聖女様!
あれよあれよと手を縛られ目隠しもされ、何かに乗せられて運ばれた先で、私は急に乱暴に突き飛ばされた。目隠しを外されると、そこはどこかも分からない路地裏だった。
「さあ、あとは勝手にするんだな。」
そう言い残すと、兵士たちは早々に去っていった。
「あ、え?」
一人残されて呆然とする。そもそも、何がどうなってここにいるのか。何が起きたのか全く分からないままこんなところに連れてこられて、もう一体どうしたらいいの……。
ドラマの撮影にしても、エキストラ役なんて応募してないし、こんなところに放置されて、あとから誰か回収しに来てくれるのだろうか。
「おい、女がいるぞ。」
そのまましばらく考え事をしていたら、路地の向こうから男の声がした。声がした方を見ると、三人の男がニヤニヤしながらこちらに向かってくる。
辺りをよく見渡してみると、瓦礫やゴミの山。奥の方では何か得体のしれないものを加えてネズミが走っていた。いや、あれネズミ?角があった気が……。
「ちょいと貧相だが、まあいい。さっさと連れてこうぜ。」
これはまずい。逃げるために立ち上がろうとする。なかなか立ち上がれず、そこで手が縛られたままなのに気が付いた。もう、縛られたままなのも気が付かないなんて……そうしてもたもたしていると、近寄ってきた男に腕をつかまれ、そのまま壁に打ち付けられた。
「いたっ。」
男の視線が上から下まで舐めるように私の体を這う。
「本当に全部がまあまあな女だな。お前ら、逃げられないうちに足も縛っちまえ。」
この男……失礼なやつ!でも今はそんなことを思っている場合ではない。何とかして逃げたいが、腕をがっちり掴まれていて私の力ではどうしようもなさそうだ。足にも縄をかけられたところで、これはドラマの撮影ではないな……なんてのんきなことを考えていた。
すると突然、子供っぽい声で誰かが叫んだ
「おーい、警備隊がきたぞー!」
おっと、これは、助けてもらえるのでは?
私は精一杯の力を籠めで叫ぶ。
「こ、こっちです!!助けて!!!!」
思ったよりも声に力が入らない。ここに来てからどのくらいの時間が経っているのか。いろいろなことがありすぎて気にする暇もなかった。慣れない環境で大分消耗していたようだ。
「ちっ、こんな時だけ見回りに来やがって。もういい。お前ら逃げるぞ!」
私を捨てて逃げていく男たち。おーい!せめて縄を外していってよ!
もぞもぞ動いてみるが、全くほどける様子はない。
そのままもぞもぞしていると、さっきの声の主だろう子供がこちらに駆け寄ってきた。真っ黒なフードを深くかぶっていて、顔は見えない。この辺の子だろうか。
私はお礼を言うためにもぞもぞとその子の方を向く。
「あの……ありがとう。本当に助かりました。」
「間に合ってよかったよ。大丈夫?」
そう言って、縄をほどいてくれる。
「ここがどこだかも何が起きているのかも私もう何が何だか分からなくて。ここは日本……だよね?えっと、本当にありがとう。たぶんあとは一人で帰れるよ、お礼をしたいのだけど、保護者の方は……。」
「こんな目に遭っておいてまだ家に帰れると思ってるなんて!意外と図太いんだね、お嬢さん。」
「え?」
「こら。ミーちゃんったら。怖い思いしたんだから、優しい言葉をかけてあげないとだめだよ。」
「え、え?」
よく見ると足元に黒猫が座っていた。あれ?この子は……
「人間はのんきすぎるよ、モモさん。ヘイワボケだよ。」
そんな!猫がしゃべってる?そんな馬鹿な。
この助けてくれた子がしゃべったんだよね?私ったら、まだ気が動転して……
「ごめんね、ミーちゃんが。怪我はなさそうだわね。それじゃあ、もう少し安全な場所に移動しようかね。」黒猫はリンっと鈴を鳴らして不服そうにしている。
「えっと、あの、き、きみは「ああ!ごめんなさいね。」
被せ気味にそう言ってその子はふわっとフードを外す。
「異世界聖女ものは、抜け駆けすると痛い目見るからね!」
いたずらっぽくウインクして見せたその子は、あの時の銀髪美少女だった。