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転生したら悪役令嬢でしかもやらかしたあとで未亡人になってました

 気がついたらもうすでにザマァされた後だった。


 前世で社畜だった私は恋人もおらず疲れて部屋に寝に帰るだけの毎日。仕事はどんどん降ってくるしかと言って人は増えないし、残業すると怒られるし、ということで前日までサービス残業三日目だった。さて、朝起きて今日の仕事はって思っていたら喪服を着て座っている私がいた。


「お義母様、ショックなのはわかりますが、葬儀の席で寝るのは……」


 誰だこのおばさん。そう思っていると記憶が濁流のように流れ込んできた。


 私は元公爵令嬢ダイアナ。いろいろやらかしたダイアナは婚約者の王子だけでなく国王夫妻からも糾弾され、老男爵の後妻にさせられた。王子の婚約者の後釜には聖女であるヒロインがおさまった。そしてダイアナ達が結婚してすぐに夫が亡くなった。


 ごめん、WEB小説のどれかだろうけどさっぱりわからない。だいたいスマホは格闘技の動画見るのに使ってたし。同世代の女性からお勧めされた小説を二つほど読んだだけだ。


 目の前にいるおばさんは夫の息子の嫁。いかにもいじわるそうな顔をしている。


『遅すぎるよなぁ』


 夫の死因はよく分からないが、初夜に私が着替えている部屋に乱入してきて裸の私を見て大興奮でそのままうめき声をあげ倒れた。そのまま息を吹き返すことなく亡くなった。まぁ、年寄りが無理するなって話だね。なので私は清い体の乙女のまま未亡人になった。性根は清いかどうかはわからないけど。だって悪役令嬢だから。


 死んだ夫には息子が二人いた。似たような二人。脂ぎったころっころのデブ。そのくせ女はみんな自分に惚れると思っている。その二人ですら私の倍以上の年のおじさん。


 その子供たち、私から見たら義理の孫の方が年が近い。四人の孫達は皆私より年下だがそれほど年が変わるわけではない。


 義息子たちは私を好色な目でみてその妻たちはあからさまな敵意を向ける。そんな針の筵の上で過ごしている。もちろん出ていくこともかなわない。王家の命令だからだ。死刑にもならず娼館にも行かされなかっただけ、悪役令嬢の行く末としてはまだよい方かもしれない。


◆◆◆


「お義母様、お願いがございますの」


 嫁達、義息子の妻たちが揃って私の前にいる。その二タニタ笑いはおやめなさい、下品ですよ。そう言いたかったが私の立ち位置では何も言えない。


「うちの子、アレックスの閨指導をしてくださらない? お義母様は百戦錬磨とお聞きしますからちょうどよいのではありませんか?」


 長男の嫁が私に依頼という名の命令をする。低位とはいえ貴族の奥方なのだからもうすこしオブラートに包んだ言い回しにした方が良いと思いますが。これも口にはしなかった。恥ずかしながら前世も含めて経験はない。だから閨教育なんてできないのだけど。それでも答えは一つしかない。


「お受けします」


 私が答えると二人そろって笑い転げる。はぁ、どこまでも下品な人たち。

二人の思惑はわかっている。長男にも次男にも息子が一人ずついる。とりあえず長男が後を継いでいるが次男は納得していない。ここで私が長男か次男と関係して男子が生まれたら更に後継者問題が再燃する。それどころか自分たちの息子よりも元とはいえ上位貴族家出身の私の方が有利になりかねない。私はそれに巻き込まれたくないし、まあ、渡りに船か。いやだけど。なんでかってアレックスは最低なやつだから。


 アレックスはそろそろ成人という年ごろだが父親のミニチュアみたいな令息だ。同年代の令嬢達からの評判はすこぶる悪い。見た目は脂ぎっていてデブ。そしてパワハラ・セクハラが酷い。そんなやつでも父親たち、義息子たちより、若いという一点だけでましかもしれない。うまく転がせばなんとかなるかもしれないから。


 覚悟を決めたはいいが閨教育は延期になった。嫁から閨教育を頼まれた当日、同年代の令息令嬢の交流の場であるお茶会でセクハラをし、その令嬢を助けようとした彼女の幼馴染から突き飛ばされ昏倒した。まったく、何をやっているのだか。


 二日ほどして目を覚ましたアレックスは人格が変わっていた。使用人にやさしくなり私にも横柄ではなくなった。さすがに外のお茶会には参加させられなかったが、自宅でのティータイムでもぎこちないながら作法を守ろうとし、家庭教師の言うことをよく聞くようになった。医者から許されるようになったら、以前はさぼっていた鍛錬をするようになった。デブだった体はすこしだけ絞られたかな。まだまだだけど。


 そして、再開した閨教育の時に、告白された。


「ダイアナ様、私はアレックスですが中身は違います。なぜか転生してこの体に憑依していて」

「なぜ、その話を私に」

「時々呟く言葉が転生前の世界の言葉だったので。テレビとかスマホとか電子レンジとか……」

「あぁぁぁぁ、誰にも言わないで」

「ええ、言いませんけど、うちの両親は知りませんが使用人たちは変なこと言うと認識していますよ」


 しまったなぁ。でもやってしまったことは仕方ない。


「それで」

「ダイアナ様、この家を出ませんか? この家は腐ってます。貴女のような人がいつまでもいていい家ではない」


 いや、そうしたいのはやまやまだけど。


「アレックス様は私がやらかしたことをご存知ですか? 殺人未遂までしているのですよ。出て行ったら一発で王家から刺客が来ます。ですからこの家から出ることは無理ですわ」

「えっ……」


 知らなかったのか。というか元のアレックスも知らなかったのだろうなぁ。


「でも、このままだと私と寝ることに……」


 うーん、確かに前世の感覚だといやだけどね。まぁ、じじいと寝なくて済んだし、このままだとキモいオヤジに手籠めにされそうだし。そう言ったら泣くかな、アレックス様。


「アレックス様は私がお嫌ですか?」


 だからずるいことを言う。


「いえ、そんなことは、むしろあなたのような方と、しぇっく……」


 噛んだあと黙るアレックス。


「では、アレックス様が私にふさわしいと思えるようになったら抱いてくださいますか?」


 私を抱きたければ精進しろ……。どこまで上から目線なんだ私。


「わかりました、がんばります」


 アレックスはますます真剣に鍛錬をするようになった。やはり青少年には色恋がモチベーションになるようだ。彼は前世では剣道をやっていたようで、その癖がでてしまうと苦笑していた。私?前世は干物女でしたが。


 アレックスは鍛錬だけでなく食事にも気を付けるようになった。一年もすると体は絞られ、二年で腹が割れ始めた。従兄弟にあたる次男の息子ヘンリーもアレックスにライバル心を刺激されたのか稽古を始めた。


 娘たち、アレックスの妹のキャサリンとヘンリーの姉のマーガレットとはなかなかうまくいかなかった。それでも、アレックスとヘンリーが痩せて令嬢達にもてるようになるのをみて危機感を覚えたらしい。ダイエットのため食事の改善と運動を始めた。それも最初うまくいかなくて、兄弟が私の知識で痩せたのを知っていやいやながら教えを乞うようになった。


「わっ、私が綺麗になると、あなたもうれしいでしょ、お祖母様」


 どこのツンデレ娘ですか。二人ともちゃんと痩せれば男性の目を引くような容姿を持っていた。特に痩せても豊かなままな胸はうらやましい。


◆◆◆


 この家に来て三年がたった。長男次男はさすがに息子・甥の愛人には手を出せないようだった。まぁ処女じゃないと思ってたからかな。それに嫁達の目があるし。とうぜん、義孫達は私の味方になってくれたので、それとなく私を護衛してくれていたのもあるけど。


 そして兄弟は二人とも女性がらみで命を落とした。


 次男は夜会で見かけたおとなしそうな女性を控室に連れ込み手籠めにしようとした。彼女を探しに来た夫に見つかり殺そうとして逆襲され殺された。相手が上位貴族の令息ということもありこちらは何も言えなかった。更に相殺されたとはいえメンツをつぶされた貴族から請求された賠償金はそこそこな金額だった。


 長男は、きっと娼館あたりでもらってきた病気で死んだ。ちゃんと治療すればまだ何とかなったかもしれないが侮っていたのか気がついたら手遅れだった。そして、長男の嫁も次男の嫁も同じ病気で死んだ。なんで次男の嫁も同じ病気なのかは言わないでおこう。二人は仲悪かったけど似た者同士ってことかな。


 元々苦しかった我が家の家計は火の車である。当然、アレックス様は憑依前の悪名のため助けてくれる人はいない。親世代がいないから伝手もない。これは私が娼館に行くしかないかなぁ。まぁ、行き遅れの年だけど処女だし。元上位貴族の令嬢で処女って高く売れるでしょ?


 そんなことをアレックス様に言ったら彼ったら涙目になって私に訴える。


「私はそんなに頼りないですか? 嫌いですか?」


 いや、そんなことない。憑依前は嫌だったけど、憑依後は真面目に鍛錬して筋肉が見事だし仕事もしっかりやるしやさしいし、鍛錬した筋肉にはうっとりさせれられるし(大事な事なので二回言いました)。


 でもね、私はこの家に何の役にも立ってないの。王家に制限されて社交はできないし、子供も産んでないしね。貴族女性としては全くの役立たず。


 そんなことをこんこんと説いていたら、アレックス様にお姫様抱っこされてそのままベッドに運ばれてしまった。うん、やっぱり鍛えてる筋肉は良いわ。


 事後の恥ずかしさから憎まれ口を叩いてしまう。


「うーん、これで私のお値段、いくら下がるのかしら」


 実質的な初夜のあと最初のセリフがこれかい。自分に突っ込むけど、アレックス様の怖い顔に何も言えなくなる。


「まだ、そんなこと言うのですね。ちゃんとお話しましょうね、朝まで」


 宣言通り朝まで言葉と身体でお話しました。もう、アレックス様ったら❤。


 アレックス様と身も心も通じても家の問題は解決しない。そんなところを間接的に救ってくれたのはヒロインちゃん。結婚以来まだかまだかと待ち望まれていた子宝に恵まれました。なんと王子様です。国はお祭り騒ぎ。そして私にも恩赦がありました。社交が許されたので、悪役令嬢時代に最後まで友人だったジャクリーヌ様と会うことができました。彼女は縁あって裕福な伯爵家に嫁いでいました。


「あー、だいたいはわかった。うちのお義父様にお願いしてみるわ。当然、我が家への借金となるけど他よりいいでしょ。あと、お義父様は信頼できる方だから、後見人になってもらえるわ。大丈夫、王家には見張りってことでいえばいいわ」


 話が早い。というかもう知っていたみたい。恩赦があればジャクリーヌ様の所に行くって予想していたみたい。


「ありがとうございます、こんなに良くしていただいても……」

「これで少し恩を返せたかしら。ダイアナ様には助けてもらってばかりだったから」


 ダイアナは覚えてないけどジャクリーヌ様を助けていたらしい。まぁ、悪役令嬢もちょっとはいいことするってことね。


 ヘンリーはジャクリーヌ様のお義父様の伝手で騎士団に入ることができた。そして、付き添いで騎士団に行ったマーガレットは騎士様に見初められ猛アタックを受けて結婚した。


 一方、アレックスの妹のキャサリンは商家の跡取り息子と結婚した。以前は悪評があって結婚できなかったのだけど、伯爵家の後ろ盾が出来てから認められたそうだ。


 アレックスは前世で商業高校に通っていたらしく会計の知識があった。それを大蔵卿でもあるジャクリーヌ様の義父の伯爵が認めて下さり自分の部下にした。役所では前世の知識を生かして活躍している。


 私は、アレックスと正式に結婚した。私と老男爵の結婚はなかった事になり、最初からアレックスと結婚させる話だったことになっていた。王家は間違えないからね。最初からそうなっていたの、きっと。


◆◆◆


 あれからさらに五年たった。アレックスは若手有望株として有名だ。そして、元義孫達、今は義妹と義従姉弟達もしっかり家庭を築いている。


 明るいテラスでそよ風が気持ち良い。


「動いた、元気な子だね」


 アレックスが私のおなかに頬をあてている。お腹の中には二人目の子供が宿っている。


「お父さま、アンも、アンも……」


 長女のアンが私のおなかに触りたがる。

 

「そっとね。赤ちゃんがびっくりするから」

「うん、お母様、わかった、そーっと、あ、動いてる。アンもこうだったの?」

「アン、じゃなくて、私も、よ。そうねアンもけりけりしてたわ。でももっとおとなしかったかな。この子は元気だから男の子かもね」

「じゃ、弟ね。えへへ、待ち遠しいなぁ」


 悪役令嬢に転生して未亡人になって義理の孫と恋愛して結婚して子供産むなんて、考えてもいなかったな。ま、しあわせだから、いいか。


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