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始まり
あの日、私は半年前に産んだ赤ちゃんをシッターに預け、一人で街中の小さなカウンセリングオフィスに向かった。始め産後鬱と診断されたが、通常の産後鬱とは 違うらしい。このオフィスに来たのは市の心理士さんに紹介されたためだ。
そのオフィスの中は可愛らしい置き物や綺麗な模様の絨毯、木目が美しい椅子や机で装飾されている。大きな窓の外には植木鉢が幾つかあり、太陽の光を浴びた草花たちがそよ風を受けて静かに揺れていた。
カウンセリングオフィスは大通りに面しており、道路は車がひっきりなしに行き交っている。さらにオフィスの向かいに大きな総合病院があり、時折サイレンを鳴らした救急車が走って行く。騒がしい街の騒音と静かで居心地の良いオフィスの対比は、私を異世界に迷い込んだような気持ちにさせた。
異世界の隠れ家にいるような、ふわふわした感覚を味わっていると急に声が聞こえた。
「村木さん、部屋の前でご準備ください。」
私の人生が変わり始めたのはこの時からだ。