三十七話
久世と共に帰る道すがら、彼女の現状を聞いた。
一ノ瀬が居なくなって、彼女がリーダーを務めていた【第十四番分隊】は解体され、そこに所属していた久世を含む隊員は、別々に配置替えされたのだ。
そして久世は現在【第十二番分隊】に所属しているらしく、そこの分隊長の指示で、なぜか桜陵学園に潜入し、実験体とやらを探していたらしい。
「なんでまた……迷い込んだ犬猫じゃないんだから、高校に居るわけないだろ」
その実験体とやらが犬猫だとしても、わざわざリスクを犯してまで、学園に潜入する理由があるのか?
「フフッ犬猫かもしれないよ? はいこれ、トップシークレットだよ」
久世は慣れた手つきで、追跡防止用の外部端末に繋げたスマホの画面を見せる。
俺はメガネのARグラスを起動し、スマホから出力されたホログラムを覗くと、それはある人物に関するレポートだった。
『掵生 レイ、男性、年齢13歳。ある排他的な村で生まれ育つ』
掵生レイ……聴いたことのある名前だ。たしか数日前に、突然現れた相場が、そんな名前を口にしていた。
『【**村】に似た村で育った彼には、人間を食べる習わしがあった。ハームフルコーポレーション、前CEOの息がかかった製薬部門が、彼の村に潜入し殺害された──』
これは掵生の来歴だろう。
『──数日後、完全武装の強襲チームが、村へ到着すると、そこに暮らしていた全ての住民、村人たちは生きたまま掵生レイに喰われていた』
そこには食べかけの住民の写真がいくつか貼られてあり、まるで大型の獣に噛まれたような歯形が残っていた。
『完全武装した強襲チームは全滅。ハームフルコーポレーション現CEO兼、代表取締役 常夜 章成の協力で『無効化』の能力者によって、掵生レイこと『獣化』の能力者の捕縛が成功した』
ここまでが掵生レイに関するレポートのようだ。
ARグラスをシャットダウンすると、スマホと外部端末を久世へ返した。
「学園にいる可能性についてなんだけど、異常者である彼の能力は、人間にも化けられるんだぁ~」
久世が言うには、掵生レイは村から出たことがなく、外の世界に興味津々で、特に学校への関心が高かったようだ。
「それで、最後の目撃ポイントから一番近い、この学園に私が潜入することになったの」
「なるほどな……」
そしてふと、久世に関する事で思い出した事があった。
「前に久世が探してるって言ってた……先生とかいう奴を見掛けたぞ。たしか新羅カンパニーに雇われてたな」
久世を見れば、目を見開き虚空を見つめる瞳には、一切の光が無く、胸元にかかったドッグタグを強く握りしめていた。
「岸本先生かな? 久しぶりに会えたら、私も嬉しいかな」
「結構がっしりした体型に、狐目みたいな切れ長の目をした中年男性だった」
「フフッ間違えなさそうだね……」
酷い憎悪を孕んだ目は、梶元にも匹敵するだろう。それだけの憎しみを向けられるような事をしたんだろうな岸本ってやつは。
「あぁ、それと金髪に角刈りと、ピアスをつけた目つきが悪い──梶元 祐貴って奴も居たな」
「え? か、梶元くん?」
久世が先ほどまでの憎悪を忘れたかのように、驚き目を見開く。
「い、生きてたの?」
「むしろ久世の方が、死んでると思われてたぞ。久世の生死については伝えてない」
「アフガンでのパイプライン争奪戦で、部隊の皆死んだか捕まったって聞いてたから……そっか生きてたんだね。えへへ♪」
「久世のその火傷、ウガンダでの負傷だって聞いたけど、それは本当なのか?」
仲間の生還を聞き、一転して嬉しそうに微笑む久世が、左頬に残る火傷痕を撫でながら答えた。
「うん、梶元くんも現場に居たからね。当時、衛生兵だった私は、野戦病院で治療…………っと慰安の任務に出てたの、兵員輸送の際に地雷を踏んじゃったトラックが、燃えてるなか必死に脱出したらこんな火傷が、身体の半分くらい出来ちゃったんだ」
久世の火傷には、当然だが理由があった。
そして岸本が何者なのかも、薄々分かってきた。先生と呼ばれている事を踏まえて、久世千佳は特殊部隊の養成機関出身で、岸本は教官のようだ。
さらにその岸本教官は、久世たちを過酷な戦地へ送り、挙げ句の果てに部隊が全滅すると、何事もなかったかのように養成機関を畳み、自らは表社会へ戻ったのだから、梶元に「俺たちを見捨てたカス」と言われてもおかしくない。
「その岸本が身を寄せる『新羅カンパニー』の現在の社長兼代表取締役は、総帥を殺した新羅 譲なんだが……ここ桜陵学園に居るんだ。そして恐らく、その近くに異能によって連れ去られた一ノ瀬がいる」
久世は俺の話を聞くと驚き、そして憎悪に満ちた目を向けながら、俺の手を握ると口を開いた。
「わかった……その調査、私も手伝うよ……ただし、岸本 誠二は私が殺す」
「あぁ助かるぜ久世」
夕暮れに照らされた久世の手を握り返し、ここに明確な打算を含んだ同盟が結ばれる。




