第17話
わたしとロロはパーティを組むこととなった。
「ありがとうございます。こういうことは初めてで、失礼なこともすると思いますが、改めてよろしくお願いします」
「よろしくお願いしま〜す!こんなにも収入が入って、行商人としてはもう無理やりついていっちゃおうかとも思ってました!」
ロロは両腕を広げ、冗談めかしていう。こちらも笑顔になった。
「コモリエ所長にもいいパーティだと思われてましたし!」
「そうですね。しかし、今日は大変でした。1日で、行動を失敗できない出来事が2回も起きたのですから」
1つ目は銀魔猪の退治。2つ目はソレイユに疑いをかけられたときだ。
「確かに、そうですね〜」
「こんなに精神が疲れた1日は今までの人生でなかった気がします」
振り返ってみると、ひとりかわいそうな人がいることを思い出した。
「そういえば、わたしが斧を破壊してしまった人へ謝るのを忘れていました」
「ああ、あの人ならアギノフさんの疑いが晴れたときすぐに研究所から出てっちゃいましたあ。謝りもしないなんて失礼です!」
「……よっぽと思い入れのある、もしくは貴重な武器だったのでしょう」
自分で言ってみて本当に悪いことをしたと感じる。武器を狙ったのは戦意を削ぐ意味もあったが、別の何かにすべきだっただろうか。
考えながらベッドに腰掛ける。
何か補填をしたほうがいいだろうか?そのようなことをしたら深緑髪の彼を余計にみじめにさせてしまうだろうか?
「あのう……」
あまりに深刻なのが態度にも出ていたようで、ロロが心配そうに話しかけてきた。
「アギノフさんは間違ったことはしていませんよ!わすはそう思ってます!」
「ありがとうございます……わたしは励まされてばかりですね。間違ったことはしていない、そう願います」
ロロはいつもの笑顔ではなく苦笑いを返した。わたしはつくづく自信がなくて、自分の考えを決めきれないやつなのだ。
でも、これでいい。
「わたしは、自分が正しいかどうかは常に悩み続けたいのです」
「とても、優しい考えです〜……お腹、空きましたね」
そう言えば、今日は結局何も食べていない。
「格式の高い夕食なんでしょうね」
「あっ、そんなこと言わないでくださいよお、緊張しちゃいます!」
「ははは、しかし夕食の時間を過ぎていなくてよかった。このまま1日何も食べなければ空腹で眠れないところでした」
お腹を撫でながら腰掛けていたベッドに背中を倒す。緊張や興奮がおさまって、空腹を自覚した途端に体に力が入らなくなる。
「今日一日何も食べてない!?わすも朝ごはんのあとは何も食べてないですけども」
「……ええ、朝ごはんも食べていません」
「あららっ、それはそれはっ、よくないです!」
ロロは腕をばたつかせてせわしない動きをしている。
「なにしろ一文なしでしたから」
ライシロでの給与はそこそこ安定していたものだった。
そして異世界のわたしは趣味を持っておらず、贅沢もしないのでほぼ貯金していた。
あの貯金はどうなるのだろうか。ライシロの街に税金のように取られているだろう。家……せまい寮暮らしだったが財産がないわけではない。
「あっ」
「どうしたんですか?」
「いや、忘れ物が。……もう取りには、戻れませんが……」
「取りに戻れない忘れ物?」
わたしがライシロで市民権を失っていることは、白き獅子団の勢力圏から出た後に言ったほうがいいだろう。異世界のわたしの記憶をたどり、言っていい部分を選んで話す。
「赤ん坊のわたしを捨てた両親が、最後の愛情として握らせていた魔石のことです」
「それは、話していて辛くなりませんか?」
胸に手を当てる。
この話をしていて気づいたが、主に精神の根幹にいるのは異世界のではなく現代のわたしだ。異世界のわたしはセオドアからの仕打ちで精神が壊れたのか、経験や記憶のみが残っている気がする。
今は形見の魔石に対する思いが、両親を求める気持ちより、どんな魔石なのかという興味のほうが大きい。
「大丈夫です。その魔石はわたしを拾ってくれた人が、わたしを育てる費用の担保として預かっていました」
白き獅子団の団員、ガロンドのことだ。これは話さない方がいいだろう。
「2年前にその費用を払い終えて、魔石はわたしの元に戻ってきています」
「取りにいけない、というのは理由を聞いても?」
わたしは腕を組んで下を向いた。さて、どう話すか。
「今のわたしではなんとも……地位があれば、違うかもしれませんね、はは」
あまり深刻にならないよう、笑いながら伝えた。
「それじゃあ、なおさらシラクーラの冒険者ギルドで高い階級にならなきゃ、ですね!」
詮索はせず応援するロロの気持ちが心に響く。
「そう、ですね」
会話がひと段落したところで、ちょうど夕食を知らせる音楽が鳴り出した。
「行きましょ行きましょ〜!」
はしゃぐロロの後について部屋を出た。




