もう大丈夫
次の日、スピーチは大成功とは行かなかった。何を話して良いのか分からず、長々と話し、結局「みんな大好き。」と言うわけのわからない言葉で締めくくってしまった。でも、なぜかそのおかげで、学校でも人気者になっていた。
文化祭が過ぎると、いよいよ受験が本格的に始まりだした。受験ガチ勢の宮城は時々学校に来なかった。まるで、友花莉みたいだ。一方の友花莉は定期テストのために毎日ちゃんと学校に通っていたが、成績はそこまで良くはなかった。文化祭で共に戦った同志たちは、あれからも仲良く遊びに行ったり、テストに追われたりと、残りの学校生活を共に過ごした。そして気になる進路だが、友花莉はどうにか美術の専門学校に入学することができた。その時もまさか、あの漫画が役に立つとは思わなかった。一方の宮城もどうやら志望校に合格できたらしかった。文学部となんとも宮城らしい学部だった。そして、進路が決まると、気がついたら卒業式だ。友花莉は人生で初めて卒業式で涙を流した。そして、最後のホームルームが終わり、この学校とも別れを告げるときが来た。わずか一年の在籍だったが、友花莉にとってとても深く、濃い一年だった。もしかしたら、この学校に三年間通った誰よりも、濃い一年だったかもしれない。
「友花莉、このあとカラオケ行こうと思うんだけどどう?」
「あとで、合流するから先行ってて。」
「わかった、いつものジャンカラね。」
「ほーい。」友花莉は一人で、学校を散歩することにしていた。まず、最初に向かったのは図書室。結局ここを根城にしようと思っていたのに、一度も来なかったかもしれない。次に教室近くの廊下、よく倒れた場所だ。そこへ行くとなると、次に向かわなきゃいけないのは保健室だ。ゴッド姉はいなかったが、あの場所から保健室まで、思っていた以上に距離があった。ゴッド姉にもう一回会いたかったが、今日は叶いそうになかった。でも、多分、なんかわからないけどまた会う気がした。
そして校庭。校庭といえば騎馬戦とリレーだ。確かMVPみたいなのを宮城と二人で獲った気がする。そうなると、やはりあの場所に行かないと行けない。もう教室は誰もいないだろう。卒業式の日なのに、吹奏楽部の練習の音が聞こえてきた。あの日々が遠い昔のように感じた。放課後、宮城と二人で漫画のシナリオを考えたり、宮城が思い浮かべる情景について話し合った。時々言い方がきつかったが、意外に優しいところもあった。それに何より、あの漫画にすごい熱意で取り組んでくれた。友花莉はそれが一番嬉しかった。友花莉が教室にたどり着くと、人影がまだ一つ残っていた。
「やっぱり、ここから見る夕陽っていいよね。」宮城は少しびっくりしていたが、何事もなく話を続けた。
「なんか忙しい気持ちになるけど。」友花莉は笑った。それに釣られて宮城も笑った。
「正直ここに来ると思った。」
「私も。」今回は嘘ではない。
「美大に行くんでしょ?」
「専門だけど。」
「あんなことがあったのに、絵やめないんだね。」
「だって好きだから。」正直今言われるまで、そんな考えすら持ち合わせていなかった。「それに、私まだあきらめないからさ。」
「そっか。実は、俺元々法学部目指してたんだけどさぁ。」
「え?でも、入ったのって文学部でしょ?」
「そう。もっと物書きの勉強しようと思って。」友花莉は嬉しかった。なんか、自分勝手なわがままに巻き込んだことには変わりはないけど、少しでも宮城の人生に影響を与えられたことが嬉しかった。
「そこで提案なんだけどさ。」宮城が改まった。
「俺もっと勉強して、めっちゃ面白いシナリオ書くから、その物語を描いてくれませんか?」
「つまり、一緒にこれからも物語を一緒に描いて欲しいってこと?」
「どうかな?」友花莉に悩む事は何一つなかった。
「喜んで。逆にこっちも頑張って絵の勉強して、宮城の書いた物語を最大限に描けるようにがんばるね。」友花莉がそう言うと、宮城は右手を前に出してきた。友花莉はすぐにその右手を掴んで、大きく握手をした。
「将来的には、できたら文化祭の時みたいに、本にして売りたいよね。」
「話早くない?」
「確かにそうだけど・・・。」
「でも、手伝ってくれそうな人なら、心当たりあるかも。」
「マジで?」気が早い二人は、その後すぐに解散した。またすぐに会う約束をして。友花莉はカラオケを早く切り上げ家に帰ると、すぐに電話をかけた。電話の相手は、以前担当してくれていた、あの出版社の元社員だ。もちろん二つ返事で快諾してくれた。それからすぐに二人は、作品作りに取り掛かった。もうすでに良いものができる予感しかしていなかった。
こんなに人生を好転させることができたのは、きっと彼女のおかげだ。そう、私のヒーロー。可愛くて体に似合わない大きなノースフェイスのバッグを背負った彼女が、私の人生を幸せにしてくれた。
「もう、大丈夫だね。」
「うん、ありがとうノースフェイスちゃん。これからもよろしく。」ノースフェイスちゃんは今も私に微笑んでくれている。




