第10話
「ロロさんがわたしとラヤまで?そんなことしたらあなたは来た道を戻ってしまいます」
さすがにそこまでしてもらうわけにはいかない。
「いいんです!わすにこの魔物、運ばせてくださいな!悪くならないうちにラヤで売っちゃいましょ〜!報酬は討伐報酬と素材全部合わせた金額から3割くださいな!」
そういって魔物を軽々と頭の上に持ち上げる。
「おお」
思わず感嘆の声が出てしまう。そのぐらいの報酬なら、喜んで渡したい。
「ではそれでお願いします」
「はいな!え〜と、アギノフさん、一度スキルとか使って全力で走ってみてください」
魔物を地面に下ろすロロ。
「なぜです?」
「走る速さで、わすがアギノフさんを運ぶかどうか決めたいんです」
「……」
わたしを運ぶというのを聞き、口を開いてしばらく固まってしまう。たしかにその方が速いだろう。見てくれより効率を優先している。商人らしい。
しかし彼女の驚くべき走力もホッキョクグマほどある大きさの魔物を持った状態では減衰するのだろう。
「では少し走ってみます」
とはいっても、今わたしのできることに肉体強化はほぼない。スキルなし魔力強化ではたかが知れているが、一応やってみる。
「合図しますね、よーい、ドン!」
魔力を練って脚全体に集中させ、強くするように念じる。多少は早くなるが、たいしたものではない。
10秒まっすぐ走って後ろを向き、走って戻った。
「ハッ、ハッ……どうですか」
「はいな、わすが運びます!いい場所でなくて申し訳ないですけど、魔物の上に乗ってくださいな!ここなら振動とか少なくなります〜!」
魔物の耳を掴み、またがる。わたしごと魔物をロロが持ち上げる。
「行きますよ〜!準備はいいですか!」
前屈みになって返事をする。
「いいです!」
動き出す。加速が速い。落とされないよう股と脚に力を込める。耳元で自分で走るよりずっと激しい空気の音が鳴る。
現代のわたしは遊園地のアトラクションや車を知っているが、異世界のわたしはこれだけ迫力のある体験はしたことがなかった。とても、気分が高揚している。
少し視点の高い場所から、地面が流れて飛んでゆく。この感覚はバスの後部座席に似ているか。好きなほうだ。そこに前のめりな姿勢と風を切る音が加わって、心を跳ね上げるのだ。
「おおぉぉぉーーーー……」
わたしは思い切り叫んだ。
「どうしましたか!」
「いいえ、感動で叫んでいるだけです!!!」
「思い切りどうぞ〜〜〜!!!」
「気持ちいいぃぃぃーーーーーーー」
柄にもないことをしているが、楽しい。
しばらくすると森を抜けた。草原の遠くに橋が見える。空は赤くなりかけていた。わたしはずっと笑顔で、時々笑い声も上げていた。
「このままいけば夕方にラヤに着きま〜〜〜す!!!」
この空気の音の中でもはっきり聞こえる声だ。もうこの運送業だけでもやっていけるじゃないだろか。行商人の里とはどれほどの場所なのだろう。
ロロの宣言通りまだ太陽が空にある時間にラヤに着いた。
「ラヤ、到着です!さて、どこにこの魔物を持っていきましょ!」
魔物と共に降ろされる。夕日で赤く染まった街はずれにわたしたちは立っていた。