第32話
「う……ん」
わたしはベッドの上で目を覚ました。魔力受容域を展開して……海から町へ飛んでこようとするファラクセロを弾丸突撃できないようにして……気を失っていたようだ。
「あっ……!目を覚ましましたか!」
ベッドの横には修道女の服を着た女性がいた。ここは病院らしい。この世界は教会の中に病院があることが多い。回復魔法が神聖視されていることが影響しているのだろう。
「わたしの、からだは……あと町は……どうなって、います か……」
掠れた声で訊く。
「まずは水をお飲みください、喉が渇いているでしょう」
頷いた。たしかに喉は渇いている。なんならお腹も空いている。だが気分が悪い。
ベッドに隣接しているテーブルの上にあった薬呑器から水を飲ませてもらう。
「ありがとう、ございます……」
修道女は桶の中の水に布を入れて絞り、わたしの額にあった布を取り替えた。
冷たくて心地いい。熱があるようだ。
「私は看護長とロロさんとに報告をしてきますね!」
そう言って彼女は出て行った。部屋に光が差している。今が朝か夕方かはわからない。
しばらくして、扉の向こうが慌ただしくなった。
「アギノフさん!」
扉が開き、左脚に包帯が巻かれて松葉杖を突いているロロが入ってくる。他にもさっきの修道女や看護長らしき人物がいた。
「目が覚めてよかったです!昨日は一日中眠っていたんですよお!」
「そうですか……」
「もっと自分の状況に驚いてくださいな!」
気分が悪く、あまり頭が回らない。今は、会話は難しい。
「今は……話すのが辛くて……」
「あっ、それはすみませ〜ん……治るまで待ってます!目を覚ましたことを確認できただけでも満足です!」
ロロは部屋から出て行った。心配をかけたようで、申し訳ない。
修道女と看護長らしき人物はその場に残った。
「はじめましてですね、アギノフさん。今からは会話はいたしません。質問をしましたら『はい』か『いいえ』で答えてください」
看護長はとても優しげな風貌で、それに違わず優しく落ち着いた声で話している。
わたしはベッドの上で頷いた。
「よろしいようですね。わたくしはここシラヤト教会の病院部門看護長、ベルナと申します」
ベルナは礼をして修道女に手を向けた。
「そしてこちらはアギノフさんの看護を担当している看護師メリン」
「メリンです」
メリンもベルナと同じように礼をした。
「まずアギノフさんがいまどういった状況にあるかといいますと、低体温による損傷と知恵熱で寝込んでいるという状況です」
知恵熱。頭の使いすぎか。使った分少しは賢くなっているといいのだが。
「アギノフさんがここに運び込まれてから1日と21時間ほど経ちましたが、回復にはまだ時間がかかるでしょう。しばらくは入院していただきます」
教会にある病院の治療では費用は請求されないのが基本だ。大抵寄付で運営されている。しかしここまで大がかりな治療となると費用が必要になってくる。
お金は倒壊したナリナミの家に置きっぱなしだが大丈夫だろうか。無くなっていたら冒険者ギルドで依頼を受けて依頼料が入るまで待ってもらうか、ここで働くしかない。
「そして町ですが、壊滅的な被害は免れました。幾人か死者や怪我人は出てしまいましたが……街全体はすぐに元の生活に戻れるくらいです」
守れなかった人を思うと、勝手に涙が出てくる。守れなくて、すみません。傲慢かもしれない。でも、もっと早くあの作戦ができていればと、後悔してしまう。
「アギノフさんは、ほんとうによくやってくれました。遺族も感謝していたぐらいです」
わたしがファラクセロによる被害を食い止めたことはロロやナリナミが報告してくれたのだろうか?
守れなかった命はあれど、守れた命には感謝されていると聞いて救われる。
「シラヤト教会一同もこの町の住民として感謝しているのですよ。必要な報告はこれくらいでしょうか。では体の様子を確認いたします」
わたしの熱や皮膚などを確認している。今のわたしの服はゆったりとした薄い灰色の服だ。上半身を脱がされ、腹に手を当てられる。
「ふむ、内臓も機能が戻っています。食事をとった方がよろしいですね。アギノフさん、食べられますか?」
どうやったのだろう。体の機能がどうなっているかわかる感知スキルだろうか?
「はい……」
「メリン、病人用のスープを薄くしたものを持ってらっしゃい。わたくしはこれから他の方の治療に回りますから、その時はこの方への対応を頼みましたよ」
「はい、ベルナ看護長」
わたしの返答を聞いてベルナはメリンに指示をだした。メリンは部屋を出ていく。
「あとはアギノフさん自身の回復力で治るでしょう。メリンがスープを持ってくるまでお待ちを。それではわたくしは失礼いたします」
ベルナも部屋を出て行った。




