ヤりたいのなら魅力的なダンスに誘ってくれ
押し倒された、皺の走る手のぬくもりが右肩に焼き付いた。
じわじわと染みていく熱さが顔に侵食していく。
感覚に押し潰される前にのしかかる男を睨み上げた。
四畳半の寝室は空っぽで、私と男だけが収容されている状況だ。
熱帯びた浮つく欲望が充満している。
柳の葉に似た男の前髪から覗く、細められた目が光った。ぎらついた銀の刃の煌めきがちらちらとこちらを誘っている。その鉛玉の中に私が無様に横たわり閉じ込められている。
鼻先が擦れるほど、吐息が唇に重なって湿る。男の脹脛に足先を滑らせながら、蛇の交尾のように絡めた。浮き上がった雄々しい喉仏を左手で撫でていく。
酸素の息継ぎを互いの愛で貪る。と、生憎安っぽい展開はない。
両者の間にあるのは衝動的な欲望。それも血生臭い関係だ。
「抵抗しないのか? 随分と余裕なもんだ」
「貴方の殺し文句には辟易します。センスの欠片もない」
「そういうお前さんはもっと寝技を磨いたらどうだ」
「色気のない誘いですね。Mr.クロックマダム」
「ご機嫌取りには飽き飽きだよ。Mrs.クロックムッシュ」
しゃがれた呆れ声とともに、右肩からゆるゆると手が離れた。
突き刺さっていた小型ナイフが、私色に染まって引き抜かれていく。
「ったく、相変わらず痛覚死んでんのかぁ? 無表情でよぉ」
「ご期待に沿えず申し訳ございません。老犬に噛まれたくらいでは喚き散らしません」
「その澄ました顔をぐちゃぐちゃにしてやりてぇな」
「発想の気色悪さで現行犯逮捕されたら良いのに」
「それよか俺の太腿に刺したナイフ、どうにかしてくれよ。自分で抜くのはナンセンスだろ?」
退いた男の右太腿にぶらさがるナイフを容赦なく引き抜いた。いてぇな! と叫んだ男の主張は無視を決め込んだ。
「なぁそろそろ本気で殺ろうぜ。俺ぁお前さんの殺り方に惚れてんだ」
「ならば相応の魅力的な社交場に連れていってくれませんか」
ここで殺るにはムードがなさすぎる。お互いの殺意で本気で踊らなければ。