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第31話

そういえば、昨日蟹の脚の付け根6箇所に同時に枢壊撃を放ったとき、位置がわかる感じがした。


数箇所同時に魔力を発生させる場所があったとき、まるでそれひとつひとつに触覚があるような感じだった。体に何か違和感があれば神経が場所を教えてくれるあの感触……


試してみる価値はある。


海を見て動かなくなったわたしを見て、ナリナミが呼びかける。


「どうしたんだ、早く行こう」

「ファラクセロが海から飛び出してくる前に、倒せる方法を思いついたかもしれません」

「そんなのあるのか!?教えてくれ!オレにできることならなんでもする!!!」


彼はロロを背負っているので前のめりになっていたが、それ以上に前のめりになってこっちに近づいてきた。それだけ真剣なのだろう。


「オレのスキルは中級で、水を打ち出すもんだ!水量よりも勢い重視で、ファラクセロを跳ね除けられるほどじゃねえけど……あと足からも水が出たり、泳ぐのに特化もしてる」

「中級スキルなら全員同じように使うものかと思っていました……」


今初めて知ったが、同じスキルでも使用者によって個性があるということか。これが上級より上の固有スキルに繋がっている?戦闘には詳しくないから知らなかった。いや、今はそれを考えているべきではない!


スキルは自分の大事な情報で、それをここまで話すということが覚悟を感じさせる。しかしわたしの思いついた作戦はわたしのスキルだけで完結するものなのだ。

人からいきなりスキルを聞いて、それを利用してのよりよい作戦を立てられるほど、わたしの頭の回転は速くない。


「これはわたしのスキルを利用するもので、協力は、大丈夫です」


ナリナミはもどかしそうだ。


「あなたは予定通り宿泊場所に行って、避難誘導を。そのスキルも使って他の人と力を合わせて、ファラクセロを避けながら避難してください」

「わかった。君はどこへ?」


彼の一番の目的はファラクセロを倒すことではない。まだ成長途中の冒険者の雛を守ることだ。彼はそれを思い出したのか納得した様子だ。


「この作戦は集中が必要で、動きながらではできません。事態は一刻を争うので、わたしはここで作戦を開始します。もしうまくいかなければ海に近づいて実行します」

「健闘を祈る」

「そちらも」


彼は自分のやるべきことをしにいった。わたしもやるべきことをやらなければ。


まず、海の中で魔力の発生源を大きくしてみる。不思議なことに、意識してみると発生源の箇所の魔力を感じることができていることがわかる。

たしかに魔力を練るときに魔力を感じることはできるため、この世界の人間には魔力感知器官があると考えていいだろう。

そこと魔力の発生源は同じ器官が担っていたということだ。つまりわたしは触覚を体の外部に作り出せる人間であると言える。


しかし魔力の発生源を大きくしただけではファラクセロの位置はわからなかった。発生源が大きいものひとつだけでは、その発生源全て含めた空間に魔力があるかないかしか感じられないのだ。


触覚について考えよう。受容器は小さい。場所を特定するには、同じように発生源を小さくすればいい。そしてそれを増やせば感知する範囲を広げられる。

感知に使う魔力発生源は、これから区別のため魔力受容域と呼ぼう。わたしは海中に小さい魔力受容域を1m間隔で立体的に並べていった。


わたしが作戦を実行している間も数匹が町に飛んできていた。


「わたしの家が!」

「商売道具新調したばかりだってのに!くそーっ!」


運良くこちらには飛んでこなかったが、被害の様相が伝わってくる。


いよいよ魔力受容域に集中する。

ファラクセロの位置が、わかる。魔力受容域を展開している空間を広くしていくが、彼らがいる場所は奥まで続いている。


わたしはまるで自分が海の一部になった感覚に襲われていく。さらに、脳が情報を処理するのに苦労している。まるで数学の難問を考えているときみたいに、頭が熱くなってくる。

発生源は無制限でも、発生源が増えた結果の情報の処理は無制限に行えない。知能の高くない動物でも大きい体なら脳は大きい。知能だけでなく多くの感覚にも神経は必要なのである。

魔力受容域としての運用には限界がある。だいたい100×100×50の空間で限界に近づいた。これ以上は‥…無理だ……!もう少し狭く……水深は50mも感知しなくていいだろう。


ここまでやってみて、発生源を広くして水を発生させればいいかもしれないと思った。しかしわたしの魔力は多いわけではない。ほんの少ししか水を発生させることができず、たいしたダメージをファラクセロに与えられないまま魔力が尽きることもありえる。


よって、ファラクセロの位置を特定し、町に向かって飛んでくる個体を察知して枢壊撃で倒すことが必要である。


魔力受容域による感知に集中していると、ファラクセロの個体が急加速して別の個体に攻撃しているのがわかる。おそらくこの急加速で勢いあまって飛び出す個体がいるのだろう。


町に向かって急加速するファラクセロを感知した。

即座にその個体めがけて枢壊撃を発生させる。そのファラクセロは急減速し、泳ぎが鈍くなった。十分なダメージを与えられたようだ。


雨と風が体温を奪っていく。知恵熱が出ている頭にはちょうどいいが、体は震えている。


この作戦を開始してから2匹目の町に向かって弾丸突撃するファラクセロを感知した。また枢壊撃で速く泳げないようにできた。魔力にはまだ余裕があるが、体力が持たないかもしれない。


3匹目。感知は完璧だ。4匹目。5匹目。大丈夫、まだやれる。6、7、8、9、10。確かにナリナミが大集結といっただけはある。11……20!わたしにも、できることはあったのだ!


まだ練度が高くない感知であるため、ファラクセロの頭部を攻撃することができない。これでは枢壊撃ではなくただの壊撃か。

つまり絶命させることはできない。勢いを殺しきることができず、何匹か港に乗り上げる。


30!40!町の人には、もう怪我もさせないし死なせない……!


そこからは、もう数えなかった。何も考えず、ただ町に向かってくるファラクセロに枢壊撃を放った。雨のおかげか、水の魔力が時間をかけてわたしの体に補充されていたのかもしれない。幸運にも魔力が尽きることはなかった。


雨が、止んだ。魔力受容域からもファラクセロが町の近くにはほとんどいなくなったことがわかった。わたしはとっくに体も頭も限界を超えていた。思考がはっきりしない。


町の人たちは……ひなん、した?……魔力受よういき、もうしなく てい、い?……つか れ、た……


ねむ い

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