表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/22

第16話 階段の影と、透過の丸

 火曜。

 放課後の校舎は、エアコンの止まった廊下が薄い水気をまとっていた。

 視線の置き場所=階段の影。青—に黄を一本だけ重ねるテストの日だ。

 踊り場の四角は、緑に似た落ち着きを持っている。戻れるの形が最初から床に描かれている感じ。


 名前を四拍で交換して、言わない自由を起動する。


「ななせ」

「みなと」

 タ、タ、タ、タ。


 僕らは斜めに立ち、同じ影を見つめる。階段を降りる足音が外部拍になり、青の速度は自然に整う。

 青点検:良。

 白波が角丸付箋に短く書き、黄点を小さく添える。〈待てる〉

 僕は踊り場の四角の端を指で示す。緑はいつでも起動できる——という黙った説明。


 その時、下の階から笑い声。

 「白紙=密会」の古い噂の残党らしい。

 脳内で黄が一つ跳ね、赤の手前で止まる。

 “続行の失敗は罪ではない”を思い出して、胸で四拍。

 白波がポケットから小さな透明シートを出し、踊り場の掲示板に重ねた。

 角にQR、中央に薄い輪。

 透けていて、下の紙を消さない。ただ輪郭だけを上書きする。


「新作?」

 と僕の口が**“す”の音で危うく言いかけて、緑四角・四拍で自分を戻す**。

 彼女は声を使わず、付箋に二語。〈透過の丸〉

 ——透過の丸。

 文字じゃなく輪郭で、ここは方法で守られている場所だと告げる透明な標識。

 噂は、透明の上で疲れていく。

 踊り場の影は、今日も角がない。


 残:21日。


***


 水曜。

 朝のHRで、成宮先生が学外講座の最終案内を掲示した。

 〈“青の誤差”と“緑四角”の実演/“赤は罪ではない”の家庭版〉

 「棒と輪と透過の丸も持っていくぞ」と先生が冗談みたいに真面目に言う。

 如月はTシャツの袖を弾いて笑う。

 「宗派の新興教具が増えていく」

 「教具は凶具にならないのが条件」

 「お前、言葉のゴロで安全運転するな」


 昼休み、地域学級の掲示に新しい小さな紙。

 〈“透過の丸”とは?——情報を消さずに、方法の存在だけを重ねるシート〉

 棒と輪**の横に、うすい輪が印刷されている。

 消さないのが、今日のやり方だ。


 夜、扉越し一分。

 合図二回、返る二回。

 白波の声は、ガラスを指でなぞるみたいに静謐だ。


「透過の丸、市報の増刷に同梱できるか、先生に聞いた」

「了解。消さない告知は、たぶん長生きする」

「明日、無音日。——透過の丸テスト、壁」

「やったことだけ、残す」


 残:20日。


***


 木曜は無音日。

 呼鈴は鳴らない。

 壁に、透明の輪のシートを一枚。角に小さなQR。

 下のログは隠れない。上に**“方法がここにいる”**だけが重なる。

 まとめログにはこう書いた。


〈日:木/無音/透過の丸=1/見る先:黄

 今日の一行:“消さない上書き”が関係をやわらかくする〉


 深夜、ポストに白紙カード。

 裏に淡い輪と、小さな緑四角。

 〈透過ログ:受理/戻れる余白:確保〉

 言わないのに、届く。


 残:19日。


***


 金曜。

 模試の個票が返り、教室は少し青ざめた速度。

 過剰拍がクラスの床を薄く振動させる。

 如月が「青点検シート貸せ」と言って、三人分の呼吸を一枚にまとめてやった。

 青の上に黄。緑はいつでも。赤は罪ではない。

 標識の詩は、今日も読みやすい。


 放課後、扉越し一分。

 白波の声が、輪の中心に似た落ち着き。


「日曜、川面に“透過の丸”を置いてみよう」

「視線=水。透明=重ね」

「写真のない写真と透明の輪、二重の長生き」

「了解」


 付箋が滑る。

 〈日曜 16:00/川面/透過の丸(携帯版)〉


 残:18日。


***


 土曜。

 学外講座・続行編。

 成宮先生がMC、保健師さんが青点検の家庭版、管理人さんが緑四角の実演。

 僕と白波は誤差対処として、「“す”の一音から緑で戻る」デモをやった。

 会場の空気が一度だけ笑って、すぐ元の拍に戻る。戻れる笑いは、やっぱり健康。


 質疑で、お父さんらしい人が手を上げる。

 「“透過の丸”は、“注意書き”との違いは?」

 白波は輪郭だけ強めた声で答えた。

 「注意書きは指示。透過の丸は存在の告知。相手の紙を消しません」

 その言い方が、妙に会場にやさしく伝わった。


 夜、講座ログ。

 〈日:土/場所:地域センター/拍:四×2/透過の丸=説明〉

 今日の一行:“指示”より“存在の告知”のほうが、長生き〉


 残:17日。


***


 日曜。川面。

 視線=水。合図なし。

風は弱く、雲は薄い紙みたいに流れる。

 名前を四拍で交換して、言わない自由。

 白波が携帯版の透過の丸——名刺サイズの透明カード——を欄干の内側にそっと挟む。

 輪とQRだけが光を拾う。

 下の金属も水も消えない。ただ、方法がここにいると静かに言い続ける。


 数分後、ジョギングの人が足を止め、透明の輪を覗き込む。

 読んで、頷いて、去る。

 説明もしない。誤解も生まれない。

 消さない上書きは、やっぱり角がない。


 帰り際、白波が角丸付箋に二語。

 〈延長=輪(再確認)〉

 僕は一語。

 〈合意〉

 ——残:16日。


***


 月曜。

 朝の職員室で、成宮先生が小さな紙束を配った。

 透過の丸(配布版)。

 「相談室と保健室に貼る。消さずに守るを学校の言葉にしたい」

 先生の声が、珍しく誇りの色を含む。

 如月は透過の丸をスマホケースの中に入れて見せる。

 「持ち歩ける安全、いいな」

 「鍵じゃなく合図だからね」


 放課後、扉越し一分。

 白波の声は、少しだけ速い拍を含んでいた。


「——“終わったあと”の地図、“輪の延長案・外伝”を書き始めた」

 胸の内で、拍が一つ増え**、ゆっくり戻る。

 「外伝」

 「“合図の外”に、“季節”を入れる。外部拍の拡張」

 「星→蝉/天窓→夕立/川面→薄氷」

 「そう。続行を季節**でやる」

 付箋が滑る。

 〈水曜:夕立テスト(屋根付き回廊)/青—+黄1〉


 残:15日。


***


 火曜は無音日。

 壁に、透過の丸を二枚重ねる。

 重ねても、下のログは消えない。輪が濃くなるだけ。

 〈日:火/無音/透過の丸=2〉

 今日の一行:“濃くする”と“消す”は別物——方法は前者〉


 深夜、白紙カードに輪が二重。

 〈再輪の予告:残3日〉

 輪は増やせる。増やしても、角が立たない。


 残:14日。


***


 水曜。夕立テスト。

 屋根付き回廊。

 視線=雨脚。青—に黄を一本。

 名前の四拍。

 雨音が外部拍になり、続行は勝手にやさしくなる。

 回廊の端で、小さな事故——一年生が濡れた床で滑りそうになって踏みとどまる。

スイッチバックは口の形だけ。

 肩に最小の触覚で触れ、緑の非常口へ視線を置く。

 黄四拍で離れる。

 赤の出番はない。青はまた黄の上に重なる。


 白波が付箋に二語。

 〈季節=外部拍〉

 僕は一語。

 〈戻れた〉


 残:13日。


***


 木曜。

 再輪前夜。

 教室の空気は落ち着いて、透過の丸が掲示の隅で薄く光っている。

 如月が机をコツンと叩く。

 「お前らの“存在の告知”って、けっこう効くんだな。ケンカの貼り紙が減った」

 「消すと反発、重ねると収まる」

 「標識メーカー、今日も順調」


 放課後、扉越し一分。

 白波の声が、輪を閉じる前の透明。


「——明日、再輪。天窓。青点検→朝」

「了解。四拍×2で入る」

 付箋が滑る。

 〈金曜 16:00/天窓/輪(再確認)〉


 残:12日。


***


 金曜、天窓。

 言わない自由。四拍×2。

 紙の上で輪が静かに閉じ、中心に青い—を一本。

 途中、一度だけ過剰拍が上がりかける。

 原因は不明。

 感情条文1.0を呼び出し、黄橙の点を付箋に置く。〈熱=0.5/冷却=四拍×2〉

 代理拍=天窓。

 冷える。戻れる。

 透過の丸が輪の隅にうすく重なった。


 写真のない写真を一枚。

 〈日:金/輪=再確認/青点検=良/熱→0.3/透過=1〉

 今日の一行:“消さない上書き”は、熱にも効く〉


 残:11日。


***


 土曜。

 地域センターの掲示が新装され、棒と輪と透過の丸が家電説明書みたいに整然と並んだ。

 保健師さんが言う。

 「“存在の告知”を冷蔵庫に。——夫婦げんかの“赤■”の前に置くと、“下がる”がやさしくなる」

 方法は、別の生活へ引っ越し**を続けている。


 夜、可視化シートの余白に二行。

 〈透過の丸=消さずに告げる/角が立たない保護〉

 〈延長は線より輪で。輪は増やせるから、戻れる〉


 残:10日。


***


 日曜。

 川面は秋の色に近づき、風は紙の角をさらに丸くする。

 視線=水。

 名前の四拍。

 白波が付箋に短く書く。

 〈延長:輪(残7)=準備OK〉

 僕は輪を空中に描いて、透過の丸を小さく重ねた。

 存在の告知を、延長の告知に重ねる二重丸。

 消さずに続けるの最新型。


 帰り道、交差点の黄で四拍。

 今日の一行が胸の中に先に浮かんだ。

 〈“消さずに続ける”は、“終われる”の友だち〉


 残:9日。


***


 月曜。

 掲示板の隅に、文化祭の次年度引き継ぎメモが貼られた。

 〈“公開ログ”の運用——“写真のない写真”/QR照合/透過の丸〉

 紙は、別の時間にも引き継がれていく。長生きの証拠。


 昼休み、如月がパンの袋を指で結び直す。

 「終わり、見えてきたな」

 「輪を描いてから、終わりが入口に見える」

「お前、やっぱり詩」

 「標識の詩」


 放課後、扉越し一分。

 白波の声は、延長の手前の静けさ。


「——“残7”で輪、やる。天窓。透過の丸=あり」

「合意。青点検→良で臨む」

 付箋が滑る。

 〈木曜 16:00/天窓/延長の輪(本番)〉


 残:8日。


***


 火曜は無音日。

 壁に透過の丸を一枚。

 下のログに**“延長準備”**の小さな拍線—を足す。

 〈日:火/無音/透過=1/準備=—〉

 今日の一行:準備の線は、延長の輪の“見えない骨”〉


 残:7日。

 輪の日。

 紙の上で、透明と青と黄と緑が、角を立てずに並ぶ準備はできた。

 生活は手順。恋は予定外。

 予定外は、消さずに重ねると、長生きに近づく。

 棒、輪、青—、黄点、緑四角、赤■、そして透過の丸。

 最新型の丸い武器は、何も消さないで、そこにいることだけを告げる。

 戻れる道は濃く、続けられる速度はやさしく、終われる出口は明るい。

 僕らは一拍だけ深く吸って、輪の場所に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ