小さい手
外壁沿いを歩き、小さな広場についた。ベンチと、かまくらのような石でできた遊具があるシンプルな公園だ。辺りを見渡すと、町の外壁の一か所に木の板が立てかけてある。
「ここかな?」
そう言って少女は板を持ち、脇に寄せようとする。
「ああ、ここだよモモさん。さっさと出ちゃおう。」
「うーん、うーん。」
「何してるのさ!ちゃちゃっと寄せちゃってよ!」
うーんうーんとうなりながら一生懸命に動かそうとするが、なかなか板は動かない。
「あ、あの。変わります。」
そう言って私が板をひょいっと脇に寄せると、大人がぎりぎり通れるくらいの穴が現れた。
「ああ、あらあらありがとうね。ふう。私って、こんなに、力弱かったか、ねえ、はあ。体が変わると、こんなにも、違うものなのね。」
「モモさん、小さいんだから無理しないでよね。さあ、行くよ。」
外に出ると見渡す限りの草原と、土を均しただけの街道が見えた。空には茶色い大きな鳥が聞いたこともない鳴き声を上げて飛んでいる。
ここで改めて、私は知らない土地に来てしまったのだと実感した。
ただ、普通に、なるべく人に迷惑をかけないように生きてきた。小さいころに両親を失った私は施設に預けられた。幼いながらも早く自立しないとという気持ちが強かった私は、高校生になりバイトをしながら専門学校に入学した。卒業し、新卒で就職した会社は私にとってはとても働きやすく、10年近く在籍していた。友人も人並みにはいたし、まじめに働いて生活をしていただけなのに、私がなにをしたというのか。どうしてこんな目にあっているのか。
今更になって込み上げてきた不安と恐怖が、涙になってあふれてきた。
「ちょ、ちょっと!さくら泣いちゃってるよ、モモさん!あわわわわ……」
「そうよね、当り前よね。怖かったよねえ。さくらちゃんこっちにおいで。」
振り返った少女は、そういって私の手を取り、腰のあたりを優しく撫でてくれた。
「何が何だか分からずに、不安だったよねえ。よしよし。」
「ううう……」
そうやって撫でられていると、その手の温かさにだんだんと気持ちが落ち着いてきて、荒かった呼吸も整ってきた。本当に不思議な子だな。
「落ち着いてきたかい。」
黒猫はまだ足元でおろおろしている。
「あの、はい。ありがとうございます。」
「少し歩くけど、あの大きな木まで行けるかい。街は出られたし、しばらくは大丈夫だろうからそこで少し座って話そうかね。」
少女はにっこりと笑って手をつないだまま歩き出す。
不思議と頼りがいのある小さな背中を見て、私はなぜだかとても楽しい日々が待っているような、そんな気持ちになった。
次回からスキルなどが登場する予定です
二人と一匹ののんびり旅が始まります