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第37話

授与式1日前。わたしとロロは朝から冒険者ギルドに向かった。セオドアの嘘を嘘だと暴ける、信頼のある鑑定士の情報を探すという目的だ。


今日は晴れている。潮のにおいが風に運ばれてくる。

海がすぐ近くに見える道を歩いていると、ギルド周辺にいた冒険者といった身なりの男性から話しかけられた。


「あの、アギノフさんですよね!?」


彼は前屈みで体を揺らしていて、落ち着きがない。


「あなたは誰ですか」

「お、おれコルソっていいます!冒険者やってます!」


コルソが姿勢を正して右手を差し出してきたので握手をした。


「はじめまして、退院おめでとうございます!」

「ありがとうございます」


挨拶を終え、握っていた手を離す。


「そちらは、ロロさん、でしたっけ」


コルソは手を下げずにそのままロロのほうに向けた。わたしは体を左脚を軸に回転させて斜め後ろにいるロロが彼によく見えるようにする。


「はいな!ロロで合ってます!はじめまして、コルソさん!」

「はじめまして!小さい体でありながらファラクセロを蹴り飛ばしたんですってね。すごいですよ」

「ありがとうございます!脚は折れちゃったんですけどね〜」

「それでも退院したことを祝わせてください。おめでとうございます」

「はいな!」


2人も握手を交わしている。


彼のこの態度、わたしが入院していたという情報の把握。きっとセリトレイのイルカたちに所属している。


「わたしが入院していたことを知っているあなたは、セリトレイのイルカたちの人ですか」

「はい、そうです」


予想は当たった。セリトレイのイルカたちのギルド近くにいるのだから当たり前か。

コルソは続ける。


「シラヤト教会であなたに会ったってメンバーから特徴を聞いたんですよ。前髪の真ん中が花みたいになってるって」

「そんなふうに言われていたんですね、ふふ」


この爆発したような前髪を花だと言い換える上品さに、感心からの笑いが漏れる。これから真似させてもらおう。


「んふふ、お花が咲いてる……」


ロロはわたしと反対側に顔を向け、手で口を抑えて笑っている。


「おれもあなたに会いたかったんですけど、その権利をめぐる勝負で負けてしまって。会えて光栄です!」

「はい」


尊敬されていることを伝えられた時の対応はまだ慣れない。


「それで、えーっと……お願いがありまして」


コルソはさっきと同じように体を揺らし出した。目線もわたしの顔から逸らしている。


「あああの、あなたの魔物討伐についていっても良いですか!?本当に見てみたくて」

「ただ見学がしたいのですか。パーティーを組みたいのですか。それとも別の意味ですか?」


彼は肩を跳ね上げて目を大きく開いた。


「パーティー!?組めるなら組みたいですけど……意味は特になくて、見学のほうです」


見学を皆に許してしまうと、わたしの弱点が解析されかねない。利点も思いつかないので今はさせるべきでない。


「申し訳ありませんが、お断りします。あまり自分の情報を広めたくないのです」

「ああ、残念です……すみません」


それを聞いたコルソが肩を落とす。しかしすぐに何かに気づいたような表情をした。


「でも意味を聞いたってことは、見学以外ならいいものもあるんですか?」

「そうですね、パーティーを組む、わたしの力が必要、であれば相性や理由によって受け入れます」


見学は一方的にこちらを見られるだけだが、例えばパーティーを組むのであれば利点はある。


「じゃあ、パーティーを組むことをお願いしても?」

「すぐにそうすることはできませんが、断りはしません」

「では、何か条件が?」


現在のパーティーはわたしだけではない。ロロにも意見を聞かなければ。

ナリナミはパーティーではないが、魔石を取りに戻るのについてくると言っていたのでまた聞いておこう。


「わたしたち全員ができることを照らし合わせた際に相性が良いかと、お互いに信頼できる人間か。この2つを確かめられたら、ロロさんと、ここには居ませんがナリナミさんに意見を聞いて問題がなければパーティーを組みます」


仲間は多い方がいいが、信頼できるかと戦闘方法の相性が良いかを見極めたい。


「ナリナミ…….ギルド職員の方がなぜ?」

「一応仲間みたいなものになってまして」

「珍しいですね」


職員はどこで冒険者活動をしているのかを考えると確かに珍しくなりそうだ。


「ロロさん、それでいいですか」


ロロの方を向くと、彼女はわたしの花のようと称された前髪を見ていた。


「あっ、それでいいですよ〜!」


そんなに面白いだろうか。

コルソのほうに向き直る。


「あなたからの条件はありますか」

「十分過ぎるくらいです。おれからの条件はないです」

「ではその条件を確かめなければなりませんね。倒すのが簡単な魔物に、全員で戦略を組んで戦って相性をみたいのですが他に意見はありますか」


ロロとコルソ2人に向かって聞いてみる。


「ないで〜す」


ロロは首を横に振った。


「ああ、今の2つの条件ならギルドが確かめてくれます。ギルドが信頼できないっていうなら別ですけどね」


コルソが答える。ギルドが信頼できないということはない。


「そうなんですね、ではギルドで見てもらいましょうか。しかしその前に、『わたしがあなたの期待していることに応えられるとは限らないということ』を理解しておいてください」


向かい合ったわたしとコルソの間にしばらく静寂が流れた。寄せては返す波の音が、3回。


「ああ、えっと、それは……そうですね」

「わたしは……英雄視されています。でもそこからは過度な期待が生まれる。わたしはその期待が満たされなかったときが、怖いのです」


自分から英雄視されているなんて言うのには抵抗があるが、嘘ではないはずだ。それにこう言ったほうが伝わる。


「そういうことですか。期待が満たされなくても、アギノフさんが怖いと思うような態度は取りませんよ!」

「よかったです」


これで、過度な期待の反動で失望されることはないだろう。


太陽がすこし高くなって、建物の陰から出てきている。光が、目のふちに入って眩しかった。

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