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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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三十四話

「ストップだ…………」


 聞き覚えのある声が背後から投げられた。


 視界にスノーノイズが掛かり、俺の異能『(えにし)』が突然かき消える。


「ワァオ! ミスター相場(あいば)! サプライズですね!」


 体が動き、振り返れば真っ黒なロングコートを着た中学生──相場(あいば) (りゅう)が忽然と姿を現した。


「いやぁ~ウォルト氏、会えて光栄だよ! えっと……何年ぶりだっけ?」


「ノーノー! 1ヶ月ぶりデス」


 親しいらしく、チョビヒゲと相場を握手を交わした。


「ミスター相場が来たということは……彼が約束の(・・・)来園者デスか?」


「いいや、彼は違うんだ。こちらの手違いでね」


 そう言うと俺と肩を組む相場は、頭に直接語りかけてきた。


『ウォルト氏は、今のキミに太刀打ちできるような能力者じゃない。死にたくないなら、黙っていてくれ』


「ノー! ならば暴力の罰として、この夢の国で働いてもらいマス! オーケーですね?」


「あぁ~それはとっても良いアイディアだ! だけど今は、今だけは見逃してくれないか?」


 相場が交渉をしている。


 それが意味するのは、あのふざけたチョビヒゲが、いつもふざけた相場に近い実力を持っている事を意味するのだろう。


 チョビヒゲはふざけた奴だ。だがその能力に隙は見えず、アルヴァスも能力に囚われている。


『キミの考えた事は正しい、ウォルト氏に異能で作った鎖は有効だ…………だが、そのルールの穴は、そのままにしておいて欲しいんだ』


 脳内に響く声が、俺の行動の正しさを肯定してくれるが、ルールの穴をそのままにして欲しい、ということは……相場はいずれ、チョビヒゲをどうにかするという事か?


「フーむ……私に利がありませんネ……」


「特大な利があるさ。僕に恩を売れる……これは、何人も叶えることのできない利だ──」


 砂嵐のノイズに覆われた相場の口元が、僅かに笑んだ気がした。


「──僕に恩を売れなかった男は300年も生き延びて、僕に不老不死を求めてきたよ。フフッ……ただの気まぐれだったのにね?」


 普段は飄々(ひょうひょう)とした、ふざけた様子の相場の声が1トーン低く、言葉には真剣な重みがあった。


 相場の言葉を聞いたチョビヒゲが、整えられた髭を撫で、笑みを浮かべながら肩を竦める。


 俺は慌ててアルヴァスの手を掴むと、チョビヒゲが指をパチリと鳴らす。


 すると霧がみるみる内に晴れていき、逆に笑顔の群衆とチョビヒゲは霧の中へと飲まれていった。


***


 異界から抜けると、俺たちは何故か遊園地『夢の国』から退場しており、巨大な駐車場内に居た。


 前回、異界から抜ける瞬間意識を失った俺のように、アルヴァスが突然倒れてしまい、フードをずらした相場が小さなため息を吐く。


「はぁ~まいったな。まさかキミたちが、彼の異能の影響下に居たとは……(ひとみ)さんくらいなら何とかなるんだけどね……なまじ話が通じる相手だから」


 顔を出しているはずの相場の顔に、相変わらず砂嵐のようなノイズが入っており、現実感の無い姿と、焦った様子のない相場に軽い呆れを覚える。


「助かった……のか? 一応、礼は言っておく」


「いやいや~こっちのミスだからね。まさかこっちの世界線にも居るとは、思ってなくてね」


 重要そうなキーワードを並べているが、コイツは俺に通じないことを知っていて話している。気にするだけ無駄だが。


 ひとみ……という名前には引っかかる。最近、どこかで聞いた名前だ。


「相変わらずテキトーな奴だ。ところでひとみ(・・・)さんってのは誰だ?」


「あれ? この間戦ったでしょ? (ふぁん) (ひとみ)、16歳……『歪んだ妄想(バロック)』の能力者で、異界(・・)持ちの……いわゆる『上位者』さ──」


 あの病院で戦った女を、相場は知っていた。


 異界についても、上位者と呼ばれる存在も。


 当然なのかもしれないが、相場は俺の人生──過去や未来まで見聞きしているだろう。


「ちなみに僕も、上位者(・・・)に分類されるよ? 異界だって作れるし~他の上位者とだって、余裕で戦える……まぁ戦わないけどね?」


 ヘラヘラといつもの調子に戻ってきた相場が、乗っていたセダンを指差す。


「相方は、まだグロッキーだし、僕が運転してあげるよ! ATだよね……」


 オートマチック車な訳がない。


 海外ではAT車は、普及していないので、外国人が多く占める組織(・・)の車は基本マニュアル車だ。


「AT車なわけないだろ……MT車は運転できないのか?」


 能力者として完璧に見える相場(あいば) (りゅう)の意外な弱点に、内心ニヤニヤが止まらない。


「そうか……僕はAT車限定の免許しかないからなぁ……まぁ乗ろうか」


 後部座席にアルヴァスを寝かせ、俺は助手席に乗り込むと、運転席で何かをぶつぶつ唱える相場の姿に、ペーパードライバーという言葉がしっくりくる。


 見た目が中学生で、身長が低いためか、目一杯座席を前へ動かしていた。


「本当に大丈夫なのか?」


「ん? 心配? 僕はこのまま運転してみようと思ったけど……まぁ無免許運転はまずいよね?」


 こいつのチャレンジ精神には呆れた。


「はぁ……変われ、一応俺だって運転くらいできる」


 もちろん無免許だが、一般的な車両の運転は、クローン人間として短い生を受けた為に、最初から備わっている技能だ。


「いや! 大丈夫だよ! こう見えても、車の運転は100年以上してきたからね」


 嘘か冗談か、エンジンを掛けて半クラからアクセルを踏み込む一連の動作は静かで、二速発進なのにまるで高級車かのような静かな走り出しに驚いた。


「冗談かと思ったが、まさか本当に100年も乗ってるのか?」


「あはは! 理屈を説明すると難しいんだけどね」


 そう言って道中語り始めた相場の能力の一部に驚いた。


 相場(こいつ)は、(とき)を操る事しかできないと考えられていて、氷華や組織(・・)では、時間を操る能力者として知られている。


 だがその認識は少し違うと、相場本人から伝えられはしたが、実感は沸かなかった。


 時間だけでなく、次元をも操る。相場は平行世界に存在する自分と、肉体から記憶、精神に至るまで共有しており、必要に応じてその道の達人に至った自分と共有していたのだ。


 つまり嘘でも冗談でもなく、100年以上運転を極めた自分と、肉体、記憶、精神を共有して運転しており、その運転は極致に至っている。


 

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