習作 - 三題噺②《スカイダイビング 古びた方位磁針 アイスクリームのコーン》
方位磁針は、同じ方向を示している。
――あの時、アイスクリームのコーンまできちんと食べておくべきだった。
そんなことを思うのは、今とんでもなく腹が減っているからだ。
腹が減って死にそうだ。
比喩ではなくて、このままだと死んでしまうかもしれない。
方位磁針は、同じ方向を示している。
カラフルな砂丘の上で途方に暮れる。
空には三つの月。
太陽が地平線に沈んでいくが、もうすぐ別の太陽が反対側から昇ってくるだろう。
今、こんなところで死にかけているのは、あの時アイスクリームを食べきらずに、店を飛び出したからだ。
片手には祖父の家で拾った古びた方位磁針。
こんなものを拾ってしまったから、追われ追われて気づいたら空から飛び降りていた。
方位磁針は、同じ方向を示している。
――いや、本当はわかっている。
今途方に暮れているのは、道を見失っているのは、そもそも進むべき方向を知らなかったからだ。
方位磁針はどんなに古くても、同じ方向を示すのだから。
でも、今欲しいのはこんな骨董品じゃなくってアイスクリームのコーンの方だ。
方位磁針は、同じ方向を示している。
僕は何とか立ち上がって、歩き始めた。
方位磁針の差すのとは逆の方向に。