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第34話

扉が叩かれた。


「どうぞ!」


返事をすると、知らない人たちが部屋になだれ込んできた。


「な、なんでしょう」


すぐには数えられないくらい部屋が人でいっぱいになる。


「こら!お前ら!なに押してんだ!」

「「「すみません!」」」


ナリナミよりも日焼けした肌の、筋肉質だが脂肪も程よくついた大柄の男性が後ろの人たちを怒鳴りつける。


「よお、若えもんがすまねえな。アギノフ大将。俺はドヅミってもんだ。はじめましてだな!」


大将とはたいそうな敬称である。

右手を差し出されたので握り返すと、少し痛いくらいにしっかりと掴まれた。


「はじめまして。ドヅミさん。なんの御用ですか?」

「おっと、とぼけないでほしい。お前さんはこのシラクーラの英雄なんだぞ?」


胸にドヅミの人差し指が触れる。わたしは指をさされた自分の胸を見たまま話した。


「わたしがやったことは承知しています」


そして顔を上げた。


「しかし英雄は性に合いません」

「正確には、違うか」


違うと言われて安心する。大将とか英雄とか、そんなたいしたものではない。今回のは偶然対抗策を思いついただけだ。


「シラクーラじゃねえ、この海一帯の英雄、だな!」

「……」


このままだと勝手に話が進んでいく気がする。この人とは強引さで負けるだろう。対抗せず大人しくしていたほうがいい。


「そうですよアギノフさん!最初の数匹の後にはあの魚の被害は無かったんですよ〜!」


ロロまでドヅミに乗ってしまった。


「アギノフ!お前は海の神の槍だぜ!」

「あのアハザリ・カリーシの生まれ変わりなんじゃないですか!」

「人魚も怖気付く魔法の極み!」

「いい加減自分のやったことの大きさを認めろ!」


ドヅミの後ろにいた人たちもいっせいに加勢した。

アハザリ・カリーシは神話にある斬涙(きりなみだ)の慘滝鮫でわたしはそのようなものではないし、なぜか応援が聞こえるし、最後の声からしてナリナミもあっち側だ。


「あ、ありがとうございます……」

「で、なんで俺がここに来たのかというと、礼を言うためだけじゃねえ。お前さんに鯨ランクの冒険者ライセンスを渡しに来た」


鯨ランクといえば冒険者ギルド、セリトレイのイルカたちの中で最高ランクだったはずだ。しかしそんなものを渡せる権限を持つこの人は何者なのか。


「あなたは、その権限をお持ちの人なのですか」

「ああ、言ってなかったな!俺は冒険者ギルド『セリトレイのイルカたち』のギルド長だ」


この世界では魔物の脅威の大きさや資源の有用さから、治安維持組織や冒険者ギルドの権威は大きい。つまり、かなり偉い人だ。人によって大きく態度を変えるつもりはないが、やはり緊張してしまう。


「では、ライセンスの件はご冗談ではないのですね」

「俺が冗談を言うヤツに見えるか?見えるか。ガハハ!」


ドヅミは1人で笑った。


「……はは」


つられて笑ってしまう。


「拒否権はないぜ、あの鎧の怪魚の群れをひとりで退けられるヤツは今の鯨ランクの中にいない。お前さんが鯨ランクじゃなかったら、誰が鯨ランクになれるかって話だ。ランクの信用が無くなっちまう」


大御所がタダで仕事をしてしまったら誰も報酬を受け取れない、みたいな話だろうか。あまり謙遜するのも返って失礼になるだろう。


それに、形見の魔石を取りに戻るため、ちょうど地位は欲しかったところだ。


「わかりました。ありがたく頂戴します」

「よーしそれでいい。まだライセンス発行はできてないから、渡すのはしばらく後だ。鮫ランク以上は永久ライセンスだから、授与式がある。楽しみにしててくれ」

「はい」


しばらくは周りの人から注目を浴びそうだ。それに相応しい態度がとれるかは不安なところである。


ギルド長が来た目的はわかった。その後ろの人たちは何をしに来たのだろうか。


「あの、後ろの方たちもなにか御用ですか」


声をかけた人たちはざわざわと騒ぎ出した。お前がいけよ、だとか、なに言えばいいかわからねえ、だとか聞こえる。

そんなざわめきをドヅミが片手を挙げて制し、代わりに答えた。


「ああ、こいつらはお前さんに憧れてるのさ。憧れの人を一目見ようと来た野次馬ってとこだな!」


ドヅミは後ろを向いた。


「ギルド長、野次馬なんてそりゃひどいっすよ!」

「よ、よーし、俺からだ!」

「いやおれだぜ!」

「待った待った僕が最初に行きます」

「こうなったらまた勝負だ!」

「おう!」

「望むところだ!」


彼らは部屋から出ていき、わたしとドヅミとナリナミとロロが残された。


「勝負……勝った人からわたしに会いにくるってことでしょうか」


扉に向けていた視線をドヅミに戻す。


「お前さんに会いたいのは今町にいるギルドのほぼ全員だったんだ。

病人に一斉に会いに行くのは良くないってことで、トーナメント戦して上から8人がここに来てた」


彼は頭を掻きながら言う。


「悪かったな、勝手にぞろぞろ上がり込んで。ナリナミがお前さんが普通に話せるようになったってギルドでバラして行っちまったもんでな」


ドヅミはナリナミに笑顔を向ける。


「ひぃっ、すみませんギルド長!自慢したくなって、それで……」

「気持ちはわかるがな」


ギルド長はわたしに向き直る。


「さすがに熱量がすごくて抑えきれそうに無かったもんで」

「いえ、大丈夫です」


失礼なことは無かったし、憧れと言われて悪い気はしない。


「またトーナメント戦して1位から順に会うってことだな。もう暗いし、お前さんに会うのは明日にするように言っておく」

「お願いします」

「これで俺から言うことは全部だ。詳しいことはまたナリナミから伝える。邪魔したな」


彼は立ち上がる。


「わざわざ来ていただいて、ありがとうございました」

「はは、また授与式で会おう」


そして部屋からでる間際、ナリナミに向かってこう言った。


「ナリナミ、お前とは今夜ギルド長の執務室で会おう」

「ああっギルド長そんな……」


無慈悲に扉が閉まる。


「オレ今夜は説教だぜ……アギノフ助けてくれよ〜」

「ご愁傷様です」

「うわああああ、なんだってんだよ〜〜〜〜〜!!!」


シラヤト教会の一角にナリナミの悲鳴がこだました。

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