出来れば頼りたくはなかった相手
今回から少し短めな回が出てくるかもしれませんが、私がキリのいい分量で書くのが苦手な為です。申し訳ございませんが、ご了承ください。
わたしは椅子に座り、部屋の机に頬杖をつきながら、とある考えに耽っていた。
『そんな事があり得るかは置いておいて、そんな事態がもし起きたら、私は頷くしかないでしょうね』
「お父様がミツカとトールに再び婚約しろといってきたら?」という質問にそう答えていたお義父様。
だったら、わたしがやる事は一つな筈だった。
今のわたしならまだ出来る。「トールはわたしと別れ、ミツカと結ばれた方がいい」と思えているから。
やるとしたら今夜決行しよう。今ならまだまだ終わらないであろうパーティーでごたついているし、お義父様に頼んで人払いもしたし、屋敷から抜け出してもそんなに早くバレない筈だ。
問題はあまりにも突飛な考えすぎるし、実行に移ったとしても、成功できる想像が出来ないという事だ。
とりあえずこのドレスは脱いで、この前町に出た時に着たワンピースにでも着替えよう。そうした方が身動きがとりやすい。
わたしはクローゼットの方へ行き、開いた。
そしてワンピースを取り出す。
「あ」
ワンピースのポケットから、ひらりと紙が落ちる。
紙を拾うと、そこにはある住所と部屋の位置が記載されていた。
これは自称魔法が使える人間ことサーシャから「もし何かあったら力になりますよ」と渡されていたものだった。
……そうだ、サーシャの力を借りれば、わたしのこの考えは実現出来るかもしれない。サーシャは王都からここまで旅行してきたというのだから。
わたしは紙をぎゅっと握りしめた。
誰かの力を借りるなんてわたしらしくない。
しかもあのサーシャだ。お世辞にも仲が良かったとはいえない。わたしが頼んでも本当に力を貸してくれるのだろうか。
でも、今はそんな事いってられない。藁にもすがりたい、そんな気持ちでわたしは紙を凝視した。
わたしは布団のシーツの中に部屋にある金目のドレス(この前町に出かけた時に買ったドレスも入る)をくるんだものを、しょい直す。
巨大な白い袋を持つわたしの姿は非常に目をひくだろうが、今は夜。わたしの姿を見る人なんていなかった。
わたしは地図に書いてあった宿のサーシャの部屋の窓ガラスに向かって、石を投げる。
一度、二度、三度。何度投げても部屋の主は反応を示さない。
今のわたしは明らかに不審者だ。こんなので窓を開けるようなら、サーシャの防犯能力を疑わなければならなくなる。
でもこれしかやり方は思いつかなかったのだから、仕方ない。どこまでも分の悪い賭けじみた事をわたしはやっているんだな、とため息をついた。
「はーい、何ですかー?あーねむねむ」
……なんて思ってたら、サーシャが窓を開けた。
わたしは思わず、目を疑う。
「ちょっと、あなたの防犯意識はどうなってるの!?」
「いや、それを散々窓ガラスに石をベシベシぶつけてた人にいわれてもね~……って誰かと思ったらラヴィニア様ですか?」
「そうよ」
「へ~それは驚きというか。まさか本当に来るとは思いませんでした」
サーシャは驚きといいつつ、それを全く表情にしておらず、普通に冷静な態度だった。
そういえばサーシャが取り乱してる所を見た事ない。食えない人間だと思う。
「で、どうして僕を訪ねてきたんです?何かご用でもあったんですか?」
「ええ、なければあなたの所になんて来ないわよ」
わたしはそういって、サーシャにお辞儀をする。
……わたしらしくない行動だ。でも断られる訳にはいかないし、無茶な事を言う自覚はあるので、なるべく礼を尽くしたかった。
「ちょっと、どうしたんで……」
「サーシャ、お願い。わたしを王都に連れてって……王都にいるお父様にお話ししなければいけない事があるの」
そう、わたしの考えはただ一つ。
王都にいって、お父様にミツカの父親の書状を見せ、わたしとトールが別れ、トールとミツカが再び婚約できるように働きかける事だった。
サーシャに協力を頼んでいるのは、わたしではこの辺境の地に存在するコンチネンタル領から王都までどう行けばいいのか分からないからだ。サーシャなら旅行でここまで来たのだから、王都に行く道も分かるに違いない。
ちなみに金目になるドレスをもってきたのは売って王都行きの資金にする為だ。確かこの町では、夜の23時までやってる質屋があった筈だった。売れば多少は金になるだろう。
お義父様もお父様の言うことなら聞くといっていた。もう、これしか方法はないと思った。
「……え?」
サーシャは話が見えないというばかりに首をかしげる。
「とりあえず、部屋にあがって詳しい話をお聞かせいただけませんか?」
「分かったわ」
サーシャは窓を全開にし、わたしに入るよう促す。
ドレスの入った白い袋は邪魔になるので地面に置き、わたしは窓から部屋に入ろうとする。
……そして、それに失敗して後ろにひっくり返った。幸いにもドレスの入った荷物がクッションになり、地面に頭をぶつける事態にはならなかったが。
アーゲンスト家の屋敷からここまで、前に来た時の記憶を頼りに歩いてきたが、体力がないわたしにとっては疲れる道のりだった。
とっくに体力は底をつきていたのだ。窓から部屋に入ろうとして、失敗する程度には。
「ラヴィニア様~?大丈夫ですか~?」
「……別に大丈夫よ」
そういってもう一度部屋に入ろうとする。
今度は成功した。サーシャ、拍手するのは止めなさいよ。
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最近この文言を書くたび、動画の最後にチャンネル登録や高評価を頼むYouTuberさんってこんな気持ちなのかなぁと思うようになりました。




