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セシリアのセシリア

 何故この状況になったのだろうか。


 片方は昨日、私に大怪我を負わせようとした張本人であり、敵対心をむき出しにしていたように見える。もう片方はお調子者で、心を許せそうにないどころか、何を言い出すかわからない陽キャだ。そんな二人と一緒に食堂で席に座っている自分が不思議でならない。


 特に話題も浮かばず、どうしたものかと考えていると、珍しく空気を読んだのかエドガーが口を開いた。


「二人ともさ、好きな子できた?いる?気になる子とかさ」

「やっぱり一番オーラあるエリーとか?」


 物騒なレオンにそんなことを堂々と聞ける人間はなかなかいないだろう、と私は感心した。


「興味ないな。俺は入学式までお前らと面識がなかったんだ。二日目で良いも悪いもないだろう。そうやって軽口を叩くから、お前はモテないんだ。」


 辛辣だが、間違っていない。レオンは見た目に反して意外と話すタイプなのかもしれない。


「じゃあ、リュウジちゃんは?」


 突然話を振られた私は少し戸惑いながらも正直に答えた。


「わからないけど、エリーに惹かれるところがあるのは確かだ。」


「くぅ~、初々しくていいね~。でもさ、セシリアとかも良くない?」


 セシリア、と聞いて、私は名前から誰のことだったか一瞬思い出せなかったが、おそらくエドガーと同じ水系統の大人しそうな子だろう。


「なぜ?」


「そりゃあの大人しい雰囲気に似つかわない良い体がこう、男の心を刺激するところじゃん!」

「しかも彼女、ものすごく気が強いんだ。昨日喋りかけたらビンタされたよ!」


 この男の行動力と観察力には驚かされるばかりだ。


「みんな厚着しててそんなのわからなくない?」


「甘い、甘いよリュウジちゃん。よく見てみるんだ。デッカイ子は目立たなくなる服装を着てくるもんなんだよ。例外はいる。シャーリーとかね……」

「俺の頭には既に全員のデータがあるのだよ。なんでも聞いてくれたまえ。」


 そんな話を大声でしているせいで、エリーをはじめとしたクラスの女子から軽蔑の視線が向けられるのがかなり心に刺さった。


「ふふふ、これで二人も共犯だな。」


「勘弁してくれ。」


 私とレオンが息をそろえて返すと、エドガーは得意げな笑みを浮かべた。


「でもまぁ仕方ない。俺たちは同年代の中じゃ魔力が多くなるんだし、パートナーは選ばないと寝てる間に隣でウォーカーになられても嫌だろ?」


 なるほど、ウォーカーになる原因は器に溢れる魔力を浴び続けることにあるらしい。そう考えると、アカデミーで相手を探すのが一番理にかなっているのだろうと私は納得した。


「お前には心配ないことだろう。」


 レオンが再びエドガーを一蹴する。


「こらこら。お前ら二人と比べたらそうかもしれないけど、俺だってアカデミーに入ったんだ!」


「そうか、コネか。それとも手違いか……」


「またそうやっていじめてくる」


 思ったより息の合う二人を微笑ましく感じながら、私は無意識にセシリアのセシリアに目がいってしまい、そのセシリア本人に気付かれてしまう。視線が交わった瞬間、上手く言い訳できない自分が情けなく、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


 気まずそうにする私にエドガーが気付いた。その鋭い観察力には毎度驚かされるが、今回はそれ以上に厄介だ。


 彼はわざとらしく振り向き、ちらっとセシリアの方向を確認してから、再び私の方を見て、この上ない笑みを浮かべた。


 いやはや、エドガー恐るべし。


「あらあらあら、見つけちゃいましたか。宝ってやつを。」


 そう言いながら、先ほど私が言った「エリーに惹かれるものがある」という言葉を皮肉たっぷりに真似してくる。笑うエドガーに対して、何も言い返せない自分が少し悔しい。


「だから言っただろ、エリーも良いがセシリアも良い。甲乙つけがたいものがあるのさ。」


 お調子者らしい言葉に苦笑いしか出てこない。どうやら彼の中で何かしらの"格付け"が行われているらしい。


 エドガーはさらに付け加えるように声を低めて、意味深に言った。


「お前ら、ダメだからな。セシリアは俺が狙ってるんだから。」


 その言葉に、レオンがわずかに眉をひそめたが、何も言わない。私は内心で深くため息をつきながら、「はいはい」と適当に返事をし、曖昧な相槌を打つことで、この場をやり過ごすことに成功した。


 食堂で食事を続けながら、ふと見回して気がついた。見覚えのない生徒が複数いるが、どうやら皆、新入生のようだ。上級生と思しき生徒は一人も見当たらない。


 そのことが気になり、私はレオンとエドガーに問いかける。


「そういえば、上級生っていないのか?」


 レオンがフォークを置き、短く答えた。


「上級生は塔に入ってるか、修練室に籠ってるかのどちらかだな。近いうちに帰ってくるらしいけどな。」


 それにエドガーが続けた。


「帰ってきたら大変だぜ。新入生へのいじめが通年行事みたいになってるからさ。」


「まじか……」私は思わず呟いた。


 この世界に来てから出会った人々の優しさや、このアカデミーの整然とした空気感から、悪意のようなものが存在しないのではないかとどこかで感じていた。しかし、この話を聞いて、やはりどこにでも人間の醜い部分は切り離せないのだと実感させられた。


 エドガーは冗談混じりに笑いながら肩をすくめる。


「だからさ、校内のランキングもあるんだよ。レオンちゃんが1位を早く取ってくれれば、俺らを守ってくれるんだろ~?」


「俺を頼るな。」レオンは冷たい視線をエドガーに向けるが、エドガーは全く気にする様子もない。


 私は二人のやり取りをぼんやりと聞きながら、自分の中で決意を固めた。上級生に目をつけられるのは御免だし、校内ランキングにも乗らず、当たり障りなく、ただ空気のように過ごしたい。


「俺は静かにやり過ごしたいだけだな。」


 そう呟くと、エドガーが笑い声を上げる。


「おいおい、リュウジちゃん。それが一番難しいんだって、ここじゃさ!」


 その笑い声に、私は深くため息をつくしかなかった。


 その後も、食事を取りながら年齢や過去の経緯、アカデミーに入るまでの話など、様々な会話を交わしつつ、私たちは食堂を後にした。


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