現させ、女の目の前でワキワキと動かして見せた。
ワキワキ……
「っ!?な、何するつもりよっ!?」
その"手"の動きを勘違いしたのか、女は顔を赤くして身をよじる。
しかし"手"の拘束から逃れるのが無理だと悟ったようで、女は俺から顔をそらすと悔しそうに口を開く。
「くっ……け、汚した程度で言いなりにできるとは思わないでよっ」
何故そんなことをすると思ったのか。
俺としては誠に心外であり、遺憾の意を表明したい。
「……ok.」
女の発言に俺はそう返すと、その背後に回って手を伸ばす。
自分の背後に向かって。
そしてその手は大きく弧を描き、勢いよく女のお尻に叩きつけられた。
パァンッ!
「あ痛っ!?」
その音と声は宿に響き、それをチャイムとして階上からベルガさんが現れる。
「……何してるの?」
「……」
「……」
ごもっともなその質問に、俺と女は顔を見合わせることになったのだった。
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