第33話
なぜ回復魔法を使わないのかはよくわからないが、こういう病気のような症状に効くスキルはないのかもしれない。大抵回復魔法というのは切れたり火傷したりで傷ついている組織を治すのかもしれない。
だから薬草の知識が存在しているのか?
全部予想なので回復したらベルナ看護長に聞いてみようか。
扉の開く音がした。手に器の乗ったお盆を持ってメリンが戻ってきた。
「スープを持ってきました。自分で食べられますか」
彼女はテーブルにスープを置いた。
体をどうにか起こす。もともと貧弱な体がさらに痩せている気がする。
「食べられます」
お盆に乗っているスプーンを手に取り、スープを食べ始める。こぼさず口に運ぶことができた。
「大丈夫のようですね、しばらくしたら食器を取りにきます」
「はい、ありがとう、ございます……」
メリンは部屋を出ていき、再び1人になった。
一度胃に食べ物が入るとさらに食べたくなる。薄いスープらしいが、2日なにも食べていないのでそう感じない。
食べ終わって横になる。体の辛さに耐える時間、ひたすら治るように思っていたので暇には感じなかった。
日が高くなってきた。起きたのは朝だったようだ。昼食を食べ、寝て起きてを繰り返した。
排泄もした。その時におまるの小さな穴にクアティエ・ホテルのトイレの天井にあった花がいくつか差してあるのを見た。
この花は消臭効果のある花のようだ。花は虫を呼び寄せるためのものなのに、匂いがないどころか消すのはよくわからないが……一つ疑問が解消されたと思ったら、また新しい疑問が出てくる。今は考えてもわからなかった。
夕方にはだいぶ楽になっていた。
熱も下がったので、頭の上の布を桶にかけておく。夕食には昼食より濃いご飯を食べた。メリンには楽になったと伝えた。
夕食のあと5分ほど経ってロロとナリナミが部屋に来た。
「楽になったとのことで、きました!」
「オレもいるぜ」
夕食のときにメリンに言ったのが彼らにに伝えられたらしい。
「もう話せますか〜?」
「ええ、今なら話せます」
「声も掠れていないし、大丈夫そうだな」
「はい、体が水不足なだけだったようです」
2人ともベッドのすぐ近くに来る。
「まず礼を言わせてくれ。ファラクセロを退けてくれて、本当に、ありがとう。オレの後輩も無事に逃げれた」
「ありがとうございま〜す!」
「いや、あのそれは……はい……よかったです」
面と向かってお礼を言われるのは嬉しいが緊張する。2人から顔を逸らした。
「しかしわたしがやったという証拠もないのに、みなさんよくわかりましたね」
二言目が何か事件を起こした犯人のような言い回しになってしまった。
「いやいや、証拠ならあるぜ。みんなで瓦礫に脚挟まれた人を助けたろ。あの時アギノフがファラクセロを動かなくした。そのファラクセロの傷が第一の証拠」
わたしは2人の方を向いた。ナリナミが右手の人差し指を立てている。
「で、ファラクセロが飛んでこなくなって、嵐が止んだ後に潜れる連中で海の中を見たんだ。沈んでたファラクセロの傷が第一の証拠の傷と同じだった。これが第二の証拠」
彼は人差し指に加えて中指を立てた。わたしは反論した。
「同じような傷を負わせられる人がいたかもしれませんよ」
「他にも陸で跳ね回るファラクセロを攻撃したやつはいたんだが、肉をえぐって動きをにぶらせるくらいの傷を負わせたやつはいなかったんだ。
しかもみんな避難しようとしてたから、海の近くにいて戦ってたのは君だけ。第三の証拠と第四の証拠かな」
お見事。どうやって皆がわたしがやったとわかったのか知りたい。再び思いついた反論をわざと言ってみる。
「犯人が自分がそれをできることを示していなかったり、名乗り出ていないだけの可能性は?」
「だめだめ、君はオレとロロに第一の証拠を見られた後に海の中のファラクセロを倒す作戦をやるって言っちゃってる。それに第四の証拠からも否定できるさ。はい、第五の証拠」
ではナリナミとロロだけが知り得た情報でなぜメリンやベルナなど町の人たちがわたしがやったと納得しているのだろうか。
「そのことはあなたたちしか知り得ません。町のみなさんが部外者のわたしがやったと納得するでしょうか」
「残念。目撃者がいるんだな。第一の証拠の時にあのファラクセロを見てたやつは多い。これが第六の証拠ってとこかな」
彼は両手の指が示す6の意味を崩して、わたしを指差した。
「認めるんだアギノフ、あれができたのは君しかいない!」
これだけ証拠が揃えばもう誰も疑う者はいないだろう。ちょっと多過ぎて言う予定のない証拠まで言わせた気がするが……
両手を挙げる。
「認めましょう。わたしがやりました」
「素直に褒められるんだな!」
「アギノフさん、なんでこんな受け答えするんですか〜」
ロロはよくわかっていないようなので答える。
「いえ、すみません。宣言したわけでもないのに、みなさんがわたしがやったと納得していることに納得できなくて」
「あ、これ茶番だったんですね〜」
「えっ!?オレは真剣に答えてたぜ!?みんなが知ってることが不思議なんだなって」
「ふふ、付き合ってくれてありがとうございます。ところでロロさんの怪我は―――」
そんなふうに話題を切り替えようとした時、扉の向こうから何人かが歩いてくる音が聞こえた。




