第36話
授与式3日前。今度はロロの部屋にドヅミが来て、ライセンスを贈ると言った。ファラクセロの弾丸突撃からわたしとナリナミを守ったことが評価されたのだ。
ランクは鱏だった。半永久ライセンスである鮫までランクを上げたいとロロはいった。
彼女のライセンスもわたしの授与式と同じ日に渡される。
授与式2日前、ロロももう退院してもいいと言われた。まだ松葉杖と固定の包帯は必要だが、ずっと教会で見る段階は終わったとのこと。
「やっと退屈から解放されます!」
「よかったですね」
シラクーラの町を、ナリナミを先頭にゆっくり歩いていた。ドヅミが用意したという寝泊まりできる場所に案内してもらうところだ。
「ロロが退院できるまでロロんとこにいるっていうもんだから、ドヅミギルド長が用意したところが無駄にならないかハラハラしたぜ」
「すみません、よっと」
わたしは手に持っていたものの位置を歩きながら調整した。ナリナミも荷物をもっている。
ロロの大きな荷物は中身を分け、何回か往復して運ぶことにしたのだ。
「着いたぜ」
「はぁ、はぁ、はーっ……ありがとう、ございます……」
まだ荷物運び一回目なのに息を切らしてしまった。ここ数日全く動いてなかったことも理由ではある。
「さすがに体力無さすぎだぜ!」
ナリナミは特に疲れた様子はない。
「ごめんなさい〜」
ロロは運動の苦手なわたしに運ばせたことを申し訳なく思っているのだろう。
「体力の無さは、確かに課題では、っあります……はぁ」
「あれだけすごいことが出来ても、これじゃあ遠くの魔物を狩りにいくのとかは難しいんじゃないか?誰かに鍛えてもらった方がいいぜ」
「いい人がいたら、教えてください……っふ」
ようやく息が整ってきた。顔を上げるとそこには一軒家があった。
「ここですか、ギルドに近くて便利そうですね」
「そうだろ?ギルドが所有してる家で、鮙ランク以上に貸し出してる。ちょうど空いてた建物で良さそうなのはこれぐらいだったんだ」
2階建で、町にある多くの家と同じような外観だ。ギルドの南側にあって、ここも海がすぐ近くにある。
「中は掃除されてるはずだ。家具は前の持ち主がいらないって言ったから、そのままにしてるな」
「早く入りましょ!」
ロロは松葉杖をついていなければ走っていたことだろう。
中に入ると、たしかに綺麗だった。
「で、この家には目玉があるんだな、着いてきてくれ」
着いていくと、そこはトイレだった。置いてあるのはおまるではなくて、洋式トイレに似ている陶器だった。穴もどこかに続いている。
とても現代が恋しくなる。
「ずいぶんと、高級なトイレですね」
「高級かはわかんねえけど、便利なトイレだぜ。海に繋がってて、う◯◯やし◯◯を直接捨てられるわけだな。汲んできた水か水魔法で流しとかないとたまに詰まる」
浄化槽を用意しないと環境には良くないと思ったが、解決策が思いつかない。排泄物処理はよく知らないのだ。活性汚泥の作り方と扱い方とは?
海の魔物や魚が食べたりしてくれることを願おう。
「本当は家賃が5万ドエルかかるんだが、これは今月はなしでいいってさ」
「そうですか、ドヅミさんにアギノフがお礼を言っていたと伝えてください」
「わすからもありがとうを伝えてくださいな!」
「わかったよ」
あとの場所は特筆することはなかった。荷物運びは、1回目より少なくして回数を重ねることで運び終えた。運んでいる間、ロロは新しい住居に留守番である。
「ありがとうございました〜!」
「お疲れ様です」
「ああ、おつかれ!じゃあ、オレ仕事があるから行くよ」
ナリナミはギルドに戻っていった。
わたしたちは昼食を取ることにした。
わたし一人が町に出て材料と薪を買った。蟹を食べたときにナリナミが貴重といっていただけあって、薪はライシロよりも高かった。最近野菜を食べていないので、海藻を多めに買う。
ついでに寝巻き用の服を買おうと思ったが服屋はない。持ち込んだ布を服にする仕立て屋はあったのでロロが回復したらいっしょに行くことにする。
町には鯨ライセンスの授与式のお知らせがあちこちにあった。
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ファラクセロの大群をひとりで退けた傑物!
鯨ライセンス授与式
場所:セリトレイのイルカたちシラクーラ支部
時間:10の月5日 9時より
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思わず顔を伏せる。それでもなんとなく目線を感じたので、自分の特徴である花のような前髪を押さえながら帰路についた。
家には大きな部屋に台所がそのまま付いていて、中世といった感じの台所で調理を行う。塩と魚と海藻のスープを作った。茹でてサラダにして食べた海藻の中にはわかめと同じ味のものがあり、味噌汁が飲みたくなった。
昼食中、ロロに回復魔法は控えた方がいいという内容の話をする。
「ロロさん、ベルナ看護長から聞いた話なのですが、回復魔法は今後使うのをやめた方が良さそうです」
「ほぇ?なんでですかあ?」
「回復魔法は生きている間に体が行う活動の早回しだからです。簡単にいうと、寿命の前借りでしょうか」
ロロは食べ物を口に運ぶ手を止めた。
「そんな恐ろしい魔法だったんですか……」
「恐ろしいというかなんといいますか……すぐに止血が必要であるだとか、よっぽど急いで怪我を治さなくてはならない事情がある場合にのみ使うべきです」
わたしは赤い海藻を口に入れた。
「でも回復魔法が完璧じゃないからこそ、薬があるんですね〜」
「ふふ、そうですね。ロロさんの故郷の薬は無くなることはないですよ」
「よ〜し!それじゃあこれからも広めますよ!」
彼女は手をあげて高らかに宣言しているのを見ながら薬について考えた。
この世界にはどんな薬があるのだろうか。人間の魔法ではできないことができるとしたら、それこそ四肢や内臓の再生もできるのだろうか。冒険者ギルドにくる依頼に薬の材料があれば、依頼者に聞いてみたいものだ。
昼食の後ロロがあまりにも退屈だというので、午後はかくれんぼをして遊んだ。まだ少女だからこれでも楽しめるのだろう、と思っていたが年甲斐もなくわたしも楽しんでしまった。
彼女が鬼だったので、見つけられる側は移動をありにし、内緒で魔力受容域を利用した感知の練習をさせてもらった。
結果、途中から移動はなしになった。
移動がなしになると隠れている間は暇で、頭の中でいろいろ考えていた。この異世界のわたしにも子どものころは友達がいたな……と感傷に浸ったりもした。
この世界で親友だった子は、現代のわたしの数少ない友達のひとりと顔が似ていると気づいた。彼に会いに行こうとして運転中の事故で死んでしまったのが申し訳ない。
どちらの彼も元気にしているだろうか、せめて愛車とともにここに来たかった……
「見つけました!」
「見つかりましたか」
夕方になり、夕食の準備をした。貝と海藻に塩をかけて焼いたものを食べた。塩が安いのは助かる。
夕食の後は寝る準備をする。
ロロに寝巻きを渡すと買ってきた手間にお礼を言われ、自分の分のお金を払われた。同じパーティーなのだからと一度は断ったが、金銭管理はしっかりすべきだと言われて断り返されたので受け取った。
パーティーの経費をどう出してどう扱うかも考えなければと思いながらも、具体的な案は出ないまま眠りについてしまった。




