第20話
研究所に着くと、所長室に通された。
「この度のソレイユの無礼、大変申し訳ございません」
席に着くと、コモリエがソファーに座ったまま低いテーブルに手をついて謝罪をした。
「申し訳、ございません……!」
ソレイユは立って最敬礼をしている。
「あの場での速やかな謝罪で、名誉は回復しています。顔を上げてください」
こういうときの作法は全くわからない。とにかく謝罪を受け入れていることと許していることを一貫した態度をとる。
「ソレイユの処遇ですが、3分の1減給を半年することとなりました」
「はい」
「そして慰謝料としてアギノフ様に60万ドエルお支払いいたします」
「はい」
「ことの内容はソレイユだけに起こりうることではありません。我々も教育の観点から再発防止につとめます」
「はい」
文句はないのではいとだけ言っておく。
しかし慰謝料があれだけ貴重だと言っていた変異種銀魔猪より高いというのは、他人の名誉を尊重しているというのが伝わってくる。
「ソレイユの処遇と慰謝料が謝罪の形でございます。こちらを受け入れていただけますか……」
「はい、受け入れます」
「それではこちらを」
コモリエが金属の小箱を机に置く。
「中身が間違っていないかの確認をお願いします」
中にはきっかり60万ドエルが入っていた。これは貨幣入れだ。まだ入る余裕がある。あとで昨日受け取ったお金も入れておこう。
「それではこちらからは以上となります。旅を止めて足をお運びいただき、ありがとうございました」
「いえ……」
なんて言えばいいのだろう?どういたしまして、ではよくない。
「……ご丁寧な対応に感謝します」
どうにか受け答えを乗り切った。謝罪というのは受けるほうでも気をつかうものらしい。ただ相手方の対応には満足していた。
「これからどこへ向かわれるのですか」
コモリエからは安堵が感じられる。
「シラクーラへ向かいます。そこで冒険者をしようかと」
「ほう、あそこにはたしか2つ冒険者ギルドがありましたな」
「そうなんですか!?」
いままで大人しくしていたロロが口を挟む。3人とも一斉にロロの方を向いた。
「あ、すみません!前行った時は1つだけだったのでびっくりしました!」
「最近の話ですからな。わしも1週間前耳にいれたばかりです」
有益な情報だ。食いついてみよう。
「詳しくお聞かせ願えますか」
「もちろんそのつもりですとも」
彼は笑顔になり、冒険を夢見る少年のように話し始めた。
「なんでも小さい島発の小規模冒険者ギルドが新たな魔導具の開発、量産に成功したんだそうです。
そこから水中の探索がしやすくなって、海の魔力を溜め込んだ魔石や海産物などが大量に手に入るようになったと。」
「おお、すごい成功ですね」
「そうでしょう、そうでしょう。その冒険者ギルドが、島から一番近い街がシラクーラに進出。現在もともとあったギルドと質のいい冒険者の奪い合いになっているそうです」
ギルドにとっては悪い波、冒険者にとってはいい波か。
「ですが魔導具での成功ならば、真似をされて利益が分散、すでに大きい組織が得をするように思えます」
「おそらくその真似がかなり難しいのではないかと。実物が全く出回らないのです。貸し出しはしているものの、厳しく管理されているようです」
面白い。その魔導具を使った冒険にも、魔導具そのものにも興味がある。
「魔導具に興味があります。小規模だったほうに入ろうかと思います」
「左様ですか。ギルド名はセリトレイのイルカたち、と聞いております」
イルカが入っているとはいかにも海の民といった名前だ。
「セリトレイのイルカたち、ですね。とても有益な情報でした。ありがとうございます」
「お役に立ててよかった。さて、そろそろ出発なさいますかな?」
質問は特にない。ロロも暇そうにしているので、出発していいだろう。
「そうします」
「それではお見送りをさせてください」
コモリエは右後ろを向いて言う。
「ソレイユ、君もだよ」
「はい」
ロロとわたしは頭を下げるコモリエとソレイユを後ろに研究所を出た。




