表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/53

デートのはじまり

 髪よし、化粧よし、服装よし、とわたしは鏡の前で確認をしていた。

 今は朝9時。コンコン、と部屋がノックされる。


「トーヴァです。昨日の夕食で話した通り、お迎えにあがりました」


 約束通りの時間にトールはやってきた。


「入っていいわよ」


 わたしはクローゼットの奥の方にしまわれていた白いレースと緑の裏地が映えるワンピースを着ていた。

 「町に行くのはお忍びで行くので、平民に混じれるような服装で来てくださいね」とトールにいわれていた故のチョイスだ。


 前から何で悪くないデザインではあるけど、こんな庶民が着そうなものまで用意されてるの、と思っていたのだが、こういう時の為だったのだろう。丈が短いが、制服でそういう服には慣れているので問題ない。……まぁ制服でもここまで丈が短くはなかったけど。


「よくお似合いです、ラピス様。服がラピス様の愛らしい顔立ちをよく引き立たせていますね」

「愛らしい?お世辞の中でも初めていわれたわ」

「お世辞じゃありません。それと、ラピス様は鮮やかな化粧とドレスが目をひいていたので、かわいい系か綺麗系だとしたら、綺麗系といわれる事が多かったんじゃないでしょうか」


 鮮やかな化粧とドレス……言い換えればケバい化粧と濃すぎる配色の赤ドレスだ。


「もちろん、あれはあれでお美しかったですよ。でも、素の顔立ちはかわいい系なのだと思います」

「……あっそ。だからこのクローゼットの服もそういうチョイスだったのね」


 やけに可憐な服が多いと思っていた。


「ええ。僕が選びました」

「えぇ、この服達って、あんたが選んでたの……?」

「もちろん。一回ラピス様の服を選んでみたくて」

「着づらくなるような事実を聞きたくなかったわ」

「そうですか……そうだ、僕の服をラピス様が選ぶ事でおあいことしましょう」

「恥かきたいなら選んであげるわ。思いっきりトンチキな服を着せてやるから」

「やった、約束ですよ!」


 トールは満面の笑みだった。自分の服を選んでもらう約束をして喜ぶ男性だなんて初めて見た。しかも変な服を選んでやるっていってるのに。


「じゃあ参りましょうか、僕の奥さん」


 そういってトールはわたしに手をさしのべた。

 僕の奥さんか。慣れない呼び方をされ、わたしは憎まれ口をたたきたくなった。


「ちゃんとエスコートしないと、途中で帰ってやるから」

「あはは、王子程見事にエスコートは出来ませんけど、僕なりに頑張ります」


 トールは楽しげに笑っていた。


「ハァハァ……町はまだなの?」

「そろそろですよ」


 いつもはそこそこ距離がある場所には馬車で移動するのに、今日は歩きで向かっていた。

 腕時計をみると、もう三十分は歩いているようだった。


 朝ごはんは町で食べるという話なのに、このままでは時間的にブランチになってしまう。


「ラピス様、お疲れですか?」

「悪かったわね、体力がなくて」


 わたしは馬車を使って移動している事が多かったから、正直いって体力がなかった。


 トールはバスケ部に入っていたし、体力はわたしよりはありそうだった……ちなみにトールにどうしてもといわれ、一回だけ試合を見に行った事があるけど、まぁ特にエース級の活躍とかをしている訳でもなく普通だった。

 トールは基本そういうつまらない男である。


「すみません、いつも僕は歩きで向かっていたので、ついそうしてしまいました。帰りは馬車で帰りますか」

「ふん、今の時点でエスコートは赤点コースね。レディをデートの目的地につく前にくたくたにさせるなんて」

「そんな!?まさかこのままお帰りになるなんていわれませんよね……!?」


 トールの焦り顔をみていたら、大分溜飲が下がったので、意地悪はいわないであげる事にした。


「このまま帰ったら、ここまで苦労して歩いてきたのが無駄になるじゃない。そんな事はしないわ」

「よ、よかった…」


 トールは心底ほっとしたようだった。

 それにしても、今歩いているのは家ばかりが立ち並ぶエリアで、全く目的の町につく気配がない。いつになったらつくのやらだ。


「でも、さっきは流しちゃいましたけど、まさかラピス様が僕と出かけるのをデートと呼んでくださるだなんて……嬉しいです」

「は?もう一回それを言ったらやっぱり帰るわよ」

「ラピス様!? 生意気いってすみませんでした!」


 そういってトールは直角に礼をした。

 わたしはふふんとトールの素直な反応にいい気分になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ