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俺、転生したら“なろうの主人公”だった件について

作者: イチジク

人は、ある朝、パンをくわえて交差点で美少女とぶつかることはあれど、

 電柱に激突して異世界に飛ばされることは、まあ、ない。


 だが俺はやってしまった。しかもパンもくわえていなかった。

 完全にノーパンで転生したのだ。


 


 * * * * * * 


 


「あなたは、異世界を救う勇者です」


 目の前の女神が、真顔で言い放った。

 それはもう、コンビニでおでんを頼むくらいの軽さで。


「……いや、俺なんかに無理じゃないっすか?」


「大丈夫。貴方は“主人公”ですから」


 なぜか言い切られた。

 聞けば俺には、生まれながらにして“全属性適性”があるらしい。

 なんなら“魔王すら恋する顔面”らしい。俺が? 鏡はどこ?


 


 そして始まる異世界ライフ。俺は――


 


 ・火の魔法を使える(くしゃみで発火)

 ・剣の才能がある(木刀を振ったら近衛騎士が吹っ飛んだ)

 ・知力∞(授業中に居眠りしたら教授が土下座してきた)

 ・モテる(朝起きたらヒロインがベッドの下に転がってた)


 


 ……これはさすがにやりすぎでは?


 いや、分かってる。

 読者のみんなが「またかよw」と笑いながら、どこかでニヤけてくれることも。

 だってこれ、そういう“世界”なんだろ? テンプレってのは、いわば儀式だ。


 


 * * * 


 


 そんな中、事件は起きた。

 魔王復活である。出た、イベント発生。


「リクト様がいれば大丈夫です!」

「勇者の御力でございます!」


 俺は焦った。

 だってさっき、訓練中に剣を逆さまに持って怒られたばかりだぞ?


 


「いや、俺……ほんとに戦える気がしないんだけど」


「さすが勇者様、謙虚!」


「違う、これ本心!」


「強者ほど己を低く見積もる……尊いッ!」


 「ウッホ、良い男!!」


 ……話が通じねぇ。全員“テンプレ”。(1人異端者がいたような...)

 俺だけがメタ視点でツッコみ続けてる。


 


 でも、ふと気づいた。

 なんだかんだ、俺も――このテンプレ、嫌いじゃない。



 王道の展開、唐突なモテ、ぶっ壊れスキル、ちょろイン。悔しいけど、僕は男なんだな。

 否定しながらも、期待してる自分がいる。

 そうだ、これは、“お約束”なんだ。


 少女漫画で突然の雨、少年漫画で「今のお前、かっこいいぞ」、

 その類の、甘くてわかりやすい、最高のパターンなんだ。


 


 * * * 


 


 最終決戦。


 俺は魔王に立ち向かった――と言いたいところだが、普通にビビっていた。

 それでも、震えながら立った。

「まだだ!まだ終わらんよ!」


「俺は…俺は…

あの人に勝ちたい…!」


 


 すると天から剣が落ちてきて、

 精霊たちが「復活の奇跡!」と舞い、

 味方が全員復活し、

 魔王が「なぜだ……お前はただの少年では……」と呟いた。


 


 そのとき、俺はこう思った。


「――やっぱ、テンプレって最高じゃね?」


 


 なんだかんだ、世界を救ってしまった。

 感動のエンディング。

 涙するヒロインたち。

 BGMは脳内で流れる壮大なオーケストラ。


 


 そして、王様が言った。


「リクトよ、王となれ」


 


 俺は笑って答えた。


「ちょっと、スローライフってやつに憧れてるんで……」


 


 数日後。


 俺は農村で野菜を作っていた。

 なぜか収穫するとただの野菜が勇者の野菜とやらになって出荷されていく。

 ヒロインたちは毎朝野良着でやって来て、「すごいです!」「結婚しましょう!」「ルックスもイケメン!!」と騒ぐ。


 


 ――結局、テンプレからは逃げられなかった。


世界が自分を中心にして動く...


 でも、それでいい。

 だって俺は、“なろうの主人公”なんだから。


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