第43話
わたしとツラモとの契約はギルドを介してツラモからの依頼をわたしが受けるという形で締結した。
数日かけて準備をしたのち、わたし含む閃きのカモメ団員はセリトレイのイルカたちギルド近くの港に来ていた。
みんな腹側も覆う布のあるリュックのようなものを背負っている。服装はわたしを除いて鱗のびっしりついた軽い鎧だ。
わたしは授与式でギルドからもらった服を着ている。人が生きる時間からすれば半永久的な魔法がかけられていて、水中での抵抗が小さくなる上魔力が練りやすいらしい。ナリナミから聞いた。
「さすがに重いなあ」
ゴルルゥは荷物運搬担当なので特に多くの食料や飲料水、さらに休息用折りたたみ式海中小屋を持っている。
以下はリュックと海中小屋、これら海の中を探索するための魔導具について受けた説明をまとめたものである。
まずはリュック。名前は背負式海中探索具。魔石を投入すると稼働する。稼働時間は付属品として加工された魔石1個につき約半日。
機能は6つ。空気の供給、声の伝達、水中移動補助、照明、暖房、登録された場所の方角の特定。空気の供給を使用するときはリュックに接続された、ゴーグルとマスクが一体化したようなものを取り付ける。
水温による四肢や頭への冷たさや水圧に耐えるのは自分の体なので、あまり深く潜るのは肉体強化や水との親和性を高める等のスキルを持った人でなければ危険。
海中小屋も魔石で稼働。勝手に膨らんで水中でその場にとどまり、流されない。中はもちろん空気で満たされている。稼働時間は付属品として加工された魔石1個につき約6時間。
これは相当高価なものではないだろうか。冒険者にそれほど厳しくないお金と条件で貸し出しているというのだから驚きだ。
「準備できた、行くよ」
ツラモの宣言で帆掛船に乗り込んだ。海中探索具の方角特定に船を登録する。
登録するといってもデジタルなことはなく、これまたそのために用意された魔石の加工品を置いていくのを場所登録と呼んでいる。
途中までは船で向かい、黒力場の近くに来たら海底に降りてファラクセロ探索をする。
船長や操縦士、船を守る戦闘員などにもギルドを介しての依頼として受けてもらっている。持っている背負式海中探索具の魔石はゴルルゥは7つ、あとの団員は5つで、2日以内に戻らなければシラクーラまで戻って救援を呼んでもらう予定だ。
ウィアの感知による案内で黒力場に近づいていく。魔物が徐々に強くなり、これ以上は船が停泊できないというところまで来たところでわたしたちは海底に降りて行った。
海中探索具の移動補助の使い方にはすぐなれることができた。とても優秀な魔導具だ。
「そーれ!スキル、翔水!」
ペディイが魔物を水で撃ち抜いてゆく。急所を的確に貫いている。その隣で位置と距離を示すウィアの感知と合わさり、奇襲をくらうこともない。
彼女が対処できない魔物が現れるまでわたしは温存しておく作戦だ。
探索の途中、何度か海中小屋で休んだ。暖かい空気に触れながら食事を摂るのは最高だった。
食料は防水性の何か生き物の皮でできた袋に入れられていたが、乾いた布までは持ってこれなかったと思うのは贅沢か。
ウィアの感知で近づく魔物を発見するとペディイが出ていって対処していた。
こうして進んでいくとペディイの使うスキルが上級の業水に変わり、
「スキル、穿鱗華!はぁっ!」
さらに聞いたことのないスキルに変わった。
しかしペディイはなぜスキル名を叫びながら攻撃するのだろうか。対人系の戦闘はあまりしないということか?
「えーい!」
しばらく進んだが、現れる魔物の強さはとどまるところを知らない。
「アギノフ、ここで交代してー、これ以上はあたしのチカラじゃ難しいわ」
たしかに最初よりも攻撃の威力が強くなっていたが、外したり2発当てないと死なない魔物も出てきていた。
「わかりました」
承諾した時にウィアも声をあげた。
「ウィアだ、魔力が濃くて感知を続けるのが辛くなってきた。あまり正確に魔物の位置を伝えられない」
あたりの魔力の強さで感知スキルを持っていなくても、集中しなくても自分の外の魔力を強く感じるようになっていた。
全員で周りへの警戒を保ったままウィアに近づく。わたしが感知を代わるべきか……いやわたしが感知もできるという情報は今は伏せていよう。閃きのカモメ団員なのは一時的なのだ、隠せるなら隠しておきたい。
ツラモの声が聞こえてきた。手を挙げて喋っている。
「わかった。作戦を練る人と見張りの人とで別れる。アギノフ、見張りをお願い。他の皆は集まって」
わたしはツラモ、ペディイ、ウィア、ゴルルゥの周りを旋回しながら襲ってくる魔物を迎撃した。
「うん、決まった。ペディイ、ウィア、目視で見張りを。魔物が来たらアギノフに知らせて。アギノフ、聞いて」
「はい」
意識を耳に向ける。
「ウィアの感知がないまま魔物を倒して。あなたならできるはず」
想定外のことが起きても探索を続けるとは、ファラクセロの群れ撃退の件でとても信頼されているのか。わたしは感知できることを秘密にしているというのに。
「わかりました」
「ウィアの感知は時々使ってもらって黒力場の位置を探すのに使う」
「はい」
わたしは周囲に魔力受容域をごくわずかに小さな点として一つ展開してみる。
なぜかウィアと違って気分は悪くならなかった。わたしも外の魔力は感じているはずだが……
わたしの魔力受容域と違って魔力感知器官や感知スキルは体と密接に関わっていて、強い刺激は毒になっているのかもしれない。
そもそもわたしが魔力受容域や魔力発生源と呼んでいるものは人間に備わっているものと似た別物なのかもしれない。
いや、魔力受容域を多くし過ぎるとわたしも頭が痛くなる。まだ考えられることはあるが、それこそ頭が痛くなりそうだし魔物を仕留め損ねそうだし考察はここまでにしよう。
領域に入ってきた最初の魔物を枢壊撃で倒した。
「うわ!?攻撃する時は掛け声とかスキル名とか言ってくれなきゃびっくりするって!」
「すみません!」
ペディイが苦言を呈してきた。スキルを言っていたのはこのためだったのか。申し訳ない。
「ソロならそれでもいいんだけどね……チームだと別の魔物の攻撃かもとか思っちゃうからさ」
「はい……」
その後は攻撃を宣言することにした。
ウィアの途切れ途切れの感知を頼りに漂う魔力の濃いほうへと進んでいく。
「この先で感知は無理だ、使ったら気絶する」
ウィアがそう言ったとき、山のようなものが見えてきた。海底は見えないので、上のほうだけ見えているようだ。
「これは……これが黒力場の可能性がある!もしそうだとしたらとんでもないこと……」
ツラモは興奮している。
「周りの生き物を鑑定したい!結果は言葉に出すからできるだけみんな覚えて!アギノフはこっちに向かってくるような魔物だけ倒して!」
「はい、はい!」
「おっけー」
「ここで感知スキル使ったら死ぬな……てか長居したくない」
忙しなく移動するツラモに他の皆がついていく。
「これはスキルがわかってない、紙霊魚!飛水、身体強度増加、鱗硬化、防御鎧、……身を守ることに特化……これは……名前がわからない、見た目と私の言ったこと、覚えて!飛水、翔水、業水、水刻槍……なにこの、なに!?このスキル!!!これがこの種の固有スキル?一点集中の水攻撃スキル……!あっ!これは……」
気づくと海底の山にずいぶん近づいていた。ウィアがツラモの動きに遅れている。わたしも気分が優れない。この間にも2回襲ってくる魔物を枢壊撃で倒した。
ツラモをみると、夢中になっている。ここを離れた方がいいし、その後ファラクセロを探すかどうか決めたほうがいいだろう。
「ツラモさん、ここは危険だ。離れてファラクセロを探しましょう」
「……ごめん、興奮しすぎた。黒力場は何もわからない危険地帯なのに。一度離れる」
5人で黒力場らしき海底の山に背を向け、来た場所を戻り始めた。
その時だった。周りに満ちる魔力がさらに強まったのだ。




