第16話
すっかり暗くなったラヤの街を3人で歩く。灯りはまだ営業している店の蝋燭やランタンのみである。雷魔法はあるが、まだ電気の利用は発展していないのだ。
ソレイユが立ち止まった宿の名前はクアティエ・ホテル。3階建ての建物の大きさから規模が大きいものだとわかる。大した地位を持たない旅人が宿泊するところではない。
中に入ると豪華だが派手すぎない上品なエントランスが目に入る。天井からはシャンデリアがぶら下がっていた。
あちこち鑑賞したい気持ちを抑える。はしたなく顔をあちこちに動かすのはよくない。
「いらっしゃいませ」
ソレイユがフロントと話し出す。
「後ろの御二方のみの宿泊です。1人部屋を2つでお願いします」
それを聞いたロロが口を挟んだ。
「あれ、2人部屋じゃないのですか〜」
ソレイユが振り返り、フロントがこちらを見る。
さすがに異性が同じ部屋で泊まるのはよくないだろう。少女とはいえロロはひとりで旅をしてきたわけで、部屋は別のほうがいいはずだ。
「いや同じ部屋に男女はよくないかと」
「わすは同じ部屋でいいです!それにあの怪我、背中とか薬が塗りにくいんじゃないですかあ。さすがに痛々しくて不安です!」
ロロは信頼できるし、私自身もロロに危害を加えるつもりは一切ない。2人部屋でも大丈夫だろう。
「お気遣いどうも。何かあったときにいっしょのほうが安全そうです」
ロロの方からこちらの答えを待っているソレイユに視線を移す。
「すみません、2人部屋ひとつでお願いします」
彼女は頷いてフロントに部屋の要件を伝えた。その後もいろいろと宿泊内容を選び、特殊な要望も言っていた。まとめると2泊で朝食、昼食、夕食全てついている。チェックアウトは2日目の午前中にソレイユが迎えにくるまで。
時間になったら食事では音楽での合図をされ、チェックアウトでは従業員に呼ばれるとのこと。
この世界では、時計はまだ街の時計塔といったごく一部の場所にしかない。しっかり見るようにしよう。
説明の最後、料金を払うときになった。
「お支払いをお願いします。お代は8万ドエルです」
高級な場所だとは思っていたが……あのとても使えるとはいえない服から着替えさせてもらってよかった、と過去のことに安堵する。
「それでは部屋にご案内いたします」
フロントの後ろから案内係の従業員が出てくる。ソレイユは礼をしてホテルを後にした。会釈を返しておいた。
「こちらへ」
階段を上がる。廊下の右側、手前から2番目の部屋に通された。
「それでは」
鍵を2つ渡される。案内係は階段を降りて戻っていった。
カーテンのついた窓のある部屋は清掃されており、ベッドにシミもない。壁のランタンやテーブルの蝋燭の炎が揺れている。
「よく休めそうな部屋ですね」
「いい感じだと思います〜」
ロロはずっと背負っていた大きな荷物を下ろしてベッドのそばに置いた。わたしの荷物はお金の入った袋のみである。
ずっしりと思いお金の袋、35万2500ドエル。
これを目にするとコモリエの言っていた変異種ハンターが心にちらつく。選択肢に入れてもいいかもしれない。
しかし変異種ハンターの話題に神話級の生き物を出されたことで、逆に、自分は小さい存在なのだから痛い目に遭うだけだという考えも湧いてくる。
「今の目標は、シラクーラで冒険者になることでしょうか」
「それがいいと思います!」
冒険者。人里を離れ貴重な宝を追い求める者たち。宝とは強力な魔物の素材であったり、危険な場所を乗り越えた先に産出する宝石であったり、人間とは別種族の技術であったりする。
属する団体が違うだけでハンターもほぼ同じだ。
そして冒険者をするなら複数人の方がいい。役割分担が可能だからだ。
コモリエに良いパーティだと言われた時に肯定を示したロロに、本当にパーティを組まないか頼んでみる。
「ロロさん。頼みたいことがあるのですが」
「ほぇ?」
重要な頼み事をするのだ。緊張する。声が震えないように踏ん張った。
「わたしと、パーティを組みませんか」
ロロは驚きもせずいつもの笑顔で答えた。
「はいな!」




