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第29話

「わたしは、赤ん坊の頃両親に捨てられました」

「辛いですね……」

「いきなりすごいな」


ロロはもう聞いた部分だがナリナミは知らなかったため衝撃を受けている。


「その時に両親が最後の愛情として、魔石をわたしに握らせていたのです」

「形見なんだな」

「ええ、わたしは籠の中に魔石と手紙と共にいたんだそうです。手紙にはこう書かれていました」



親切な方へ

私たちではこの子を守ることができません。どうか魔石を売ってそのお金でこの子を育ててください。



「殴り書きでした。急いで書いたのだと思います。守る、とあるのでいっしょにいることが難しかったのでしょう」

「アギノフの親は何か罪を犯したのか?」

「スキルを持たない人を強く迫害する場所の出身だったのでしょうかね〜」


ナリナミとロロはそれぞれ推察している。


「わかりません。ただ両親がわたしを大切に思っていたことを願います」

「それは願いたいな」

「願っていいことです!」

「はい……そしてわたしを拾ってくれたのが白き獅子団の団員、ガロンドという人です。ガロンドはわたしに家と食事とを与えて育ててくれました。読み書きも教えてくれたんです」


ガロンド。白き獅子団の中で高い地位にあるわけではなかった。戦闘向きのスキルを持っていたので魔物や悪党の討伐が仕事だった人。


「わたしが15歳の頃、わたしが捨て子だったことを話されて、お前を育てるのにかかったお金を支払えたら魔石を返してやると言われました」

「親切な人かと思いきや意外と金にがめついのか?」


それは違う。訂正しようと言葉を考えているとロロが意見を述べた。


「う〜ん、まあ強制ではないですし!そもそも売ってくれと手紙に書かれていたので、それを汲み取った形ではないでしょうか!」

「それもそうか」


わたしもそう思っている。訂正はしなくても良さそうだ。


「わたしは無事お金を返し終えて魔石を自分のものにすることができたんです。この魔石が取りに戻れない忘れ物、ということです」

「そういうことだったのか」

「わすも詳しくは初めて聞きました」


ナリナミはベッドから頭だけでなく身を乗り出した。


「なあなあ、それ、取りに行かないか?」

「それは……」


わたしはすぐに返答することができなかった。精神は現世のわたしのほうが強くあり、形見の魔石にそこまでの執着がない。そのためもう諦めようと思っていたからだ。


「そうですよ!前に地位があればわからないって言ってましたし!ここで強い冒険者になって地位を得れば取りに戻るってことですよね!?」


ロロも乗り気なようだ。わたしは押しに弱い。すでに心が揺らいでいた。


「少し、考えさせてください」


思考に専念しようとしたが、ナリナミはまだ話したいことがあったらしく声を出した。


「待ってくれ、迷う理由を教えてくれ、知りたい」

「迷う理由、ですか」

「そうだ、オレには迷う理由が見つかんねえ。セオドアは嘘ついて君を追放したんだろ?君は悪くない」

「確かに……」


わたしは魔石を取りに戻るか戻らないかを考えるのではなく、諦めていた理由を整理し始めた。


「諦めようと思っていたのは、皆がセオドアを信じてわたしを無実の罪で責めると思っていたから、です」

「皆?わすもナリナミさんも違いますよ!」


ロロが否定する。


「確かにそうですね。もう少し言えばライシロの街の皆、でしょうか。しかし世界中皆、という思い込みもあったことに今気づきました」


2人はわたしを信じている。これは救いだった。


「嘘を暴いて、真実を知らせる、ってことはできないのか?」


ナリナミは諦める理由をなくす行動を提案する。


「そもそもセオドアの鑑定スキルはそこまで優秀なものではありません。より信頼できるスキル鑑定士がいれば彼の嘘を暴くことは、できます」


2人との問答で、諦める理由はなくなった。わたしは2人の顔を見た。


「形見を取りに、戻ります。そして、嘘を正します」


わたしの中で、明確な目標ができた。

冒険者ランクをあげて自分が信頼されるに値する人物になること。優秀な鑑定士を探してセオドアの嘘を暴くことに協力を仰ぐこと。そして、最終的に形見の魔石を取り戻すこと。


「2人とも、わたしについてきてくれますか」

「もちろんです!!!」

「取りに行かないかって言ったのはオレだしな」


ロロは間髪入れずに、ナリナミは遠回しについてきてくれると言った。


「ありがとう、ございます、……っ……」


嬉しさに涙が溢れた。セオドアに追放された瞬間は、周りの全てが敵だった。今は仲間がいる。


それに、ライシロの住民に勘違いされたままというのは悔しい。その勘違いをなくすことができるかもしれないという希望ができたことも嬉しかった。


……セオドアへの復讐も、したくないと言えば嘘になる。

もしかしたら、別の人間が標的になっているかもしれないし、今もわたしのことを蔑んでいるのかもしれない。

こういうことを考えると心が苦しくなるので、復讐についてあれこれ考えたくないだけだ。嬉しくない涙が出てしまう。


「アギノフさんの心が、解放されたみたいで……よがっだでず!」


ロロもつられて泣いている。


「いろいろ辛いこと話したもんな?今泣いて、悲しみとか全部流しちまおう」


しばらく誰も何も言わなかった。

涙を流していると、黙っていたナリナミが話し出した。


「そういえば風呂で見た時アギノフの体がとんでもなく痩せてたけど、これも嫌がらせのせいなんだろ?セオドア、許すまじ!」

「ぐす、えっ、そうなんですか!?」

「いえ……、っ、ただの、体質です……ひっく」

「まじか……」


ナリナミは乗り出していた上半身と頭をベッドに引っ込めた。


「オレ、オチ担当!?」


ベッドの上でそう言うものだからわたしとロロは笑ってしまった。


「ではそろそろ寝ますか」

「そうするか」

「はいな」

「「「おやすみなさい」」」


やがて涙も落ち着き、全員眠りについた。

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