王都へ
「本気も本気です。むしろ王都でラヴィニア様のお父様を説得するなんていう上手くいかないかもしれない方法より現実的だと思いますよ」
「現実的……?魔法を使うのが現実的って何それ?面白くない冗談ね」
「冗談じゃありません、本当に現実的ですよ。魔法を使うという話は、あなたにとっては突飛に感じるかもしれませんが、嘘偽りないのですから」
「……信じられないわね」
「……はぁ。ここで信じてくれれば話は簡単なのになー」
サーシャは肩をすくめた。
そんな事をいわれても、魔法を使うなんておとぎ話のようなものにしか感じない。
「はぁ、ラヴィニア様がそういう考えなら仕方ありません。王都に行ってお父様を説得する方向で考えましょうか。まぁ僕としても本当はそう簡単に魔法を使える人を増やすなんて、ホイホイ出来ませんからね。そんな事してたら、クラフト家とかに目をつけられる可能性がありますから。でも、今回は心を操る魔法使いがラヴィニア様の悪評をひろめようと色々な人に能力を使ってたから、特例で魔法を教えても、何も言われなそうだなと思ったんですけどね。あーあ、せっかくのチャンスなのになぁ」
「は?何独り言をぶつぶついってるの?」
「今のラヴィニア様には分からない話ですよ」
「なら口に出さないで心の中だけで思ってなさいよ」
「あーはいはい、ゴメンナサイゴメンナサイ」
サーシャは明らかに適当な感じで返事をした。ここまで誠意がない謝罪も珍しいわね。
「でも、行くなら早く行かなければですね。どうせアーゲンスト家からは黙って出てきたんでしょう?」
「ええそうよ。だって反対される気しかしなかったもの」
お義父様はわたしとトールが別れ、トールとミツカが再び婚約する話に否定的だった。今回のわたしの計画なんて、大反対な筈だ。
「そうですよねー。多分、ラヴィニア様がいない事が分かったら、アーゲンスト家の屋敷の人間とかによる捜索の手がきますよ。もしそれに見つかったら、王都にたどり着かない可能性もあるじゃないですか。だから、やっぱり急がなくちゃ」
「そうね、わたしもそうするつもりよ」
「……あ、でも王都に行くまでのお金とかどうしましょう。ここから王都まで結構お金かかりますよ。僕も多少は多めにお金をもってきてるんで、借せなくもないですけど、ラヴィニア様の旅代全てを負担出来るかは怪しいです」
「心配は不要だわ。金目そうなドレスをもってきたから、それを売るわよ」
「それってこの前この町の服屋でトーヴァ様に買ってもらったものも入ってるんじゃないですか?」
「ええ。トールに買ってもらった2着分売るわ。2着とも高価そうだったもの」
「せっかくのトーヴァ様からのプレゼントなのに、後悔しませんか?」
「……王都に行けない方が後悔するわ」
確かにトールの買っていた服を売る事は、微かな躊躇いを覚える。でも、王都に行くためならそんな無駄な感情は捨てられる。
「あーあ、トーヴァ様もがっかりされるでしょうね」
「……別に、勝手に落ち込めばいいわ」
「そんな顔でいっても説得力ないですよー」
サーシャはそういってわたしの額を人差し指でつついた。
「ちょっと何するの!?」
わたしはサーシャの手を振り払う。
サーシャはわたしに拒絶された事を全然気にしてないようで、にんまりと笑った。
「あはは、ラヴィニア様ってトーヴァ様の事が本当にお好きなんですね」
「さっきから何度それをいうの!?しつこいのよ!」
「全く、素直じゃないんだから~。まぁでも、今は実は一刻も争う事態ですから、これ以上ラヴィニア様で遊べませんね。アーゲンスト家からの捜索の手がきたら大変ですから。僕もさっさと仕度してくるので、急ぎましょうか!」
「は!?人で遊ぶって何!?」
今聞き捨てならない言葉を聞いたわよ。
「ラヴィニア様、面白い人だからなぁ~」
「わたしを何だと思ってるのよあんた」
「え~。トーヴァ様が大好きで手玉にとりやすい悪役令嬢ですかね?」
「……し、死んで!」
「僕が死んだらラヴィニア様が王都に行けなくないですか?」
「じゃあわたしに利用された後死んで!」
「あはは、そういう事いわれてると王都まで送るのをやめたくなっちゃいますね」
そういいつつ、サーシャは荷物をてきぱきとまとめていっていた。その動きは有能な使用人並みにすばやい。
前から思っていたが、サーシャは要領がいい人間だと実感した。
「はい、荷造りおーわりっと!ラヴィニア様~、行きましょうか!」
「……ええ、もちろんよ」
わたしは胸の前でぎゅっと両手を握りしめた。
ーーわたしは絶対に王都に戻るのだ。




