表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/22

第14話 青の続行と、輪の延長案

 合意書に丸を押した翌朝、胸の拍が一段だけ軽かった。

 約束が紙になると、呼吸が四角い枠の中で整う。タ、タ。

 可視化シートの端に、青いペンで小さく丸を書く。〈青=続行〉。

 残:39日。


***


 月曜のHR後、如月がTシャツの袖(黄橙の点)を引っ張る。

「約束、紙でやったら“続行の運転免許”みたいだな」

「更新講習が要る」

「いつ?」

「残:7日で**“輪”を描いて延長合意**。——**“輪の延長案”**って名前がいい」

「バンドの再結成告知かよ」

 教室の笑いが一拍ぶんだけ跳ねて、真面目に戻る。戻れる笑いは、いい。


 放課後、成宮先生に案を出す。

 〈延長合意(輪):残7日に**“輪”で合意/残3日に再確認/青=続行の条文を別紙で〉

 先生は二秒で丸を描いた。

「“続行の条文”は青条文**でどうだ。青=進むだが、暴走しない青が要る」

 ——青条文。紙の武器庫に、もう一色。


***


 夜、フックに付箋。〈青条文1.0 草案、投函〉

 封筒の中には、白波の整った字。


『青条文1.0(続行の扱い)

 第1条 “続行”=各自の拍で進む。相手の拍を上書きしない。

 第2条 続行の前に“青点検”(疲労・熱・境界の確認)。

 第3条 記録は最小(日・場所・見る先・拍)。顔は写らない。

 第4条 “続行の失敗”は罪ではない。緑四角・四拍で戻る。

 第5条 青の上に黄を重ねられる(待てる続行)。

 付録:青の記号=—(拍線)。』


 拍線。いい。進むの線が拍になる。

 僕は余白に一行。

 〈第6条:“外部拍”を青の燃料にする(川面・天窓・本・帯・雨音・星)〉


 扉越し一分。合図二回。返る二回。

 白波の声は、青い線みたいにまっすぐ。

「**採用。今週の青=“水族館の青”**でテスト」

「視線=水槽のガラス」

「記録=写真のない写真」

「了解」


 残:38日。


***


 火曜は無音日。

 まとめログに青い拍線を一本引く。

 〈日:火/色:青—/見る先:雨音/拍:四〉

 今日の一行:“進む”の前に“待てる”を置くと、青はやさしい〉

 夜、ポストに白紙カード。裏に小さな青い—が一本。〈青点検:良〉

 点検があると、続行は暴れない。


***


 水曜。

 放課後の廊下、非常ベルのテスト音が一瞬鳴って消え、教室じゅうの会話が同じテンポで再開する。

 如月が肩で笑う。

 「お前らの“拍”が校内感染したな」

 「感染というより共有」

 「言い換え、行政的」

 行政的でいい。長生きする言葉は、角が少ない。


 帰宅前、管理人さんが呼ぶ。

 「今度の地域講座、“星”も入れなよ。天窓の夜バージョン」

 星。外部拍の新項目。

 僕は付箋に一語。〈星=外部拍〉

 夜、白波から返答。〈採用。水族館→プラネタリウム“青—星”〉


 残:37日。


***


 木曜。水族館。

 視線=ガラス。青—。

 合図なし。名前だけ四拍で交換。

 青のトンネルの細かい気泡が、拍みたいに真上へ昇る。

 人の流れはあるが、境界条文に触れる赤の気配はない。

 途中、アクリルの継ぎ目に手を置くと、振動が微かに指に伝わる。水の心拍。

 白波が角丸付箋に二語。〈青点検:良〉

 僕は一語。〈燃料=外部拍〉


 出口で短いアクシデント。

 通路が狭くて人が詰まり、背中に押される感覚。

 胸で四拍、黄を上に重ねる。

 青の上の黄。進みながら待てる。

 詰まりがほどけた瞬間、緑四角・四拍で戻る余地を互いに確認。

 青条文は、混雑にも効く。


 夜、青ログ。

 〈日:木/青—/見る先:ガラス/注記:青+黄 重ね成功〉

 今日の一行:続行は、待てるほど長生き〉

 残:36日。


***


 金曜。

 先生がプリントを配る。〈模試日程〉

 教室に小さな熱が走る。過剰拍の予兆。

 如月が言う。「青で走って赤に突っ込むやつ、毎年いる」

 「青点検を回す。黄を上に重ねる」

 「宗派の安全運転講習、割と好きだわ」


 放課後、扉越し一分。

 白波の声が少し低い。

 「模試、怖いが2割。名づけた」

「黄橙」

「うん。青点検、日曜のプラネタリウムでやろう」

「視線=星。拍線—」

 付箋が滑る。

 〈日曜 16:30/星/青—/黄重ね可〉


 残:35日。


***


 土曜は無音日。

 交差点の黄で四拍。

 今日の一行:“青”の前夜は“黄”で寝かす〉

 深夜、白紙カードに青い—が二本。〈青点検:良・良〉

 良が並ぶだけで、胸の中の熱が落ち着く。


***


 日曜。プラネタリウム。

 視線=星。

 投影が始まり、天井いっぱいの光点が拍のように瞬く。

 言わない自由を起動して、四拍×2。

 星座解説の声が外部拍になり、心臓が仕事を減らす。

 途中、隣列の子が泣きそうになっていたので、胸で黄を重ね、エントランスへ最小の誘導視線。

 スイッチバックの出番は来なかった。戻れるの気配だけが、場を守る。


 投影が終わり、照明が上がる。

 白波が角丸付箋に短い詩みたいな二行。


『暗闇は、拍が見える部屋。

 青—は、目に優しい速度。』


 僕はその下に、輪を一つ描いた。

 延長の形の予行として。


 夜、青ログ。

 〈日:日/青—/見る先:星/注記:青点検→良/黄重ね→1〉

 今日の一行:続行の上に待機の影を置く——速度のやさしさ〉

 残:34日。


***


 月曜。

 朝、掲示板に模試の座席表。

 紙の上で、数字と名前が冷静に並ぶ。

如月が拳で肩をコツン。「青—で行け」

「黄はいつでも上に」

 成宮先生が廊下で小声。

 「終わりの前に“続行”を教えるの、実験として最高」

 「続行の練習=“その後”の練習です」

 先生はうなずく。「輪の延長案、楽しみにしてる」


 放課後、扉越し一分。

 白波の声は透明で、少し固い。

 「模試、青点検 良/黄×1。終わったら川面」

 「了解。視線=水。青—」

 付箋が滑る。

 〈明日:模試→川面/記録=写真のない写真〉


 残:33日。


***


 火曜。模試。

 開始前、胸で青点検。良。

 途中で過剰拍が一瞬上がるが、黄を一本重ねて速度を下げる。

 終了のチャイムが外部拍になって、全員の手が同時に止まった。拍の均一は、安心に似ている。


 夕方、川面。

 視線=水。青—。

 四拍で名前だけ交換して、言わない自由。

 風は弱く、岸のコスモスが少しだけ揺れる。

 白波が角丸付箋に二語。〈青点検:良〉

 僕は一語。〈延長:輪?〉

 彼女は小さくうなずき、輪を指で空に描いた。

 輪の延長案は、形になり始めた。


 夜、青ログ。

 〈日:火/青—/見る先:水/注記:延長の輪→準備〉

 今日の一行:“続けたい”は“続けられる”の設計から〉

 残:32日。


***


 水曜。

 地域学級の掲示に新しい小テキスト。

 〈“青の重ね方”入門——黄・緑・赤との相互運用〉

 棒と輪、青—、黄点、緑四角、赤■。

 如月が言う。「標識メーカーみたいになってきた」

 「標識は詩。行ってもいい/戻っていいを短く伝える」

 「お前、やっぱり小論文」


 放課後、扉越し一分。

 白波の声が、少し照れた透明。

 「——“輪の延長案”の初稿、書いた。期限:残7日で輪、残3日で再輪」

 「輪の多重化、好き」

 「輪は拍に似てるから」

 付箋が滑る。

 〈日曜:下書き交換/視線=天窓〉


 残:31日。


***


 木曜は無音日。

 黄で四拍。

 今日の一行:“続ける”日は“休む”が混ざってると長生き〉

 深夜、白紙カードの裏に輪が小さく二重で描かれていた。

 〈二輪=再確認〉

 輪は増やせる。増やしても、角が立たない。


***


 金曜。

 保健室の掲示に「“赤は罪ではない”」のコピーが増えた。

 保健師さんが手を振る。

 「青点検、保健の言葉に翻訳したよ。“進める/進めない”の自己判断シート」

 方法が他分野で母語を得る。長生きのサインだ。


 放課後、扉越し一分。

 白波の声は、決めた人の明るさ。

 「日曜、天窓。——“輪の延長案”、“写真のない写真”だけで合意しよう」

 「顔は写らない。輪だけが写る」

 「うん」


 付箋が滑る。

〈残:30日/青条文1.0 運用継続/輪の延長案 進行〉


 夜、可視化シートの余白に二行。

 〈青=続行の文法/速度のやさしさ〉

 〈延長は“欲望”ではなく“設計”でやる〉


 生活は手順。恋は予定外。

 予定外は、青い線—の上を、黄を重ねたり緑で戻ったりしながら、輪へ向かって進む。

 川面にも、天窓にも、星にも、拍は置ける。

 紙は長生きだ。

 残り30日。

 棒と輪と青—をポケットに、僕らは“続けたい”を“続けられる”に変えるため、また一拍だけ進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ