第2話
以下、回想
「こいつ、スキルを授かってやがる!」
わたしの職場である治安維持施設、白き獅子団支部前の広場で、セオドアが叫んだ。
彼は鑑定スキルを持っていて、いつもわたしがひとつもスキルを持っていないのを仲間と見てはあざ笑う。しかし今日は様子が変だった。
馬鹿にしている態度に、怒りの感情が混ざっている。声が荒いのだ。
「なんでこんなやつに……!」
わたしは鑑定スキルを持っていないため、自分のスキルが増えていたことは知らなかった。跳ねたいほど嬉しくなるが、すぐにこれからのことを想像して体がこわばる。
足早に持ち場へと向かうがセオドアの取り巻きに引き止められる。
「おいおい平民が貴族の言葉を無視するのか?」
「いいえ」
無言でいると殴られるので返答をする。セオドアが近寄ってきた。
「役立たずの無術者が!何も!して!いないのに!スキルを授かるなんて生意気だな!」
「……そうです」
肯定しないとこれも殴られる。
平民が貴族に無礼をはたらいたとみなされれば市民権を永久剥奪のうえ追放されることも多い。
そしてセオドアたちは戦闘員だがわたしは魔物から取れた資源の記録などの裏方。社会的にも肉体的にも逆らえるはずがない。
わたしはセオドアたちを刺激しない選択を必死に考えていた。すると急にセオドアの表情が意地悪い笑顔に変わった。
「どうせスキルも役立たずに決まってやがる。それを俺自ら確かめる。模擬戦だ、用意しろドラド」
「はっ」
ドラドはセオドアの部下である。体格のいい男で、セオドアの盾となっている。
おそらく模擬戦という名の私刑。授かったスキルが戦闘向きであるとは限らないし、そもそもわたしには戦闘経験がなかった。
焦りと不安で頭が真っ白になる。もはやスキルがとても強いことを願うしかないが、それも絶望的だろう。
セオドアは戦闘員なのだから、鑑定スキルは鍛えていないことは知っていた。スキルの数とスキルレベルがわかるくらいの鑑定。スキルレベルが大きいものなら、こんな喧嘩は売らない。
「両者、準備は」
「できている!」
「……できました」
できているわけない。だができる準備もない。せめて死なないように立ち回ろう。
セオドアとわたしが離れて向かい合っている。周りには人だかりができていた。戦いは娯楽なのだ。恥はかくだろうが、これだけ見物人がいれば殺されることはないだろう。
「始め!」
ドラドが上げた手を下ろし開始の合図をする。セオドアはすぐにわたしに向かって炎を浴びせた。手の向きや姿勢から発射する瞬間はわかる。避けることはできていた。
「はははははは!」
笑うセオドアの手から出てくる炎が体を掠める。前に炎を見せられて遊ばれたときより強くなっている。中級の炎攻撃スキル、翔炎だろうか。
どうにか避けてはいるが、これは完全に遊ばれている。
「すごいな!」
「いいぞいいぞ!」
見物人が盛り上がっている。自分が悪者に見えないようセオドアは一方的な蹂躙を避けていた。こちらが追い詰められては逃がされる。
スキルを使うのに慣れていなくても魔力の扱いは経験があるため、それを練ることで重度の火傷は免れていた。しかし半月は痛むことになるだろう。悪化して仕事ができなくならなければいいが。
「がっ」
体力の消耗と火傷の痛みから、地面に這いつくばった。
「終わりだな。スキルが役立たずかもわからなかった」
避けることしかできなかったが、セオドアが油断している今ならスキルを使える。そう願いながらスキルを放とうとした。
しかしスキルを使ったことがない身にはスキル発動の方法がわからない。
普通に魔力を練るのと変わらない感覚。スキルが発動しているとは思えない……多くもない魔力にふさわしい、少しの水が手から発射された。
頼む、一矢報いさせてくれ。その願いは届かず、水はセオドアの炎で包まれ全て消えた。わたしは体から力が抜け、倒れる。
「そこまで!勝者、セオドア!」
ドラドが大声で勝者の宣言をした。