第9話
ロロがわたしの手を引っ張る。
「質問がたくさんあるなら、座ってお話しましょ!」
「申し訳ありません、こんなひどいにおいのままで」
「先に洗いますか〜?水場がありましたよ!」
喜ばしい。水場があるかどうかも訊こうと思っていたのだ。においも落としたいが、清潔にしたいとも強く思っていた。
「そうします。案内してもらえますか」
「はいな!」
15分ほど道を歩いて横にそれた場所に川が流れていた。ロロは体を拭く用の布までくれた。彼女には先に道へ戻ってもらう。
「ふぅーっ、はぁ」
わたしは傷が染みるのを我慢して水を浴び、石鹸で体を擦る。石鹸を流し、体を拭いて塗り薬を塗った。傷が保護され、外気や布の擦れによる痛みが軽減される。においも消えただろうか。
石鹸や塗り薬、持っている討伐証明をもらった布に包み、戻る。
「お待たせしました。薬、とてもいい感じです」
「それはうれしいです!においもバッチリですね!」
「よかったです」
わたしたちは道端に座って話し始めた。
「実はわたしは行くあてのない旅人でして、そんな人に勧めたい場所を知っていたら教えてほしいのですが」
「お〜、それなら、海辺町シラクーラがいいです〜!この国の中ですし!」
聞いたことのない町だった。白き獅子団の勢力圏ではない。国を跨がないなら許可証もいらないだろう。
「シラクーラは来るもの拒まず去るもの追わず!強ければよしの町。アギノフさんほど強ければ、町にある冒険者ギルドの階級で、相当上になることだってできます!」
「あはは……どうも」
冗談だと思い苦笑いをした。するとロロは真剣な顔になる。
「む!わすは本気ですよ!そもそもわすは優秀なほうなんですから!同じ年の人たちの中で一番つよくて、一番早く旅にでることを許されたんですから!」
よくわからないが、何か学校のようなものがあるのだろうか。走る速度が猪型の魔物と同じという時点で優秀というのは本当だろう。
「わすの経験から断言します。アギノフさん!あなたはわすが蹴っても倒せなかった魔物を倒した!あなたはとてもつよい!」
「ふふ、自信がつきました。ありがとうございます。」
いや、あの魔物を蹴ったとはどういうことなのか。
「んん、あれを蹴ったんですか!?」
「はいな!勝てると思って何度か蹴ったのですが倒せず……すぐ逃げれば引き離せたかもです〜。自分の実力を見誤りました……」
とんでもない少女だ。この子の強さ評論には信憑性がある。
「あ、あの、さっきのロロさんが優秀という話ですが、同じ年の人たちの中でというのは何か学校でもあるのですか?」
「学校、似たような感じです!あ!」
ロロが顔を真上に上げて、しまったという感じになっている。
「すみません、説明不足でしたあ。わすは行商人の里出身でして、ものを運んで売るためのことを小さい時から学ぶんです〜。わすは飛び級で独り立ちしてます!」
胸を張りながら言う。行商人という予想は当たっていたようだ。
「素晴らしいですね」
「ありがとうございます!」
そういえば海辺町シラクーラへの行き方を聞いていなかった。
「では、シラクーラへの道を教えてもらってもよろしいですか?」
「はいな!まずこの森を抜けて、そのまま道を真っ直ぐにいくとラヤという街があります!橋があります!」
相槌をうつ。ロロが続ける。
「そこで川下りをします!橋の下に船がたくさん停めてあります。その中からアニーという街まで行くものに乗ってください。船頭さんに聞けばどこまで下るかわかります!」
「アニーですね」
「そうです、アニーに着いたらそこで降ります。アニーから南西にシラクーラがあります!アニーから出る道に、看板が立ってますから!もしわからなくなっても、シラクーラは有名ですから人に聞けば大丈夫で〜す」
「わかりました、とても助かります」
「他に質問はあります?」
水場のこととお勧めの場所と、ロロのことについてを訊いた。あとは……猪型の魔物の体をどうするかだ。
「魔物について、わたしは討伐証明部位と少しの肉がほしいのですが、それでいいですか」
「え!全部アギノフさんのでいいですよ!」
「いえ、全部は持って運べなくて」
「あんなにつよいのに!あ!魔法がすごく得意なんですね!」
風が吹いて、わたしのまだ濡れている髪を撫でていく。すこし、寒い。
「まあ、そんなところです」
「う〜〜ん、でもアギノフさんが運べないならあ、そのままにしておくのももったいないし……」
下を向いて考えているようだ。
「じゃ、こうしましょ!わすがラヤまでアギノフさんに着いていきま〜す!」