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面倒すぎるパーティー

 無事アーゲンスト家主催のパーティーは始まった。始まったのだが。


「ラピス、ほら、あそこの方達にご挨拶しにいこう?」


「ラピス、あの置物を見ている人達に話しかけようか」


「ラピス、あの方達のお話に混ざろうね」


「ラピス、あそこに……」

「ああもうラピスラピスうるさい!」


 わたしは何も入ってないガラスのコップを机にドンと置いた。


「わたしをどれだけ色んな人に紹介すれば気が済むの!? わたしは誰とでも楽しく会話出来るような八方美人じゃない、むしろ誰と会話しても不愉快な気分になるような人間なのよ? そんな人間を次から次へと色んな人と引き合わせて……わたしを振り回して楽しい!?」


 わたしはトールにひたすら連れ回され、色んな人と引き合わされていた。


「ごめんね。次期侯爵夫人のラピスには挨拶してもらいたい人がいっぱいいるんだ」


 トールはわたしの肩に手をおき、耳元で小声で囁いた。

 そんな事は分かっている。分かっているのだが、それにしても休む暇なく社交し続けるのはきつすぎた。

 王子の婚約者時代はわたしは自分からそんなに社交をしなかった。わたしの悪名が轟いていたせいで、あんまり話しかけてくる人もいなかったし。

 ……わたしは今までそういう事をサボりすぎていたのかもしれない、と思わなくもなかった。


 それにしても普段はわたしと話す人は委縮していたり、逆に臨戦態勢な人が多い。

 しかし、今回はトールに嫁入りした事情が事情だから、尚更どんな態度でこられるか分からないと思っていたのに、何故か今日は気遣わしげな態度をとられる事が多かった。

 何故だ。本気で不思議だ。わたしもお義父様との約束を守り、普段より大分人に対して丸く接していたとはいえ。


 とりあえず、ひたすら連れ回してくるトールにはイライラがたまっていた。

 トールにも事情があるのだから仕方ない? そんな事は分かってるが、わたしは悪役令嬢なのだから理不尽な八つ当たりもするのである。


「分かっていますわ、トーヴァ・アーゲンスト様!」


 わたしは嫌みを込めて、わざと敬語・本名・様づけのコンボで、トールに返事した。

 普段むすっとした顔ばかりしてるわたしの渾身の作り笑顔もお見舞いしてやる。

 わたしだって元公爵令嬢、社交の基本・作り笑顔ぐらい出来るのである。


 本名呼びは以前にやった事があったが、めちゃくちゃ嫌がられた覚えがある。精々嫌な気分になるといい、けっ。


 トールは表情が固まる。


「ラ、ラピス。今度埋め合わせするから、そういうのはやめてもらえるかな」

「あら、そんなに慌ててどうされたんですか? トーヴァ様」

「ラピスにそういう態度をとられると落ち込むし、調子が出ないんだよ……っていうと君には逆効果なのかもしれないけど」

「ふふふ、トーヴァ様はよく分かってらっしゃいますね」

「……はぁ」


 トールは深い深いため息をついた。


「そういう意地悪ばかりするなら、今夜は添い寝だけじゃ済まさないよ」

「……え」


 わたしはトールの言葉の意味を理解すると、顔が青くなった。


「それはやめて、トール。今夜は何も手は出さないって約束でしょ」

「あはは、よかった、元の喋り方に戻ってくれて」

「……はぁ。わたしを脅すなんて、トールの癖に生意気ね」

「ごめんね、連れ回してる分のお詫びは本当に後でするから」


 社交も次期侯爵夫人の役目の一つだ。だから、トールが謝る必要なんてないし、埋め合わせをする必要ももちろんない。

 なのに、こいつは本当に申し訳なさそうな顔をしている。


「トール、あんたって馬鹿ね」


 そういってわたしはデコピンした。


「いたた。ラピス、急になに?」


 トールは額をおさえる。

 大して力もいれてなかったので、これはただのオーバーリアクションだろう。


「痛めつけがいのある額だと思ったのよ」

「酷いなぁ」

「何イチャイチャされてるんですか、お二人さん」


 聞き覚えのある声がわたし達2人に話しかける。

 こいつは確か……。


「ソルト、久しぶり」

「お久しぶりです、トーヴァ様」


 そう、ソルトといったか。

 コンチネンタル領出身の、トールの友達だ。

 学園内ではトール相手にもっと砕けた喋り方をしていたけど、ここは社交の場。伯爵家の人間であるソルトと侯爵家のトールの身分差が、それを許さないのだろう。


「ソルトはコンチネンタル領に戻ってきてたんだ」

「はい、今は学校が長期休暇なので」

「そういえばそうだったね。君がコンチネンタル領にいる間、予定が空いてるなら、後で個人的に会う?」

「いいですよ、こっちに戻ってきてるのは俺だけじゃないんですけど、どうせならみんなで遊びませんか?」

「いいね、そうしようか」


 トールもソルトも顔が広く、学校にいるコンチネンタル領の人達の多くと仲が良いらしかった。ちなみにわたしは当然の如く友達はいない。


「そうだ、あっちにこっちに戻ってきてる学校の奴らがいるので、ちょっとその辺の話の打ち合わせをしませんか?」

「一通りの人に挨拶はしたから、別にいいけど……ラピスを一人にするのは心配だな」


 そういってトールはわたしをチラリとみた。

 わたしはトールの言葉に疑問に思う。


「……一通りの人って、さっきわたしの事誰かと引き合わせようとしなかった?」

「え?」

「さっきわたしに声かけてたじゃない。「ラピス、あそこに」って」


 まぁわたしがぶちギレてトールの案内は未遂に終わったんだけど。


「あぁ、あれはあそこのテーブルに美味しそうな食べ物があるよって言いたかったんだ。別に誰かと引き合わせたかった訳じゃないよ」

「なんだ、そうだったの」


 じゃあわたしが怒ったのは微妙に空振りだったようだ。


「お二人のお話は終わりましたね。……トーヴァ様どうされますか?」

「せっかくの話だけど、断らさせてもらおうかな。ラピスを一人にする訳にはいかないし」

「トーヴァ様は相変わらずラヴィニア様を大切にされてますねー。まぁ、結婚した今なんて特に大手をふってラヴィニア様を贔屓できるんですから、当然か」

「……わたしはむしろ一人になりたいぐらいだから、さっさとオトモダチの所にいってあげたらどう?」


 トールはわたしとの結婚のためにコンチネンタル領に帰ってきた。だから、トールと王都にいる学校の友達を物理的に引き裂いたのはわたしだ。

 その事にまぁ、責任を感じなくもない。


 せっかく一緒にいられるタイミングがあるなら、せいぜい楽しんでくればいいのだ。

 が、トールは強情だった。


「いや、そんな訳にはいかない。社交になれていないあなたを一人にするのは不安だよ」

「社交になれてなくて悪かったわね!」

「悪いとはいわないし、今日の慣れない事を頑張るラピスはすごく可愛かったよ。でも、社交場において危なっかしいあなたを一人にはしておけないんだ」

「……あんたとずっとべったりっていうのも息がつまるのよ。それぐらい、分からない?」

「別に、結婚する前も後もこれぐらい一緒にいた事はあったじゃないか」

「それはそうだけど!」


 何て分からずやな男なんだ、トールは。せっかく学校の友達と久しぶりに話せるんだから、そっちに行けばいいのに。


「うわぁ、過保護ですね、トーヴァ様。あんまりベタベタしすぎてもラヴィニア様に嫌われますよ」

「別にいいよ、ラピスが変な事になるよりはマシだから」

「大丈夫だと思いますけどね……まぁでもトーヴァ様がそうおっしゃるのなら、俺は退散しますか」


 どうしよう、このままじゃソルトがいってしまう。

 ……その時、わたしの頭にある閃きが走った。


 こういえば、トールを撒ける筈だわ!


「あーあ、何か頭がくらくらしてきたわ。それにお腹も体の間接も痛むし。これは体調不良ね、駄目だわ」

「……ラピス」


 トールは呆れた目でわたしを見る。

 早速仮病がバレているのだろう。でも構わない、目的さえ達成できれば。


「もうパーティーに出れそうにないわ。自分の部屋で休むわね。じゃあね、トール、ソルト」


 一通りの社交は終わってるだろうから、パーティーから抜けてもいいでしょう。

 こうすれば、たるいパーティーからも抜けられるし、トールも友達とせいぜい好きに話せるだろう。


 ……いや、普通パーティーの主催者の家の者が仮病で抜けるのはアウトか?

 まぁいい、元々パーティーなんて出たくなかったのだし。それに中々に悪役令嬢のわたしらしい行動だと思う。


「待って、ラピス。体調が悪いなら部屋まで送っていこうか?」

「使用人に送ってもらうからいいわ。……ヤマナ、体調不良なわたしを部屋まで送ってってもらっていい?」

「あ、はい。かしこまりました!」


 たまたま側にいた使用人のヤマナに声をかける。


「じゃあトール、また後で会いましょう」

「……気遣いに感謝するよ、ラピス」

「え?あ、あ~……そういう事?俺、悪い事しましたね」


 トールはおそらくわたしが友達の所にいかせる為に仮病を装った事が分かってるんだろう。恐らくソルトもトールの反応で察している。

 トールはわたしの耳元にそっと口をよせ、囁いた。


「でも、今回は本当に疲れてそうなのもあるし、自室に行くのを許すけど……そういう気遣いは、これからは本当に無用だから。僕がラピスを友達より優先するのは、僕が好きでしてるんだよ」

「……っ!?」


 優しげだけど、どこか咎める色をもった声にわたしはへたりこみそうになってしまう。

 しかも、付け加えられた「続きはベッドの上でね」という囁きがとんでもなく甘い声で、わたしは顔が赤くなってしまった。

 ……あああ、トール相手に照れるだなんて屈辱だ。


「ヤマナ、早く行きましょう」

「かしこまりました、ラヴィニア様」


 わたしはヤマナを引き連れ、その場を後にした。

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