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魔法使いなんている訳ない

「それは……魔法使いに弟子入りし、王族と対等に渡り合える立場になって、無実を証明する証拠を集めるという方法です!」


「聞いたわたしが馬鹿だったわ。想像以上にアホな回答ね」

「そんなアホみたいな事が僕には出来るといったらどうしますか?」


 そういうサーシャの目は驚く程に真剣だった。

 よくもまぁ、こんな話をまるで本当に出来るかのように話せるものね。


 わたしははぁ、とため息をつきつつ、サーシャの話にのってあげる事にした。


「魔法が使えるのなら、時でも戻そうかしら? そうね、わたしがアンネをいじめる前がいいわ。こうなると知っていたら、流石にいじめないから」


 わたしはやりもしてないいじめまででっち上げられ陥れられたが、恐らくわたしがいじめ自体をしなければ、そんな事にはならなかった筈だ。話の火種自体を消す、そういうイメージだ。


「残念! 魔法でも時は戻せませんし、そもそも、言い出しっぺはラヴィニア様を弟子入りなんてさせられません!」

「は?」


 サーシャはにっこりとそれはそれはいい笑顔をみせた。


「だって、性悪赤ドレスで自己中心的なラヴィニア様の事ですもん、アンネをちょっといじめただけなのに、そのいじめが誇張されて、罰をうける事になる羽目になった!こんな理不尽ありえない!とか思ってるでしょ?」

「そう考えるののどこが駄目なの?というか性悪赤ドレスって呼ぶのやめてくれる?」


 性悪赤ドレス……その呼び名はわたしにとって非常に不本意だった。パーティーや色んな行事に出る時から普段の生活に至るまで、いつも赤いドレスしか着ないからそう呼ばれているのだろう。

 でも、わたしは別に好きで赤いドレスを着ている訳でもないのだ。むしろうんざりしている。


「駄目な所しかないです!アンネをいじめた事を結局は大して悪い事をしたとは思ってないって事じゃないですか!」


 そういうサーシャの目には呆れと叱りがあった。

 わたしは昔お母様に「人の嫌がる事をしちゃ駄目なのよ、ラヴィニア」と叱られた事を思い出し、何となくばつの悪い気分になった。


「……あの子がいけないのよ。人の婚約者につきまとうから」


 人の婚約者を誘惑するのだって十分な罪の筈だった。


「まぁ確かにその点はアンネも悪いですけどね。でも、ラヴィニア様は反省しないとだめです。今のラヴィニア様の為には、いくらこの件に心の操る魔法使いが関わっていたとしても、魔法使いの力は貸してあげられないですねー」

「……心を操る魔法使い?」


 わたしは一瞬ぽかんとしてしまう。


「ええ、そいつに、ラヴィニア様は陥れられたんですよ?あんな厄介な存在に目をつけられ、破滅へと追い込まれたのは、流石に可哀想だとは思います」

「そんなオカルトじみた事を言われても、わたしは信じないわよ」

「そうですか。とにかく、魔法使いの一族にあなたを迎え入れる事は出来ません。今のあなたの為にそんなリスキーな事はしたくないですからね。ラヴィニア様がいじめを心から悔いた時……その時はラヴィニア様の為に僕らの力を貸しましょう。まぁこれは、心を操る魔法使いの所業を止める義務のある、僕達、古の魔法使いの為でもあるんですけどね」

「ふん、魔法使いだかなんだか知らないけど、あなたの力なんて借りたりしないわ」

「ラヴィニア様ったら人の言葉を素直に受け止めない~!よっ人間不信!」

「わたしじゃなくても、誰もそんな話はまともに相手しないわよ」


 城の外に出た。

 風がびゅうと吹いているそこには、信じられない人がいた。


「ラピス様!」


 わたしをこう呼ぶ人間は一人だけ。

 そう、トールだった。


 わたしの足は止まってしまっていた。


「なんでここにいるの。パーティー会場にいた筈でしょう。まさかわたしの巻き添えで追い出されたの?」

「いえ、自分から出てきました。アーサー様にラピス様の処遇を問い詰めてからきたので、遅くなってしまいましたが……アーサー様に昔教わった、城の抜け道のおかげでラピス様に追いつけました」

「わたしの元に来てどうするつもり?あんたにはわたしにつきまとう理由なんて、もう何一つない筈よ」

「あります。……僕にとってラピス様は大切な人ですから。それ以外に何か必要ですか?」

「そんな、そんな事ある、わけ……」


 わたしは呆然としてトールの事をみつめてしまう。

 そんな事をいわれたら、トールがわたしの事を本家だとか分家だとか抜きで、側にいようとするのだと勘違いをしてしまいそうになる。

 そんな訳は絶対にない、と正気を必死に取り戻そうとする。


 トールをわたしを熱っぽくみていたが、突然表情が険しくなった。


「何であなたがラピス様と一緒にいるんだ、サーシャさん。アンネさんの所にでもいったらどうかな?」

「あ、今気づきました?」


 そういってトールはわたし達の側にすたすたとやってきて、わたしとサーシャの間に割り込んだ。

 トールの後ろ姿を眺めながら、どうしてそんなにサーシャに怒っているのだろうと疑問に思う。


「アンネさんの味方のあなたの事だ。ラピス様に追い討ちでもかけていたんだろう?ラピス様はただでさえ、酷い目にあったんだ。これ以上僕の大切な人を傷つけるつもりなら、あなたの事を許さないよ」

「酷い目にあったのが、自業自得だったとしてもですか?」

「確かにラピス様はアンネさんに許されない事をしたよ。でも、それに罰が与えられる事はもう決まっている。これ以上ラピス様がお辛い目にあう必要はありません」

「善人ですね~、トーヴァ様は。ラヴィニア様って結構厄介で性悪な方だと思うんですけど、そんな彼女にも思いやりと愛着がもてるんですね」


 サーシャにそういわれて初めて気づいた。

 トールはわたしみたいな人間の事も気にかけてしまうぐらいの馬鹿みたいなクソ善人だったのだ。なんて愚かな男だろう。


 クソ善人なトールの目からは、ソティス家から追い出されたわたしはよほど不憫にうつっただろう。それこそこうして追いかけてきてしまう程に。

 なんだ、わたしの事を大事に思っていたとかではなく、同情か。そう思うと、何故か心がちくりと痛んだ気がした。


「そうやってラピス様に失礼すぎる言葉を平気で吐くなよ、サーシャ・クラウディオ。君のそういう所に前から辟易としていたんだ」


 トールは低い声でサーシャを威圧した。


 いつもこいつは誰にでもどんな時でも、穏やかな態度を崩さない人間だけど、わたしの事に関してはこうして怒る時もある。


 わたしはいつもハイハイわたしの従者として怒ってるのね、ご苦労様と醒めた目でみている。今はわたしがソティス家から追い出される以上、もう本家と分家という関係でもないのだけど、いつもの癖でやってしまってるのかもしれない。


「いくら主人の為とはいえ、女の子に対してそこまで過保護だとかわいい婚約者さんに嫉妬されちゃいますよ~?」


 そう、トールには婚約者がいた。しかも、トールにとって初恋で、今でも想っている人だというおまけ付きだ。


 以前トールの家を訪ねた時、偶然トールと婚約者のいる所をみたが、トールはわたしにも、他の誰にもみせないような顔で幸せそうに微笑んでいた覚えがある。


「別にいいんですよ、それはもう」


 そういってトールは曖昧に笑った。

 わたしはトールのそんな様子を疑問に思うが、サーシャは特に何も思わなかったようだった。

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