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曲者揃いのクラスメイト

 前世では小学校、中学校、高校、大学と、複数回の入学式を経験した。そのどれもが特に思い出に残ることはなく、見知らぬ顔ぶれの中で眠い話を聞き、クラス分けがあったりなかったりという程度の記憶しかない。だから今回も似たような式典になるだろうと、私は勝手に確信していた。


 しかし、現状はどうだろうか。


 経験したことのないほどの疎外感が全身を包んでいる。周りの生徒たちは、まるで全員が顔見知りであるかのように活気に満ちあふれ、互いに親しげに話している。その様子に、私はまるで途中入学した転校生のような気分にさせられていた。


 大きな違いと言えば、まず在校生がいないことだ。新入生は20人前後で、講師が7人。非常に少人数だ。そしてこういった式典と言えば体育館というのが相場だが、ここではアカデミーの広々とした中庭で行われている。また、ほぼ全員が正装のような服装をしている点も違和感を感じた。日本の制服文化で育った身としては、こうした個人の服装センスが出る環境に馴染めないのだ。


 演壇の上に立った男性が場を静めるように手を掲げ、口を開いた。


「知っている顔もいれば、見知らぬ顔もいるだろう。」


 彼の声は低く、それでいて耳に残る響きを持っていた。


「私はこの教育機関の責任者、校長のシリル・ゲイルという。全員が平等な機会に恵まれることを望んでいるが、それを実現するにはお前たち一人ひとりが努力を怠らないことが前提だ。校で起こった問題はすべて私の裁量で裁くことが可能だということを肝に銘じ、学園生活を送るように。」


 シリル校長は、場を見渡しながらゆっくりと語りかけた。穏やかな口調の中にも厳然たる意志を感じさせる。そして彼は一呼吸置いてから続けた。


「挨拶が長くなってはいかんな。それでは、この校で教鞭を取る講師たちを紹介しよう。」


 そう言うと、校長は壇上から視線をこちらに向けた。


「まずは土属性の講師、ローム・テラード。」


 演壇の脇に立つロームさんが一歩前に出た。


「金属性、アルヴァ・アウリス。」


 落ち着いた佇まいの女性が深く一礼する。


「火属性、イグナス・ブラゼル。」


 熱血漢という言葉そのものを具現化したような赤髪の男が腕を組み、頷いた。


「水属性、ミリア・リヴィエール。」


 青い長髪が美しく揺れ、優しげな微笑みを浮かべる女性が姿を現した。


「木属性、セフィラ・エルダイン。」


 緑のショートヘアを揺らしながら堂々と立つ、凛とした雰囲気の女性だ。


「そして、無属性の講師、クロエ・ヴェイル。」


 黒髪のクロエが視線を向けてくる。あの笑顔にはどこか含みがあるように見えて、少し身構えてしまった。


「以上が、この学園の講師だ。覚えておくように。そして今年度は、思っていたよりも新入生が多い。よって、二つのクラスに分けて集合授業を受けてもらうことになる。」


 校長はそれだけを告げると、演壇から降りた。代わりにロームさんが登壇し、手元の名簿に目を落とす。


「さて、今から名前を呼ぶ者はワシについてくるように。」


 そう言われて、私は緊張しながら待った。そして自分の名前が呼ばれた瞬間、この疎外感から救われたような気がした。


 教室へ向かう途中


 教室に向かう間、私は他の講師たちの姿を思い浮かべてみた。一体、どの程度関わることになるのだろうか?


 火属性のイグナスは、いかにもな熱血漢で赤い髪が特徴的だ。水属性のミリアは優しそうな見た目に青く長い髪が映えていた。木属性のセフィラは緑のショートヘアで、木そのものをイメージさせる外見だ。そしてクロエとアルヴァ。この二人は一目で属性がわからない容姿をしていたが、どこか鋭さを感じさせる雰囲気が印象的だった。


 教室に足を踏み入れると、どこか懐かしい気持ちが湧いてきた。見覚えのあるような教室──大学の階段教室を小さくしたような造りだ。指示に従い、それぞれが適当な席に座ることになった。こうして席に落ち着くと、淡々と話し始めるロームの声が響き渡る。


「まずはワシの自己紹介からじゃ。ワシはローム・テラード。このクラスの担任を務める。講師の中じゃ知っている者も多いじゃろうが、改めてよろしく頼む」


 ロームは杖を軽く振りながら視線を教室全体に向けると、全員を見渡して口を開いた。


「今回は生徒の顔合わせと、今後の簡単な説明をするだけじゃ。まずは名前を呼ばれたら立つんじゃぞ」


 ロームの声と共に、生徒たちの名前が次々と呼ばれる。


「まず土属性、ワシが担当するのはアナスタシア。このクラスでは一人だけじゃな」


 前列に座っていた小柄な女性が、立ち上がって軽く会釈をした。次に呼ばれたのは金属性だった。


「金属性、ヴィンセント・アウリス。苗字があるということは元貴族か元王族かじゃな」


 ヴィンセントは堂々と立ち上がり、冷静な表情で周囲を一瞥する。その態度は、確かに貴族の風格を感じさせるものだった。


「火属性、レオン・バトラーとカイン。世間で知られておる"雷帝"という生意気な異名を持つのがこのレオンじゃ」


 教室に小さなざわめきが起きた。レオンは不機嫌そうな顔をしながら、無言で立ち上がる。


「水属性、セシリア・リヴィエールとエドガー・リヴィエ。」


「いやいや、なんか説明を端折りすぎじゃないか!」

 エドガーが声を張り上げるが、ロームは完全に無視して話を続ける。


「次に木属性、シャーリー・グラントール。こちらも元貴族か元王族じゃな。ちなみにヴィンセントと婚約しておるらしいぞ」


「ええっ、ちょっと待ってくださいよ!」

 再びエドガーが声を上げた瞬間、何かが高速で飛び、彼は音もなく気絶してしまった。


「次に無属性。リュウジ、エリー、そしてイリス・ルーミエ」


 私が立ち上がった瞬間、視界がまるでスローモーションになった。エリーと呼ばれた彼女の姿が目に飛び込んでくる。金髪に青い瞳、西洋風の容貌は、現代でも何度か見かけたことのある美しさのはずなのに、彼女だけは比べる基準がないほど圧倒的だった。美貌に加えて、どこか彼女を包む雰囲気に、私の心は強烈に惹かれた。これがいわゆる一目惚れというものなのだと、頭では理解しながらも、感情は完全に制御不能だった。


「これでこのクラスの生徒は以上じゃ。さて、ちなみに入学者の中で首席──つまり魔力の器が最も大きい者がこのクラスにおる。それはリュウジじゃ」


 ロームがさらりと告げた瞬間、教室の空気が一変した。魔力の波が一気に広がり、次の瞬間、大きな閃光が教室を包む。気が付くと、レオンがロームの手によって全身を土で拘束されていた。


「やっぱりこうなるかもしれんから、ワシがこのクラスの担任になったんじゃ」


「俺より優れてるか確認しようとしただけじゃねぇか」

 レオンは苛立ちを露わにするが、ロームは一切動じない。


「それは集合テストの時にでも競えばええじゃろう。魔力の器の大きさだけがすべてではないんじゃからのう。現にお前さんは、器の大きくないワシに制圧されとる」


 レオンは舌打ちをして拘束が解かれると、しぶしぶ席に戻った。


「まぁ、そんなこんなで仲良くするんじゃぞ。明日からは毎朝座学、昼は属性担当の個別授業が始まる」 「毎月簡単なテストを行い、成績を競ってもらうことになる。あ、そうじゃ、在学中にパートナーを決めた場合は学園に申請するように。申請は任意じゃから好きにせい」


 ロームが教室を去ると同時に、クラスメイトたちが一斉に話しかけてきた。


「どこ出身だ?」「能力は判明してるのか?」「恋人はいるのか?」

 さらには、「審判の部屋を壊したのって本当?」といった噂めいた質問まで飛んできた。


 私は慌てて言葉を濁しながら、転移者であることや審判の部屋を壊したことがばれないよう、何とかその場をやり過ごした。ふと視線をやると、雷帝ことレオンとイリスが教室を出ていくのが見えた。エリーはエドガーに口説かれているように見えたが、軽くいなしてから優雅に教室を後にしていった。


 私は深く息をつき、この場を離れることを決意した。これから始まる学園生活がどんなものになるのか、期待と不安が入り混じった気持ちを抱えながら、教室を出たのだった。

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