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協力要請

「つまりラヴィニア様は、どうしてもトーヴァ様と別れたい、そしてトーヴァ様にミツカさんとくっついてほしいと。その為にパーティーで会ったご令嬢から渡された書状片手にお父様を説得するしかないという発想に行き着いたと。そういう訳ですね?」

「ええ、その通りよ」


 わたしはサーシャから「客人はもてなさないと」と渡されたハーブティーを飲んだ後、頷いた。

 サーシャには大体の事をかいつまみつつ説明した。トールと別れたい理由については何となくいわなかったが。


「大方、ラヴィニア様がトーヴァ様と別れたいのはトーヴァ様とミツカ様が結ばれた方がトーヴァ様が幸せになれ、ひいてはアーゲンスト家やコンチネンタル領の為になると思っているからでしょう?」

「……え、何であなたが知って……いや、あぁ、そういえば、服屋でトールと別れたいと話した時に、その話もしてたわね」

「あ、忘れてました?ラヴィニア様ったらうっかりさん!」

「うるさいわね、ちょっと前の事でしょ?」

「約一週間前は直近の事だと思いますけど~?」

「わたしにとってはちょっと前よ!」

「へぇ、一週間前の事をそう認識してる人っているんですね、時間感覚のずれって面白い!」


 サーシャはそういってあははと笑った。わたしはその笑顔に微妙に苛立ちを覚える。

 どうしても断られる訳にはいかない事を頼んでるのだから、今回は下手に出ようと思っていたのにも関わらず、この子と話しているとどうしてもそれが出来ない。絶妙に気にさわる事を言ってくるのだ、困ったものだ。


「それにしてもラヴィニア様、案外健気ですね。トーヴァ様と別れたらソティス家を追い出された立場である自分がどうなるのか分からないのに、それよりもトーヴァ様やアーゲンスト家の幸せを優先するなんて」

「そんな事はないわ。罪悪感を抱きながら生活するよりは、例えたくさん苦労しようと憂いのない生活をする方がましってだけ」

「う~ん、意外と甘いなぁ、ラヴィニア様は。それが本当にたくさん苦労をした後でいえるんですか?あの時やっぱり、トーヴァ様と別れなければよかったと思う結果になるかもしれませんよ?」


 サーシャはわたしを試すように見つめる。

 わたしはその視線を真っ向から受け、見つめ返した。


「例えそうだとしても、今のわたしはトールをわたしから解放したいと思ってるわ。なら、わたしはそれに従って行動するだけ」

「そうですか。そう思われているなら、何もいえません。僕から言える事は一つだけです」

「……?」

「ラヴィニア様ってやっぱりトーヴァ様の事が大好きなんですね!」

「はぁ!?」


 サーシャはわたしをからかうように、にやにや笑っていた。

 何でこの話からそうなるのだ。意味が分からない。


「だってそうでしょう?トーヴァ様にそんなに幸せになってほしいだなんて!それはもう愛ですよ愛!」

「ち、違うわ……トールはそんなんじゃ……」


 トールの事を好きなんじゃないかといわれるのは本日2回目だ。そんなにわたしってトールの事を好きそうにみえるの?

 サーシャは「もう、ラヴィニア様たら素直じゃないな~」とくすくす笑っていた。


「でもそれだと、今度はトーヴァ様とミツカさんが婚約したら、別の意味で後悔するかもしれませんね。ラヴィニア様のトーヴァ様への「好き」が、友愛でも、幼馴染みへの愛着でもなく、「恋」だった場合、ですけども」

「は?わたしがトールに恋?」


 わたしは鼻で笑う。

 そんな、わたしがトールに恋だなんてする訳がな……。


 ーーー本当にそうと言える?トールとミツカが仲睦まじくしている姿を見てる時感じた感情を忘れたの? 

 ーーーあの時感じたのはまさに絶望、そうではなかった?

 ーーーそんなの、トールに恋でもしてなきゃ思わないでしょう?


「……っ!」


 自分の心の奥底からそんな声が聞こえた気がして、動揺する。トールに恋だなんて、そんな事する訳がないのに。


「あはは、好きな人と結婚出来てたのにそれを手放しちゃった~、ミツカ様に譲るんじゃなかった~って思っても遅い、なんて事になっても知りませんよ?」

「だから別にトールの事なんて好きでもなんでもないから。それに……」

「それに?」

「好きな人が他にいる相手との結婚生活だなんて、みじめだわ。幼馴染みや主人への態度の延長線なのかもしれないけど、優しくされればされる程辛くなるの」


 そう、これがわたしがトールと別れたい理由のもう一つだった。

 トールはわたしを妻として扱ってくれてる。でも、それはわたしの事が好きだからじゃない。

 トールがクソ善人だから、無理のある経緯で嫁になった身のわたし相手でも優しくしているだけなのだ。


 わたしにはそれが辛かった。


「う~ん、そういう事を感じる時点でやっぱりトーヴァ様の事に恋してるんじゃ……」

「は?意味が分からないわ」

「ラヴィニア様って自分の気持ちに鈍感なんですか?それとも気づかないフリをしてるだけ?」

「別にそのどちらでもないわよ。トールの事なんて別に好きじゃないから」

「本当に頑固ですね。分かりました、もうそういう事でいいです。ラヴィニア様がそれなりに覚悟されてる事は分かりましたしね」


 そういってサーシャは自分の分のハーブティーを飲み干した。


「ラヴィニア様、僕、あなたに協力しますよ」

「え、本当に!?」

「ええ。まぁ随分と無茶な事を考えるなーって思いましたけど、あなたの力になると以前言いましたし、あなたがそうすると決めたなら、応援したいです」

「あっそ……」


 サーシャは任せてくれとでもいうように自分の胸をドンと叩く。何でサーシャにとって友達のアンネを苛めていたわたしなんかに協力するのかは謎だけど。

 わたしはほっとしていた。これできっと王都にいける。


「でも、ラヴィニア様のお父様の所に向かわなくてもいい方法がありますよ」

「何?」

「ラヴィニア様が魔法を使えるようになって、王族に直談判すれば良いのです!」

「それ本気でいってるの?」


 こんな時までそんな冗談をとわたしは呆れた。

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