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800文字ショートショート

ヤりたいのなら魅力的なダンスに誘ってくれ

作者: 一色 良薬

 押し倒された、皺の走る手のぬくもりが右肩に焼き付いた。

 じわじわと染みていく熱さが顔に侵食していく。

 感覚に押し潰される前にのしかかる男を睨み上げた。

 四畳半の寝室は空っぽで、私と男だけが収容されている状況だ。

 熱帯びた浮つく欲望が充満している。

 柳の葉に似た男の前髪から覗く、細められた目が光った。ぎらついた銀の刃の煌めきがちらちらとこちらを誘っている。その鉛玉の中に私が無様に横たわり閉じ込められている。

 鼻先が擦れるほど、吐息が唇に重なって湿る。男の脹脛に足先を滑らせながら、蛇の交尾のように絡めた。浮き上がった雄々しい喉仏を左手で撫でていく。

 酸素の息継ぎを互いの愛で貪る。と、生憎安っぽい展開はない。

 両者の間にあるのは衝動的な欲望。それも血生臭い関係だ。

「抵抗しないのか? 随分と余裕なもんだ」

「貴方の殺し文句には辟易します。センスの欠片もない」

「そういうお前さんはもっと寝技を磨いたらどうだ」

「色気のない誘いですね。Mr.クロックマダム」

「ご機嫌取りには飽き飽きだよ。Mrs.クロックムッシュ」

 しゃがれた呆れ声とともに、右肩からゆるゆると手が離れた。

 突き刺さっていた小型ナイフが、私色に染まって引き抜かれていく。

 「ったく、相変わらず痛覚死んでんのかぁ? 無表情でよぉ」

「ご期待に沿えず申し訳ございません。老犬に噛まれたくらいでは喚き散らしません」

「その澄ました顔をぐちゃぐちゃにしてやりてぇな」

「発想の気色悪さで現行犯逮捕されたら良いのに」

「それよか俺の太腿に刺したナイフ、どうにかしてくれよ。自分で抜くのはナンセンスだろ?」

 退いた男の右太腿にぶらさがるナイフを容赦なく引き抜いた。いてぇな! と叫んだ男の主張は無視を決め込んだ。

「なぁそろそろ本気で殺ろうぜ。俺ぁお前さんの殺り方に惚れてんだ」

「ならば相応の魅力的な社交場に連れていってくれませんか」

 ここで殺るにはムードがなさすぎる。お互いの殺意で本気で踊らなければ。

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